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#71. 新大陸の鳥獣たち *h₁éḱwos [zebra/ῐ̔́ππος/अश्व]

イギリスが海外進出するようになるまで外国の産物の名前は、アラビア[剌]語・ペルシャ[斯]語・ラテン[羅]語・ギリシャ[希]語由来のものが、直接的にはフランス[仏]語・ポルトガル[葡]語・スペイン[西]語から英語に入って来ていた。

アフリカ
 Camel 古英語期から
  (羅←希←西セム祖語 *gamal-)
 Chameleon 中英語期から
  (羅 “lion on the ground”)
 Elephant 1340
  (仏←羅←希←アフロ・アジア語族)
 Giraffe 1594
  (仏←伊←剌←斯 “pipe-flute leg”)
 Zebra 1597
  (伊・葡←羅 “wild horse”)
 Gazelle 1600's
  (仏←剌 “delicate”)
 Aye-aye 1781
  (仏←マダガスカル語 “I don't know”)
アメリカ
 Armadillo 1577 (西 “armored”)

アフリカにも生息している動物がラテン語で名前があるのは、地中海沿岸を支配していたローマ帝国時代から知られていたからだろうか。

カメレオン (chameleon) の語源が「地を掃うライオン χαμαί (khamaí, “on the earth, on the ground”) + λέων (léōn, “lion”)」というネタは意外に子どもウケする。ギリシャ語のこの語彙はアッカド語のなぞりらしい。実はカメレオンはインドにも生息していて、現地語名がちゃんとある गिरगिट (girgiṭ)、でも語源は不詳。

キリン (giraffe) の fe 部分が Pyajama の pa と同じだったとは驚き (zurnaという楽器のような足という意味)。アラビア語の زُرَافَة (zurāfa) から来ているが、زُرنَا (zurnā) ラッパみたいなフルート+ پَا (pā) , “leg”) 足 という意味。確かにキリンの足はそんな形かもしれない。というか、着目するところがそこ?

シマウマ (zebra) は ラテン語の equiferus から来ている。equus (“horse”) + ferus (“wild”) で、wild horse という意味。ラテン語の equus (“horse”) は印欧祖語で *h₁éḱwos と再建されており、Skt の अश्व (áśva) 、ペルシャ語の اسپ (asp) とつながる。アシュワガンダというアーユルヴェーダで使われるハーブがあるが、अश्व (aśva, “horse”) +‎ गन्ध (gandha, “smell”) で「馬の匂い」を意味する。*h₁éḱwos → *ekwos → equus +‎ ferus → equiferus → *eciferus → ezebrario, cebrario → enzebro, ezebra, azebra → zebra, zebro。英語の equine (馬の) はラテン語から来ている。

ウマの印欧祖語 *h₁éwos/ekwo- について見ると、グリムの法則で ḱw- は hw- になるので、古英語での対応語が eoh。ギリシャ語ではもちろん ῐ̔́ππος (híppos) だ。ヒンディー語の  घोड़ा (ghoṛā) とその語源の Skt घोटक (ghoṭaka) はドラヴィダ語起源のようだ。horse は 印欧祖語 *ḱr̥sós (“vehicle”) からで別系統の語彙になる。馬はやはり遊牧民にとって重要な家畜なのか、印欧語族の多くの言語に共通単語が見られる。

スペイン・ポルトガル・フランスが海外進出をすると、新大陸で新たに発見された動物の名前は、今度はそれらの言語経由で入って来るようになる。しかし、17世紀以降、今度はイギリス自ら海外に赴いたため、直接現地語から英語に入ることになる。

アメリカ
 Raccoon 1608
  (アルゴンキン語 “scratchers”)
 Opossum 1610
  (アルゴンキン語 “white dog”)
アジア
 Cheetah 1774
  (ヒンディー語 “colored”)
アフリカ
 gnu 1777
  (コエコエ語 オノマトペ)
オーストラリア
 Possum 1613 (Opossumより)
 Kangaroo 1773 (グーグ・イミディル語)
 Wombat 1798 (ダルク語)
 Koala 1808 (ダルク語 “no water”)
 Wallaby 1826 (ダルク語)
 Wallaroo 1826 (ダルク語)
 Kiwi 1835 (マオリ語 オノマトペ)
 quokka 1928 (ヌンガー語)

※バージニア・アルゴンキン語はポウハタン語 (ポウハタンは部族名) はとも呼ばれることがある。アメリカ東海岸北部からカナダにかけて居住するアメリカ・インディアンの諸語の一つ。ポウハタンの語尾の -hatan の意味は、ジェームズ川の滝近くにある岩が露出している所で、「マンハッタン」の -hatan も岩の多い地形を表しているらしい。

すべて現地語由来かと言うとそうでもなく、あまりに印象が強かったためか、愛称的に付けられているタスマニアデビル(Tasmanian devil 1843)もあったり、学術的な分類法が整備されつつあった時代背景(分類学の父 カール・リンネの分類表 『自然の体系』は1735年に発表 )もあるのか、古典的なギリシャ語由来のラテン語で命名するカモノハシ(Platypus 1799)もある。[πλατύς (platús, “flat”) + πούς (poús, “foot”)]

あるいは、出所が不明のものもある。ペンギン (penguin 1577) は、語源など気にしたことがないほど日本語にも定着しているが、出所ははっきりしないらしい。ペンギンは南極圏のイメージがあるが、南米大陸沿岸にも生息し、赤道直下のガラパゴス島にもいる。アルマジロと同じころに初出になっているがスペイン語でも現地語でもないようだ。ウェールズ語の pen (“head”) and gwyn (“white”) か、ラテン語の pinguis (“fat”) かもしれないそうだ。

KDEE の Penguin の項

パンダ (panda 1834) も出所がもうひとつはっきりしない。nigálya-pónya という現地名 (nigálya:ネパール語で現地の竹の種類の名?。pónya:チベット語で “messenger”?) が元になっていると言われるが、なぜフランス語を経由しているのかも知りたいところだ。Panda という語はヒマラヤ山嶺の民俗について詳しく研究していたBrian Houghton Hodgson氏の記録に残っているそうだ。彼は Wiilian Jones氏の思想に大きく影響を受けていたらしい。笹を食べる動物のレッサーパンダについた名前だが、笹を食べるだけが共通のジャイアントパンダに「パンダ」の代表を奪われてしまった、というのは有名な話。

シチメンチョウ (turkey 1555) とイギリスの海外進出と外来語についてのエッセイは下記を参照。

helwa コンテンツ for 「英語史ライヴ2024」
#1. 七面鳥は英語でturkey-ではトルコ語では?
#7. The English looted India

次回は印欧祖語に遡ることができる動物の名前の東西比較と、印欧祖語の故郷はどこか問題について自由研究してみたい。

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