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#116.【語源クイズ】ソケットとは?道具×動物編

Socket は ソケットレンチから電気機器のソケットやCPUソケットに至るまで、工業製品で囲まれた生活には欠かせない部品となっている。

問.英単語 socket の語源に関係する動物は次のうちどれでしょうか。

① ブタ
② ウマ
③ ウシ
④ ヒツジ












正解は①のブタ。コンセントの差し込み口がブタの鼻に似ているから、という訳ではない。ソケットの意味を辿ってみよう。

研究社 英語語源辞典 *sū-

印欧祖語 *suH- (“pig, hog, swine”)
ブタの鼻息の音なのか、*sewH- (“to give birth”) という語根と関係あるのか、アッカド語の 𒊺𒄷𒌑 (še-hu-u₂, “pig”) からなのか、シュメール語の 𒋚 (šah), 𒂄 (šaḫ) からなのかはわからないが、印欧祖語で再建されている語は*suH-だ。
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ケルト祖語 *sukkos
ブタ・ブタの鼻・それに似た形の農具の「犂(すき) plowshare」の意味。同じケルト系のウェールズ語 swch や 中期アイルランド語 の soc (“plowshare”) と比較できる。
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俗ラテン語 *soccus
英語に至るまでにフランスを経由するのだが、ガリアと呼ばれた地域に住んでいたケルト系の人々が話していたガリア語 (ゴール語 Gaulish) から俗ラテン語に借用されたようだ。
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古フランス語 soc (“plowshare”)
西ローマ帝国の崩壊以降、地域ごとに分化した俗ラテン語のうちのひとつ。俗ラテン語をもとにケルト系やゲルマン系のフランク語の影響を受ける。古フランス語も方言があり、ノルマンディー地方で話されていたのが古ノルマン語。そこに、ヴァイキングが渡来し古ノルド語も影響する。
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アングロ=ノルマン語 soket (“spearhead”)
1066年のノルマン・コンクエストによりイングランドに持ち込まれたノルマン語。古フランス語の soc に 指小辞の -et がついたもの。犂(すき)の小さいもの、(犂を槍として使っていたから)、鋤や槍の を指す語となった。
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中英語 socket, soket
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現代英語 socket
1600年頃から解剖学的な用語で使われ始める (関節の受け側の「くぼみ」)
1885年頃から電気のプラグという意味で使われる。

元になった「ブタ *sukkos」から「犂 soc」へ、そして「窪み socket」へ、2段階の意味の大きな飛躍があるように思うが、果たして本当だろうか。当時そのままの実物はないだろうが、犂がどんなものだったのかを見れば納得できるかもしれない。中世の絵は平面的で肝心の構造がよくわからないが、おそらくこんなものだったのだろう。

この刃先の部分を「ブタ」にちなんだ soc と呼んだのだが、鼻の形からなのだろうか、それともブタが鼻で土を掘り起こすしぐさをするところからだろうか。

興味深いことに、ブタを意味する印欧祖語にもうひと系統ある。今取り上げている *suH は英語の swine やドイツ語の schwein、ヒンディー語の सुअर (suar) につながる系統なのだが、もうひと系統は 印欧祖語 *perḱ-、ラテン語 porcus つまり イタリア語 porco,フランス語 porc, 英語 pork につながる系統だ。この  *perḱ- 系統のゲルマン系の単語は、英語の furrow や farrow だ。

印欧祖語      英語
*perḱ- (“to dig”) → furrow (溝)
*pórḱos (“digger”) → farrow (豚が沢山子を産む)

*perḱ-には「掘る」という意味が関係している。それと同じように「犂 soc」では「ブタ」というイメージよりも「掘る道具」というニュアンスが強かったのだろうか。現代でも、ブタの土を掘って耕す習性が利用されている。

いずれにしても、"socket" と指小辞がついた段階では、牛に引かせるものではなく、手に持って使う鋤(すき)あるいは、それを武器にした槍のことを指したのだろう (ハルバードのようなものを連想させる)。

それから農具や武具だけに限らず、ろうそく台のように先端部を付け替えるものをソケットと言うようになった。農具・武具では先端部の方がソケットで、ろうそくが先端になるが、いずれも、硬い受け側の金具のメス側ソケットと考えると矛盾がない。

そこから、「関節の窪み」という意味になり、工業製品の「ソケット」という語として使われるようになるのである。

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