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#65. メロン・ペルシコンとメロペーポン *abel- [apple]

地名由来の物品名を toponym (トポニム) と言う。toponym という単語は toponymy からの逆成 (back-formation) だ。topo は ギリシャ語 τόπος (tópos, “place”) から。-onymy は ὄνομα (ónoma, “name”) のラテン語に取り入れられた形 -onymia から。対して人物名由来のものは eponym (エポニム)。

ὄνομα (ónoma) というのは “name” という意味。「オノマトペ」と言う語の一部にもなっている。ὄνομα (ónoma, “name”) + ποιέω (poiéō, “to make, to do, to produce”) = ὀνοματοποιία (onomatopoiía)。もとは「造られた語」くらいの意味だが、特に音を真似て造られた語彙を指すようになった。ποιέω (poiéō) は poem の語源だ。なので「オノマトペ」は name-poem とも言える?!

最新の ariさんの記事を見て驚きの連続。

frankly は フランク人のように、というのは知らんかった~!romantic もそういう類の語彙か!場所や民族名起源で、ステレオタイプ的に属性を指す語彙になったものと言えば、slave (スラヴ人→奴隷)、caucasian (コーカサス人→白色人種)、gypsy (エジプト→ロマ人→放浪癖の人)。

地名由来と最近知ったのは gauze, magnet, magenta, mayonnaise など。いつか地名由来語彙をまとめてみたい。インド地名由来の繊維関連の用語については過去回を参照。

個人的に一番の衝撃は、peach が persia だったというのは驚き。知らんかった~!古ギリシャ語の μᾶλον περσικόν (mâlon persikón, “Persian apple”) から、古典ラテン語の mālum persicum になり、後期ラテン語の persica、古フランス語の pesche、中英語 peche を経由して現在の peach になった。なるほど、フランス語の pêche (ペシュ)とペルシャは確かに似ている。

というか、melon はもともと "apple" の意味だったことがさらに衝撃。 melon は 古ギリシャ語の μηλοπέπων (mēlopépōn) から来ていて、μῆλον (mêlon, “apple”) + πέπων (pépōn, “ripe”) つまり 熟れたリンゴという意味。それがラテン語で melopeponem になり、後期ラテン語でさらに縮まって melonem になり、古フランス語でついに melon となった。うぅ~む。単純に melon-pepon の最初の部分が残ったというよりは、melo-pepon 最初と最後が残るように途中なくなって縮まったということか!なお、μῆλον (mêlon) は木になる実一般のことを言うようだ。英語の apple がそうであるように。

μηλοπέπων (mēlopépōn) のペーポン(熟れた)の部分だけが発展した野菜名がある。それはパンプキンだ。πέπων (pépōn) → ラテン語 pepō → 中世フランス語 pomponpumpkin

 古ギリシャ語のメロンはリンゴ
 メロン・ペルシコン(ペルシャリンゴ)→ペルシカ→ペシェ→ピーチ
 メロペーポン(熟れたリンゴ)→メロペポネム→メロネム→メロン
 ペーポン(熟れた [太陽が調理した]果物)→パンプキン

古ギリシャ語に ἄμπελος (ámpelos) という語がある。apple に近いようだが意味はブドウの木で、リンゴではないようだ。英語の apple に繋がる印欧祖語の *h₂ébōl/*h₂ébl̥/*abel- にギリシャ語の ἄμπελος (ámpelos) は関係していないようだ。ギリシャ語の μῆλον (mêlon) も語源は不明。印欧語根の *abel- はゲルマン・ケルト・バルト語派では全く意味のブレや派生がない一方、インド・イラン語派にはこの語根から派生したものがない。一方、ヒンディー語の सेब (seb)、ペルシャ語の سیب (sib)、Sktの सेवि (sevi) の語源は、インド・イラン祖語 *ćáyHwaH “precious; treasure” さらに 印欧語根 *ḱéyH-weh₂/*ḱeyH- に遡るかもしれないが、ヨーロッパ方面とのつながりはないようだ。

野生のリンゴは印欧祖語時代にはあまり知られた果実ではなかったのだろうか。インド語派の果実系の語彙はドラヴィダ語由来のものが多い気がする。これはどういうことだろう...。機会があれば果実名の語源をまとめてみたい。


おまけ ~Persian の語源~
ペルシャ語で ペルシャを指す "Pārsa"。どんな意味があるのかはっきりとは分かっていないらしいが、イラン祖語  *párcuš (“rib”) や Skt पर्शु (parśu, “rib; sickle”) と関連があるとする説もあるようだ。*párcuš は 印欧祖語 *pérḱus (“chest, rib”)。Sktで पार्श्व (pārśva) は、脇や肋骨、鎌のように曲がったナイフのことを指すので、インド語派から見て隣国(脇)にあった戦闘的なイラン語派の民族を指して言った語なのかと想像してしまう。ダニエル書で出て来る世界強国を表す獣で、バビロニアの次に出てくるペルシャを表しているとされるのが、3本の肋骨をくわえた熊(ダニエル書7:5)というのは偶然だろうか。

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