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#67. アライグマ出没注意! ärähkuněm [racoon]

夕方、道を走っているとアライグマの一家が横切ろうと道の真ん中ぐらいまで出て来ていた。タヌキとアライグマはパッと見た目で見違え易い。山が近いのでタヌキもよく見かけるが、出会った一団は尻尾の模様から確実にアライグマだった。市のホームページを確認すると、外来種の有害鳥獣として被害に注意する呼びかけがあった。

アライグマracoon の語源は、バージニア海岸地域のネイティブ・アメリカン、ポウハタン族の言葉でärähkun (ärähkuněm “he scratches with his hands”) から arocoun と英単語になったところかららしい。「ärähkuněm」の響きが「アライグマ」になんとなく似ているのも面白い。

arocounの語頭の a- が落ちてracoonになるのは opossumpossum になったのと似ている。オポッサムもポウハタン語 (意味は“white dog”) だ。ちなみにオポッサムは北アメリカの動物、ポッサムはオーストラリアの似た動物と言うふうに指すものが変わっていく。racoon と rake、意味と響きが似ていることにも引っ張られてa-が落ちたのだろうか。

タヌキの英訳がracoon dogなのは姿が似ているから。アメリカ大陸に到達してracoonと言う言葉が入った後にタヌキとで会ったのでこうなったが、先にタヌキが英語に入った後にアメリカ大陸に行っていれば、tanuki bearなる単語もあり得たかもしれない。まあそれはないだろうけど…。

タヌキはヨーロッパ・アメリカにはいなかったが、ソ連時代に毛皮を取るために移入されたビンエツタヌキが野生化してヨーロッパの東寄りに生息しているらしい。北アメリカにしかいないはずのアライグマが日本に分布を広げているのと同じように。

各国語でタヌキはracoon dogのなぞりが多いのに対し、ドイツ語でタヌキはMarderhund [Marderテン+hundイヌ] と言い、イタチ科の動物テンの名前にイヌ科と言うマーカーをつけた呼び名のようだ。スペイン語ではアライグマが英国経由ではなくスペインの植民地だったアステカ語から直接来ていて mapache と言うので、raccoon dog のなぞりは perro mapache と言う。

アメリカ大陸の動物がスペイン語経由で一般化しているものもある。例えばアルマジロ。英語でarmedに相当するarmadoに、指小辞-illoがついて、armadillo アルマディージョ→アルマジロ。いつか、新大陸の動物の語源をまとめたい。

日本語のアライグマの語源はもちろん「洗う」仕草とその動作ができるほど前足の指が特徴的なところから。

小型でイヌ科のタヌキに似ているのに「クマ」と呼ばれるのはなぜだろう。クマは「隈」と関係があるとすれば、奥に引っ込むことが特徴の(とみなされた)動物と言うニュアンスなのだろうか。あるいは、ドイツ語のWaschbär [wasch(en) (“(to) wash”) +‎ Bär (“bear”)]のなぞりなのだろうか。ムジナと呼ばれてタヌキと混同されたアナグマもイタチ科なのにクマなので、そんなに無理はないのかも。

scratchers」と言うのは気に登った跡に爪の引っかき傷が残っているところから。KDEEにはそんなところまで載っているのだ。生態は確かにクマっぽいのかもしれない。レッサーパンダもクマ科のジャイアントパンダと一緒の名前にされるしなぁ…。

英語のbearの印欧語根は*bʰerH- ("brown")で茶色い動物のことで、beaverなど色んな動物の語源になっているので、動物の名前は最初つけられた時は本当にざっくりしていて、生態がよく知られていない場合、度々別の種のものと混同されたりもする。

インドにイタチ系の動物はマングースをはじめとしてたくさんいるが、タヌキもアライグマもオポッサムやポッサムはインドにはいないし、印欧祖語に遡る件ではないので、インド言語との比較は今回はなし。

その語源は「scratchers」と言うのは覚えておこう。器用な前足で引っかかれる恐れがあるので、アライグマに出会っても可愛いと言って近づいたりしないように!

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