第二の“神”生
それまでの生き方ががらりと変わることを、「第二の人生」と表現することがある。
変化が大きければ大きいほど、インパクトがあり興味をそそる。
生き方が、180度変わった神様がいる。
海幸彦とも呼ばれる、ホデリノミコトだ。
その第二の人生は、ちょっとした意地っ張りから始まった。
海で漁をして暮らしていたホデリ(海幸彦)は、ある日、山で猟をしていた弟ホオリ(山幸彦)から、お互いの仕事を交換してみないかという提案を受ける。
兄ホデリは断ったが、弟ホオリの再三のお願いに根負けして、一日だけ仕事を交換することになった。
当然、慣れない仕事はうまくいくはずもなく、弟ホデリは、兄から借りた大切な仕事道具の釣り針を失くしてしまうのだ。
弟ホオリは償いとして、自分の剣を鋳潰して、千五百もの釣り針を作り許しを請うが、ホデリは許さなかった。
許しを得られず途方に暮れた弟は、タイミングよく現れたシオツチノカミに導かれ、海の神ワタツミの宮に辿り着く。
ワタツミの娘トヨタマヒメと結婚し、3年幸せに過ごしたのち、ワタツミの力で探し出した兄の釣り針を携えて帰還したホオリは、ワタツミから教えられたまじないの言葉とともに、ようやく兄ホデリに元の釣り針を返した。
それ以降・・・
弟ホオリの作る田は豊作であるのに、兄ホデリの作る田は凶作が続き、生活は困窮していった。
この明暗から恨みを募らせたホデリは、ホオリを攻めに行ったが、弟はその都度、ワタツミから授けられた潮を操る二つの珠で兄を溺れさせた。
ついに観念したホデリは敗北を認め、弟の守り人となって仕えることを申し出た。
時が過ぎて・・・
古事記には、ホデリの子孫は、古代九州南部に居住していた隼人族であると記される。
隼人族の舞、隼人舞は、海水に溺れる様子を表したものだったそう。
なんとも不名誉な結末のように感じるが、宮崎県の日南市には、ホデリノミコトを今も大切に祀る神社がある。
日南市の山側、北郷町。
弟に敗れたホデリが辿り着き、治めたと言われる土地。
「潮嶽神社(うしおだけじんじゃ)」は、日本で唯一、ホデリノミコト(海幸彦)を主祭神とする神社だ。
毎年、春大祭、秋大祭が行われ、神楽や巫女舞も奉納される。
また、北郷では、海幸山幸の争いにちなみ、縫い針の貸し借りは行わないという風習が現在も残るという。
転落を経験し、海から山へ、住む場所も大きく変わったが、今、ホデリノミコトは第二の“神”生を心穏やかに過ごしているのでは、と思う。