見出し画像

最高!『死霊狩り』を読んだ!

死んだ息子が恋しいと泣いてくれるなおっかさん

なんとか一目に会えないものか

頼りまするはテトロドトキシン

ああ、昨今正にゾンビブーム

死者に捧げる詩より抜粋

ゾンビと言う言葉が一般に浸透して久しい。
広まった要因は様々考えられるが、古くはジョージ・A・ロメロ「ナイトオブザリビングデット」「ゾンビ」、我々の世代で言うと「バイオハザード」がその代表作と言ってもいい。
(個人的にはロメロのゾンビを推したい)

今回はそんなゾンビが出て来る小説の紹介だ。


『死霊狩り』

と書いてゾンビーハンター

小説は全3巻。

作者は何を隠そう、あの平井和正
平井和正と言えば、幻魔大戦エイトマンの原作、小説で言えばウルフガイや同じく幻魔大戦など、昭和のSF界、漫画界を席巻した作家だ。(個人的にはサイボーグブルースを推したい)

この小説が出版されたのは1972年。
ロメロの『ナイトオブザリビングデット』が公開されたのが1968年、『ゾンビ』が1978年だったことを考えると、ゾンビと言う言葉が一般に広まる以前からゾンビと言う単語を作中で使用しているのだ。
この辺りに平井氏の先見の目ともいうべきセンスが光っている。

元々ゾンビと言う言葉はブードゥー教の民間伝承に伝えられる、死人を使った奴隷を意味する。それが発展し、噛まれると感染したり、脳を求めて彷徨うとゆーような現在のスタイルに落ち着いている。

しかし、この小説に登場するゾンビはこのどれにも当てはまらない
この小説に登場するゾンビはズバリ、宇宙生命体なのである。

んっ?ッと思った方、待たれよ。

そう、この小説に出て来るゾンビとは人間に寄生する宇宙から飛来したアメーバ状の生命体なのだ!
作中の説明によると、既に数年前からゾンビ、(作品内ではゾンビー)たちは地球に侵入しており、あらゆる人間に寄生し取って代わることで侵略を行おうとしているのである。

そんなゾンビーの脅威から地球を守る秘密組織こそ、ゾンビーハンターなのだ。

あらすじ

主人公、田村俊夫はレーシングドライヴァー。
レース中の不運な事故によって瀕死の重傷を負うのだが、脅威的な回復能力は死の淵から彼を生還させる。
しかし、レース界に戻ったものの、一匹狼だった彼は業界から干され、彼女も奪われてしまう。

人生に絶望しかけたそんな時、海外の秘密組織からスカウトが掛かる。
試験に合格すれば大金が手に入り、レース界への復帰も夢ではない。
拒否する理由は何処にもなく、彼はその試験へ挑むことに……絶海の孤島で行われた入団試験は想像を絶するものであった。
ナイフだけを持たされ、着の身着のままジャングルに放り込まれ、2週間生き抜くというのだ。

ジャングルには腹をすかせた猛獣がわんさと爪を砥ぎ、そこかしこで非情な罠が待つ。
同じ試験に参加した人間が次々と死んでいく中、田村はジャンジーラと言う美女と林石隆という中国人と出会う。
参加した1000人中20人も生き残らないという壮絶な試験を何とか生き延びた田村達は正式にゾンビーを抹殺する組織、ゾンビーハンターに任命される。

死線の最中、片目と片腕を失ってしまう田村だったが、高性能義眼と鉄をも砕く義手を手に入れ弱るどころかパワーアップ。
さあ、ゾンビー退治だ!と思った矢先、田村は最高司令官Sに「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨て、金を持って日本へ帰ってしまう。

彼が帰るのには深い理由があった。
それは唯一の肉親である姉の存在だ。
姉を養うため、彼は悲願であったレース界に復帰する。
かつての恋人も戻って来て順風満帆、ゾンビーの事なんか忘れてやったぜと言わんばかりに一時の幸せを謳歌する田村。
しかし、そんなある日、帰宅して見ると恋人と姉がいない。
誰かに連れ去られてしまったのか、田村は手がかりを元に姉の元へ駆けつけるが時すでに遅し、彼の姉は何者かによって惨殺されてしまっていたのである。
大凡人間では考えられない殺し方で止めを刺されていた姉にふと、ゾンビーの事が頭をよぎる。
姉はゾンビーに殺されてしまったのだ!

では、一体誰がゾンビーに………
はい、みなさんもうお分かりですね、そうです。
かつての恋人が実はゾンビーだったのである!
銃弾をものともせず、鉄の扉を引き裂き、人間を解体する凄まじいパワー。

田村は怒りと躊躇いの混じった感情で静かに恋人を射殺する。
唯一の肉親をゾンビーに殺された田村は行く当てもなく、再びゾンビーハンターへと戻っていくのであった………

っと言うのが一巻の大体のあらすじだ。

どうだろうか、個人的にはもう堪らんと言う展開が次々に起きて行くので始終ニヤニヤしてしまった。
この如何にも少年漫画的でワクワクドキドキさせる展開と設定の数々。
正に「こーゆーんでいいんだよ」と言った感じである。

平井和正氏の作品は自身でも言っている通り、『人類ダメ』というテーマが多く散見される。幻魔大戦やサイボーグブルースもそうだろう。
「人類はもうだめだぁ――ッ!」という人間の在り方について考えさせられる作品が非常に多い。
その側面はこの作品でも顕著にみられる。

例えば、本作の敵は一見すればゾンビーである。
ゾンビーと言う外敵を排除するという話なのだから当然だ
しかし、読者全員が敵意を抱くのは司令官の

ゾンビーハンターの最高司令官であるSは目的の為なら手段を択ばない部下を道具のようにしか思っていない、非人道的なキャラとして描かれている。

一方のゾンビーはどうかと言うとラストで衝撃の事実が判明する。

そう、この作品。
兎に角、ラストが衝撃的過ぎて、思わず電車の中で「えっ!」っと言ってしまった程だ。
ネタバレ満載でご紹介しよう。

見所その①『衝撃のラスト!』

最終巻となる3巻のラストではゾンビーハンターの秘密基地があるゾンビー島が舞台となる。
原子力発電で稼働していたこの島だが、ある日謎の事故で発電機が故障。
ライフラインが断たれた島では、数々の暴動が起きSの統制が効かなくなっていた。
Sは非情にも数十人のゾンビーハンターと自身だけを島から脱出させ、その他職員を島ごと吹き飛ばす計画を実行に移す。

しかし、田村と林だけはこれを拒否。
2人で島を吹き飛ばす爆弾を解除するつもりなのだ。

爆破が刻一刻と迫る中、田村はかつて抹殺したと思っていた善良な女性ゾンビーと邂逅。
彼女はゾンビーが決して地球を侵略しに来たわけではないと彼に諭し始める。
ゾンビーと人間は元々同じ生き物。遥か昔に宇宙へ進出したゾンビーたちは驚異的な進化を遂げ、地球人と共生する為戻って来たのだ。
しかし、ゾンビーたちはまだ共生になれておらず、田村の姉を殺したゾンビーのように錯乱状態に陥ってしまう者もいるという。ゾンビーが凶暴になるのは宿主が凶暴だからというのである。

つまり、本当に恐ろしいのは人間。そんな人間を救うためにゾンビーたちはやって来たのである。

真実の数行↑

そう、ゾンビーは敵では無かったのだ!

度重なる戦闘で荒んでいた心が一気に戻って来る田村。
ゾンビーと言う進化によって人類は更なる発展の時を迎えるのだ。

しかし、時すでに遅し。
爆弾を解除する為、悪戦苦闘していた林は呟く。
S、貴様の勝ちだ

爆弾は解除できず、島に中性子が降り注ぎ全ての生物は死に絶えた!

追記
てっきり、核爆弾で木っ端微塵になったかと思ってましたが、そうではなく中性子によって生物は全て殺傷されてしまったという事をご指摘頂きました。(読み直すと確かに書いてた……)
つまり、ゾンビーと共生したものは生き残れる……という可能性が微レ在?

衝撃の数行↓

開いた口が塞がらないとはこのことである。
せっかく、衝撃の事実に辿り着いたと思えば、次の瞬間にはゾンビーも田村もその他大勢の職員が死に絶えてしまった。

物語は文字通り何も解決せず、終わってしまったのである!

見所その②『人間らしさとは何かを問い続ける』

では、本作が我々に何も残さないのかと言えば決してそうではない。
実のところ、この作品はゾンビーとの死闘と言うよりも、田村と言う一人の人間が失ってしまった自分を取り戻していく物語なのである(勿論、アクションシーンは沢山ある)

冷酷無比な世界最高の殺し屋になる為、田村はどんどん人間的な感情を捨てて行く。その中で起こる様々な葛藤が巧みな文章と怒涛の展開で巻き起こる。
しかし、結局人間は真にその人間性を捨てきることは出来ない田村の姿に読者は涙するのだ。

また、冷酷な機械のようなSと人間的で優しいゾンビーと言う対比は一体どちらの方が、人間らしいのかという皮肉も効いている。

見所その③『相棒、林先生に燃えて萌えろ!』

田村が葛藤と悲哀の主人公なので、物語は始終重苦しい。しかし、そこに微かな光を差し込んでくれるのが、田村の仲間、林石隆である。
彼は元中国の諜報部員だったこともあり、始終飄々として冗談や軽口ばかり言っている。
しかし、強い。そして頭が切れる。
それでも自分の事を「林先生」と言っちゃう辺りがめちゃ可愛い。
自身の経験から田村のよき師匠となっていく場面も熱い。

最初は何処かで優しさを捨てきれ無い田村を殺し屋に向いてないと叱責するのだが、田村が次第に人間性を失っていくと心配し引き留めようとしたりする。

普段はお調子者の林さんが田村に本気の怒号を響かせる場面は思わず目頭が熱くなる。

ラスト間際の2人のやり取りは是非その目で確認して欲しい。
2人の間に芽生えた友情を越えた“何か“を感じてしまいそうになるに違いない。
(正直、ヒロインは林先生だと思う)



さて長々とここまで小説の感想を書いてきたのだが、もう皆さん有無を言わさず本書が読みたくなっているであろう。
そんな皆さんは本当に恵まれている。本作は本来であれば遥か昔に絶版し、古本で手に入れるしかないものだ。

しかし、少し前にこの全3巻を一つにした合本版『死霊狩り』が新装版として再版されているのだ! 
お近くの書店に行けば必ず手に入る。
さあ行け!熾烈なゾンビーとの闘いが君を待っている!


PS:本作が面白かった人は是非、同じく復刊している平井和正氏のウルフガイを読んでくれたまえ。


#エッセイ
#日記
#コラム
#小説
#平井和正
#ホラー
#ゾンビ
#映画


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集