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あの海岸を馬で走ったりしたい【その①】

私にはちょっと珍しい趣味がある。乗馬だ。通っているわけではなく、数か月に一度ふらっと外乗するのが現在のスタイルである。

今日は、いかにして私が乗馬というものに出会い、とぎれとぎれになりながらも、その関わりを保ち続け、今にいたるのかということについて、書いてみようと思う。

そしてこの記事が、ちょっと乗馬をやってみたい人の一助になればと思う。

■人生初の乗馬体験――平塚

幼稚園の頃から、なぜか馬という生き物が無性に好きで、大きくなったら馬になりたいと言っていた。人間は馬になれないことを理解した以降は、ジョッキーになるのが夢だった。

引馬ではない形で、馬にちゃんと乗ったのは、小学校4年生の夏休み。小学生限定の、夏休み特訓みたいな回数限定のコースが、最寄駅から数駅離れた平塚にある乗馬クラブで開催されていたのだ。どこで知ったのかは忘れたが、親に連れて行ってもらったのが、最初の乗馬クラブ経験だ。

初めて乗った馬の名前は今でも覚えている。ドルフィンスルー号。色は黒鹿毛で、額から鼻梁にかけて白斑があった。馬なのにドルフィンなんだ、おかしいだろと、灼熱の馬場でこんがり黒く焼けたクラブのオーナーが笑っていた。

その乗馬クラブのオーナーをやっているオジサンは、一見農作業でもしていそうないいでたちだった。全身真っ黒に白のタンクトップを着て、グレーのもじゃもじゃ頭。小学校4年生の私はショートカットで、声もハスキーだったので、オジサンはよく「少年」と呼んでガハハと笑った。

そのオジサンは、それはそれは巧みに馬を乗りこなした。早足や駆け足なんてお茶の子さいさいで、横歩きや後ろ歩きといった馬場馬術の技術も持っていた。私は馬場の外でそんなオジサンを見ながら、長靴の中の熱を持て余すように足先で砂をいじった。クラブの周囲には田んぼが永遠のように続き、クラブハウスの玄関で猫があくびをしていた。

細かい理由は忘れてしまったが、結局その乗馬クラブに私が通うことはなかった(おそらくアクセス性の悪さではないかと思う。その乗馬クラブは、バスを1本逃すと1時間は来ないので、母と二人で田んぼのあぜ道を1時間近く歩いて帰ったこともあった)。

次に私が乗馬クラブに通うことができたのは、そこから5年ほど経ち、高校生になったときだった。

■2度目の乗馬クラブ(入会)――藤沢

高校生の頃、私はろくに部活もやっておらず(正確にいうと、軽音部だったので週に1度しか活動がなかった)、アルバイトも親の教育方針で禁止されていたので、それなりに時間があった。それで、これまたきっかけは忘れてしまったのだが、乗馬クラブが藤沢にもあるというので、しかも最寄駅から歩ける距離だというので、行ってみることになった。

藤沢にあるその乗馬クラブは、確かに最寄駅から歩いて10分程度でアクセスの良さが抜群だった。平塚のクラブよりもずっと立派な建物で、なんだかえらく高級そうな感じがした。

そもそも乗馬クラブというのは、入会金で10万円は安い方、普通20万円くらいはかかる。そこに月5000~7000円くらいの月会費と、1回(大体45分で1鞍)乗るたびに騎乗料が追加で必要だ(クラブによっては騎乗料に加え、指導料やレンタル代もかかる)。これは、月会費で馬の維持費をまかなっていて、乗るためのお金は別ですよ、という考え方に基づくもので、確かに道理にかなっているのだが、本当に乗馬は貴族のスポーツだなと思う。競技人口が少ないのに、馬という生き物を維持するのは常にお金がかかるので、どうしても一人当たりの負担が大きくなってしまうのだ。これはもはや「馬に乗りたい」と思ってしまった時点で抗えない”法”と思っていただきたい。乗馬、マジデ、金カカル。
藤沢の高級乗馬クラブも同じような感じの料金システムだったことに加えて、入会にあたり、安全ベスト(落馬時に膨らんでくれるベスト)、ヘルメット、キュロット(乗馬用のズボン)、オーダーメイドで本革の長靴まで一式そろえてもらったので、大変なお金がかかったことと思う。この場を借りて改めて親には御礼を言いたい。

ちなみに、当時買ってもらったこれらのグッズは、10年後の今でも大活躍している。ただし、安全ベストだけは、膨らむ事態にはついぞならなかったので、未だに一度も膨らんだことのないまま(すでに正常に動作するか定かではない)我が家のスーツケースにしまい込まれている。

藤沢の乗馬クラブには、約2年間、月に2回程度通っていた。結果、どこまでできるようになったか、というのが問題である。実はこの乗馬クラブに限らず、乗馬クラブというものは、「駆足」――馬の走りにはいくつか種類があって、通常皆さんが想像するであろう「パカラッパカラッ」みたいな3テンポの走りを「駆足」という――までやらせてもらえるのに1年以上かかるということをここで声を大にして伝えたい。駆足の前に「速歩」「軽速歩」という2テンポの走りができないと、駆足までやらせてもらえないのだ。乗馬を志す人には、あの「パカラッパカラッ」がやりたい!という熱い思いを抱く人も多かろうと思うが、乗馬クラブに素直に所属してしまったら、そこに至るまでにまじでめちゃくちゃな時間とカネがかかる。
※断っておくが、それだけの技量がないと危ないということなので、決して無駄と言いたいわけではないし、クラブによってさまざまだと思う。私のこれまでの経験上、せっかちな人にとっては、いささかまだるっこしい感じがするだろうな、くらいの話だ。

というわけで、私は高校生の2年間で駆足を出せるときがたまにあるかな……といったあたりで受験を迎え、無念のタイムアップとなってしまったのだ。

そして私は1年間、寝食を忘れるほど受験に没頭し、無事第一志望に合格した。受かった大学は、試されし大地――そう、北海道にあった。

その②に続く(書ききれなかった)

その③はこちら

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