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適当料理のすゝめ

決して上手くはないが、私は料理が好きだ。人に作るのももちろん楽しいのだが、今日は、自分のためだけに作る意味の分からない料理をするときの思考ステップについて書こうと思う。

 まず、冷蔵庫の使いかけやスーパーで安いものなど、使いたいメインの素材を一つ決める。これはおかずも副菜も一緒である。
 次に、これらをどのように加工するか決める。大きくは、焼くか、揚げるか、茹でるか、蒸すかだ。
 「焼く」は、さらに細分化できる。「炒める」が最も手軽だが、オーブンをつかってじっくり焼くのもありだし、魚焼きグリルで焼き目をつけるように焼くときもあるし、ホイルに包んでトースターで焼くというのもある。また、「茹でる」は、シンプルに茹でるだけというのもあるが、汁と合わせていただくなら「煮る」と表現するべきだろう。
 実際1人用を作るときは、大体の場合、炒めるか、茹でて何かと和えるか、煮る(スープにする)かである。

 そして、味付けの大まかな系統を決める。まずは大雑把に、洋風、和風、中華、エスニックで考えて、細かい味付けを決めるのだ。複数品作るときは、なるべく同じ系統で揃えるようにしている。
 焼く場合、まず油を選ぶ。大体は、洋風ならオリーブオイル、和風やエスニック系ならサラダ油、中華ならごま油だが、たまに変な油(今たまたま家にあるのはクルミ油である)を入手した時なんか、どうしてやろうかとワクワクしてしまう。
 出汁もなかなか決め甲斐がある。和風ならカツオだし、昆布だし、野菜だし、白だしなど、無限大である。洋風ならハーブ(バジル、ローズマリー、タイム……)やニンニクの有無(ニンニクは調理前に炒めて風味を出すことが多いので、使うかどうかを決める段階的に出汁枠に入れてしまっている)、中華なら鶏出汁と、八角をいれることが多い。エスニックなら使うスパイスだ(私はスパイスマスターではないので、クミンやナツメグあたりをよく使う)。
 あとは最初に決めた大まかな系統ごとに、使いうる調味料を頭に並べて、味を見ながら適当に作ることになる。私は和風で作ることが多いので、和風系統の調味料はそれなりに持っている。例えば醤油は九州の甘醤油と、例のお寺で仕込んだときにもらった生揚げ醤油の2種類がある。味噌は好きすぎてあちらこちらで買い集めてしまうので、手作り味噌に始まり、30年熟成味噌(!)、西京味噌、ゆず味噌、鯛味噌がある。このどれを使うか決めるのガメチャクチャ楽しい。味噌だけで3品くらい違うものが作れる。また、甘めの味付けが好きなので、砂糖やみりんを使うこともあるが、はちみつや水あめを使うとまた違う味になるし、時期によっては熟成したフルーツ(熟した柿を使った鳥の照り焼きは実に絶品である)を甘味に使うこともある。酢はあまり好まないのでなかなか減らないのだが、米酢と黒酢の他に、自分で梅干を漬けた副産物である梅酢があって、夏場に味を引き締めるとき使ったりする。その他のちょっとした味変要員として、柚子胡椒や山葵、山椒、梅干し、落花生ペースト(これはとある離島で偶然発見して購入し、その便利さにビビった品物である)なんかを使って味付けをしている。
 洋風で面白いのは、和風料理の料理酒がそれほど味にインパクトを与えない(と個人的に思っている)のに対し、白ワインや赤ワインは味が大きく変わることだ。なので、日本酒ほど使う頻度は高くない。あと洋風で使いうるのはケチャップやバルサミコ酢だ。ケチャップは味が強いのであまり使わないが、赤ワインやウスターソースと一緒に炒めものとして使うことが多い。また、バルサミコ酢を使うときは、醤油を一緒に使っている。バルサミコ酢だけだと甘酸っぱすぎて自分の好みから外れるので、醤油をいれると好みに近づきやすいという法則を最近発見したためである。
 中華は火力勝負みたいなところがあって、あまりこまごまと味付けしないのだが、八角を使うとかなり中華感が出るなということを最近発見して多用している。炒め物系は、大体八角と鶏だしとごま油と塩コショウだ。またその系統と正反対の優しい味わいにしたいときは、片栗粉であんかけっぽくする。使う素材によって、強い味がいい時は炒め物にするし、優しい、温かい風味にしたいときはあんかけにするという感じだ。
 エスニックは1人ではあまりやらないのだが、汁物は安定している。クミンを入れたポタージュや、魚醤をいれたベトナム風のスープをよく作る。炒め物でいえば、ターメリックを入れてカレーテイストにするほかは、よくわからないスパイスを適当に炒めてよくわからないものを生み出すくらいで、自分の中でまだ系統が確立していないので、未知の領域という感じである(ポジティブに捉えれば、やりがいがある)。

 ここまでで、私がいかに適当に料理をしているかが伝わったのではないかと思う。料理が苦手で、でも好きになりたいという人にぜひ伝えたいのだが、料理は、マジで適当でいいのだと思う(人に食べさせていいかは別として)。私は上記のやり方でいつも適当に作りすぎるので、3回中2回くらい失敗する(自分の好みじゃない味になる)し、せっかく成功しても、大体の場合は再現できない。ただ、何度も味見をしながら徐々に調味料を(適当に)足すので、自分好みの味になったときの「たどり着いた感」、これがたまらんのである。
 レシピを見ないと料理ができないという人がいるが、たぶん、上手に作ろうとしすぎなのだ。料理に正解はないし、まして自分が食べる料理なのだから、いろいろ試してみて一つずつ自分なりの好みを見つければいい。バルサミコ酢と醤油を混ぜると好きな味になるとか、和風料理の甘味はみりんじゃないものでつけるのもアリだとか、ニンニクは油でしっかり炒めた方が風味が出て美味しいだとか、そういうのはレシピを再現しているだけでは覚えないし、何より楽しくないと思う。
 台所という空間を、そうした自分好みを探す発見の場として捉えてみてはいかがだろうか。

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