〜夜風の魅力はその温度だと思う〜 2024/11/25
家に帰るために昼から夕方にかけて3時間弱電車に揺られた。
ちょうど夕陽が差し込む時間帯、夕陽を背中に受けながら東向きの席に座り車窓を眺める。
車窓の向こうにある空には夕方の東特有の色が見られた。
薄い空の青から段々と白に変わっていき、真っ白から段々と夕陽色に変わっていき、再び青に、そして藍色に。
とても綺麗な色だ。空が擬人化されたとしたら青では無くあの色をイメージカラーにして欲しい。
あの色のハンカチを持っている女性がいたらきっと好きになってしまうだろう。でも、あの色は空にしか似合わないと思う。あの色のハンカチを持っている女性がいたら少し引いてしまうかもしれない。
調べてみると、あの色、あのグラデーションは『ビーナスベルト』と呼ばれているらしい。そして、最後の藍色は地球影らしい。
『地球影』という言葉を聞くと、何故か途端にビーナスベルトへの興味が失せた。興味を持って調べたはずなのに、調べても「ふーん」としか思わなかった。
手品を見た後に意外と単純なトリックを明かされた時みたいな、面白いと思ってた映画のラストシーンだけ微妙だった時みたいな、そんな気持ちだ。
ミロのヴィーナスの腕が見つかったとしても、「ふーん」と思ってみんな興味をなくすのかもしれない。
電車を乗り換え、ボックス席に座った。
隣にはスーツのおじさんが座った。しばらくKindleで本を読んでいるとどこからかケータイのアラーム音が聞こえた。
隣のおじさんがカバンの中からアラーム音の正体を取り出す。おじさんは画面をタッチしたり電源ボタンを押したりするけれど、音は消えない。
数秒後、おじさんは音が鳴り続けるケータイをそのままカバンにしまった。
カバンの中から微かにアラーム音が聞こえ続けるけれど、おじさんは聞こえていないふりをして誤魔化していた。
その一連の動作を見た後、さっきまで立派な社会人にに見えたおじさんが不思議と小さく見えた。
家の最寄駅で降りた。
徒歩で家に向かう。学校帰りの女子高生や仕事帰りの男性と一定の距離を保ちながら歩く。周りは薄暗くて女子高生の顔も男性の顔も確認できなかったけど、「俺たちは一定の距離感を保つんだ」という同じ思いのもと、共同作業をしている感じがした。女子高生はスカートが短くて寒そうだったけど、しっかりと共同作業をしてくれて心強かった。
夜になって気温が下がり、さらに少しが風が吹いていたから寒かった。でも、冷たい空気を運んでくる風が顔を撫でると気持ちがいい。
空気が冷たいというだけで何故か新鮮な感じがする。冷たいというだけなのに清らかで澄んでいる感じがする。だから夜の風というのは気持ちがいい。
夜風の魅力はその温度だと思う。
車通りに目と耳を刺激されながら家を目指す。夜は暗いけど目には優しくない。
夜こそサングラスをかけたいと思った。
ライトを消してくれ、俺には眩しすぎる。
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