〜無言の具体性〜 2024/10/21
自分の要望を通したい時、自分の方がへりくだってお願いをする時、そういった時のお願いの仕方で「最後まではっきりと言わない」というものがあると思う。
「〇〇しちゃって……」「〇〇なんですけど……」で話を終わらせて具体的な解決策を相手に委ねるという方法だ。
説明が難しいので具体例を挙げる。
例えば、飲食店で食事をしている際に自身の不注意で飲み物をこぼしてしまったとする。とりあえず近くにあるもので拭きながら店員さんを呼んで、
「すみません、飲み物をこぼしてしまって……」
と言うだろう。この「〇〇してしまって……」の「……」より先の部分はみんな口をモニョモニョとさせてはっきりと喋らないだろう。これが最後まではっきりと言わないお願いの仕方だ。
俺もこういうお願いの仕方をしてしまう時がある。もしかしたらあまり良くないのかもしれない。でも、この「……」より先で何を言うのが適切なのかが分からない。
飲食店の例では、どうだろうか。
「すみません、飲み物をこぼしてしまって、何か拭く物を持ってきてください」
が正解なのだろうか。でも、店の方針として店員さんが片付けてくれる場合もあるからこれが正解とも言えない気がする。そもそも拭く物がサッと出てくるような店なのかもこっちからしたら分からない。
「すみません、飲み物をこぼしてしまって、拭いてください」
が正解だろうか。これはなんだか偉そうだ。自分がこぼしたくせに拭いてくれなんて言いづらい。でも、客よりは店のことを分かっている店員さんが片付けをしてくれた方がスムーズな気もする。
最後まではっきりと言わないお願いを、今日してしまった。
今日は電車に乗ったのだけれど、うっかりICカードを使って熱海を跨いでしまったのだ。
関東の西側もしくは東海の東側に住んでいる人なら分かるかもしれないけど、電車で熱海を越える場合は紙の切符を買わなければならない。ICカードで改札に入場すると、何故か熱海を跨ぐ移動ができないのだ。
うっかり熱海を跨いでしまった場合は有人の改札に行ってそこにある機械で処理をしてもらわなければならない。
別に時間のかかる処理というわけでもないし、きっと俺のように熱海を跨いでしまう人がかなりいるから改札にいる駅員さんはスムーズに対応してくれる。
スムーズに対応してくれることは分かっているのだけれど、お願いするときはちょっと気が引ける。
自分の不注意で駅員さんの手を煩わせるのは少し申し訳なく思う。
その申し訳なさからはっきりと言わないお願いをしてしまった。有人の改札に行って、
「すみません、熱海を跨いできてしまったのですけど……」
と言いながらSuicaを見せると駅員さんは
「あっわかりました」
と言って機械を操作して対応してくれた。ありがたい限りだ。
この場合の「……」のより先はなんて言うべきなのだろう。こっちの場合は飲食店の例よりも難しい。何故なら改札での対応は自分では一切手出しができないし、何が行われているのかもよく分からないからだ。
「すみません、熱海を跨いできてしまったのですけど、対応してもらえますか」
と言うのはなんだか偉そうだし、『対応』という言葉に具体性がなくて何をして欲しいのかが伝わらない可能性もある。
「すみません、熱海を跨いできてしまったのですけど、そこの機械でSuicaを読み込んで運賃を引き出してもらえますか」
と言うのは長ったらしいし、もしかしたらそこにある機械では全然違うことが行われているのかもしれない。駅員さんがやっていることや機械の仕組みを分かっていない人がこんなことを言うと駅員さんを混乱させてしまうかもしれない。
そう考えるとやっぱり「…… 」で終わらせるのが適切なのかな。無知は無知なりに間違えや失敗を素直に受け入れるべきなのかもしれない。
「……」にはたくさんの意味が込められている。
「今自分にできることはします」「申し訳ないけれど、これからの対応はあなたに任せます」「私のような人間に適切な対応をしてください」
といったように、俺たちは「……」の部分に色んな意味を込めている。
下手なことを言うよりは「……」で無言の表現をした方が要望の具体性が上がっているのかもしれない。
無言の具体性を伝えているのかもしれない。
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