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大自然が広がるザルツカンマーグート<後編>ーザンクト・ヴォルフガング

前回のハルシュタットに続いて、今回もまたオーストリアの湖水地方、ザルツカンマーグートへ行ってみよう。

ザルツブルグからローカルバスに乗って50分弱で、ザンクト・ギルゲンの街に到着する。この街が面している湖はヴォルフガング湖。湖はドイツ語でゼーというので、ヴォルフガングゼーと呼ばれている。

ザンクト・ギルゲンは、モーツアルトの母親アンナの生家があり、姉のナンネルが嫁いだ場所でもある。母親アンナの生家はモーツアルトハウスという名のミュージアムになっている。

さて、今回ご紹介したい町は、このザンクト・ギルゲンから50分ほどヴォルフガングゼーをクルーズで進むと到着する街、ザンクト・ヴォルフガング。

なぜわざわざザンクト・ギルゲンからのクルーズでの移動をお勧めするかと言うと、今から20年以上も前、初めて友人とザンクト・ヴォルフガングへ行った時、ザルツブルグからのバスの乗り換えを間違え、大変なことになったからなのだ。

その日は日帰りのつもりで、宿はザルツブルグにとってあり、チェックインも済ませていた。しかし、ザルツブルグへ戻る最終バスに間に合わなくなってしまい、帰れなくなってしまったのだ。仕方なく、ザルツブルグのホテルに荷物を置いたまま、あわててザンクト・ヴォルフガングで宿を探して一泊することにした。当時、スマホもなく、自宅のインターネットも電話回線で繋いでいた時代。オーストリアの田舎のローカルバスの時刻など、インターネットで調べられる時代ではなかった。下調べが十分ではなかったのだ。(乗り間違えた言い訳だけれど・・・)

そんな苦い経験からのスタートだったけれど、やっぱりこの街はザルツカンマーグートの中でもお気に入りの街の一つ。

ハルシュタットが落ち着いた神秘的な雰囲気の湖である一方で、このヴォルフガングゼー、そしてザンクト・ヴォルフガングの街は、賑やかな避暑地の雰囲気があるところ。観光客も絶えず訪問し、ホテルもたくさんある。そして、ホテルやレストランの建物がカラフルであったり、壁に絵が描かれていたりと、街を歩いているだけでもウキウキしてきて、ついつい可愛いお土産を買いたくなってしまう街なのだ。

その中でも有名なホテルが、日本語名で「白馬亭」と呼ばれている、Im Weissen Rössl。

かつてここを舞台にしたオペレッタ『白馬亭にて』が作られ、映画にもなったと言う。内容は、その名の通りこの白馬亭と言う名のホテルで繰り広げられる喜劇で、給仕長として働くレオポルドが、未亡人である雇い主ヨゼファに恋焦がれるも相手にされず、ヨゼファは常連客である弁護士のジードラー博士を慕っているというお話。この3人を中心としたドタバタ劇が展開されていく。

このように説明をしている私も、実はこのオペレッタも映画も見たことがない。オーストリアやドイツでは有名なオペレッタと言えども、外国人にはあまり知られていない。音楽は有名なのだろうか、と思い今回調べて見たが、何やら聴き慣れない曲。でも、この音楽と映像を見ていたら、まさに昔のオーストリアの田舎を舞台としたこの感じ、年末年始にオーストリアのテレビで放送されていたような雰囲気を思い出した。日本の定番の時代劇のような存在だろうか。よろしければ触りだけでも是非ご視聴を。


さて、そんな白馬亭は今でもホテルとして大人気。薄い黄色の建物が印象的だけれど、目を惹くような赤い別棟もある。

私は泊まったことはないけれど、湖に面したテラスで食事を楽しんだことはある。

このあたりの名物といえば、この湖で取れるツァンダーZander と呼ばれるカワカマスやサイブリングSaiblingと言われるイワナ。こんがりとグリルにするのが定番で美味しい。

ザンクト・ヴォルフガングの写真によく写っている景色は、湖沿いのこの白馬亭と街のシンボルのような存在の教会。ここを中心に歩くと迷わずに歩ける。(私のような方向音痴の者でも)

遠くの白い塔が教会、その前に白馬亭があるのです。
後ろの白い建物が教会です

さて、このザンクト・ヴォルフガングでの見どころは他にもある。この街を見守るように、標高1783メートルの山、シャーフベルクが聳え立っている。登山電車に乗って、山頂まで登ってみよう。

アプト式の赤い列車に乗っていざ出発! 遊園地の乗り物のような座席に座り、緩やかな勾配を上がっていく。

山々に囲まれた緑の草原を走る景色、どこかで見たことはないだろうか。そう、映画『サウンド・オブ・ミュージック』の中で、マリアと子供たちがピクニックに出かけたシーンで登場したのだ。

そのピクニックのシーンではないけれど、映画はこちら。

おそらく、『サウンド・オブ・ミュージック』という映画のタイトルを知らない日本人はあまりいないのではないだろうか。修道女の見習いであったマリアは、トラップ大佐の家で住み込みの家庭教師として働くことになる。母親を亡くした子供たちを、音楽を通して元気づけ、一家に明るさを取り戻していく。そして、やがて厳格なトラップ大佐と恋に落ちる。

子供たちと一緒に『ドレミの歌』を歌いながら音階を教えるマリア、妻を亡くして以来音楽に触れていなかったトラップ大佐が、子供たちにせがまれて歌う『エーデルワイス』。日本人が子供の頃から歌い、親しんできた歌が登場するが、実は、オーストリア人はこの映画を見たことがない人が多いという。

トラップ大佐は実在する人物。第2次世界大戦直前、映画の中でもナチスドイツに併合されるオーストリアが描かれている。そして、一家は歩いて山を超え、スイスに逃亡するところで映画は終わる。その後、一家はイギリスからアメリカへと亡命したそうだ。

この映画は、アメリカで作成されており、トラップ大佐の人柄や政治的思想などが史実とは違っていると言われている。また映画の最後では、山を下ってスイスへ逃げることになっているが、実際はオーストリアの山を下るとドイツに出てしまうなど地形まで間違っていると言うことで、オーストリア人にはあまり支持されなかったようだ。

オーストリア人の間で有名な『白馬亭にて』はあまり世界的には知られず、オーストリア人の間ではあまり知られていない『サウンド・オブ・ミュージック』が観光客の間で有名であると言う事実、なんだか少し残念な気持ちもする。

さて、シャーフベルクの登山電車の旅に戻ろう。35分ほどの列車に揺られ、頂上駅に到着する。

列車を降りると、真っ白な世界が広がっていた。そこは雲の上の世界だった。

やがて少しずつ視界が開けてきた。駅からさらに上まで歩くと、頂上のヒュッテに到着する。ここには泊まることもできる。レストランで少し休憩も良い。

眼下に列車が到着した駅が見える。

崖の先まで歩き、下を見下ろしてみる。雲間にヴォルフガング湖と山々が広がっている。天空に上ってきたような、息を呑むような美しさ。

標高が高いため、外気はかなり冷えこむ。シャーフベルクの山頂まで登るときは、防寒の用意が必要だ。

ここから途中駅まで歩いて下ることもできるのだが、今回は再び列車に乗って山を下ることにする。

雲の間を通り過ぎると、再び緑の草原と青い湖が見えてくる。

大自然の中を駆け抜けた登山電車の旅を終えると、日常の慌ただしさを洗い流してきたような、清々しい気持ちに生まれ変わった自分がいた。


本日も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
一緒に山の涼しい空気を感じていただけたら嬉しいです!

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