南仏の村ムジャン - しあわせが溢れるレストラン
ステキな画廊に出会えた村、ムジャン。そして、そこでのもうひとつの出会いはレストランだった。事前に予約をしていたわけではなく、またなんとなく誘われるようにして入ったレストラン。今回は誰に誘われたかと言うと、外のディスプレイに並んでいたこのぬいぐるみたち。
「え、なんか、かわいい」
かわいい物好きの私の心をしっかりとキャッチしたイヌくん(?)たちは言った。
「お腹空いているんでしょう? 中に入って食事して行ったら?」
そうよね。ちょうど夕食の時間だし。
「中にも仲間がいるの。甘いものが好きだから分けてあげてね」
あら、今度はこっちのウサギが言っている。なんだかよくわからないけれど、かわいいからここに決めた。
レストランの中へ入ると、奥の部屋に通された。明るい雰囲気でとても良い感じ。
メニューを開く。やっぱりフランスのコート・ダジュールに来たのだから、好物のシーフードをいただきたい。
まずは前菜にエビのクリーム煮。
プリプリのエビに、口の中でほんのりと甘いクリームソースが広がる。
はい、最高。
そして、私はメインも続けてシーフードの盛り合わせ。
再びグリルされた大きなエビたちとお魚。付け合わせの温野菜がまた優しい味。
はい、幸せ。
ここはシーフードだけではなく、ステーキなどの肉料理もまたおいしい。海は近いけれど、見渡せる立地ではなく、小高い坂道の村なので、街の雰囲気的にはお肉もまた良し。
そして、ワインももちろん忘れずに。あら、調子に乗って手酌でワインをついでいる人は誰?
天井の方を見上げると、入り口にいたウサギの仲間がいた。
やっぱりこの垂れ耳ウサギかわいい。あれ? この子、ウサギだよね? ちょっとピカチュウっぽいけれど。ちょうどデザートのメニューを聞きに女性の定員さんがやってきたので、聞いてみると笑顔で答えてくれた。
「ラパン lapin よ!」
やっぱりウサギだ。
デザートはクレームブリュレ。
表面はカリカリ、中は柔らかく口の中でサッと溶ける。
はい、・・・「ちょうだい!」
あれ? なんか聞こえた? そういえば、入り口のウサギが言っていたっけ? 中にいる仲間は甘いものが好きだから分けてあげてねと。でもあんなに高いところにいたら無理だよね。
と思っていると、長身の夫がサッと手を伸ばしウサギが下りてきた。
え~!
気がつくと、周りではお誕生日をお祝いしている家族や友達と気さくに食事を楽しむ人たちで賑わっていた。しあわせな気持ちがあちらこちらで溢れている。そして、店員さんもとても楽しそうに働いている。
いいな、このレストラン。絶対にまた来よう。
そう思った2年後、本当に再びやってきた。今度はランチの時間に。
しかし、入り口にはもうあのイヌくんやウサギたちはいなかった。その年は入り口全体がクリスマスツリーのようになっており、ワインのボトルがツリーに飾られていた。これもまた洒落たディスプレイ。
さて、迷わずに中に入ると、今度は手前の部屋の席に案内された。ランチはメニューが決まっており、シーフードはなかった。あのプリプリのエビをもう一度食べたかったけれど、仕方ない。今回は、オッソブッコを注文した。聞いたことのない料理名だったけれど、どうやら仔牛の煮込み料理のようだ。
楽しみ楽しみ。
注文を終え、以前はウサギが飾られてましたよね、と夫が男性の店員さんに伝えると、思いがけない答えが返ってきた。
「ああ、ウサギは食べちゃったんだ」
なんというブラックユーモア!
もうあのウサギに会えないと思うと寂しかった。
でも、そんな寂しさを感じさせない驚きの仲間が加わっていた。
天井から下がったオモチャのインテリアの奥に鳥カゴがあった。中には緑のオウムらしき鳥が入っている。これも人形だろう、と思っていたら、おもむろに店員さんがカゴを開けて餌をあげた。そして、オウムはそれをおいしそうに食べているではないか。
「本物のオウムだよ。プープって言うんだ」
店員さんは言った。
「君たちは日本人? プープは日本語もわかるはずだよ」
そう言われたら、話しかけないわけにはいかない。まずは夫が挑戦。
しかし反応なし。
「あ、プープは女性の声の方が好きなんだ」
フフフ、そうなったら私の出番。勝ち誇ったようにプープに近づき、優しく声をかける。
「プープ、こんにちは」
しかし、プープは相変わらず無視。え、日本語わかるって言ったはずなのに。
「プープ、こんにちは」
その後しつこく声をかけてみたが、反応なし。残念ながら、プープとは友達になれなかった。
がっかりした気持ちを吹き飛ばすように、料理が運ばれてきた。
初体験のオッソブッコは、想像以上に柔らかく、温かくて優しい味だった。
やっぱり、幸せ。
夫が注文したステーキもまた、肉汁が口の中に広がり抜群の満足感。
外に出てもう一度よく見てみると、クマたちがワインの木箱に入っていた。
このクマもクリスマスが終わったら食べられてしまうのだろうか・・・いやいや、さすがにクマは無理でしょう。ん? そういう問題でもないか・・・?
通りの向かい側では、お散歩中のネコさんが訝しげにこちらを見ていた。
レストランでは、おいしい食事を楽しめることはもちろん大切。そして、それにプラスアルファ何か心が動かされるものがあると、さらに幸せ感が増して、常連となっていくのだろうな。ディスプレイであったりそこで働く人の温かい気持ちであったり。
ムジャンのレストラン、ウェブサイトを見てみると、今は入り口の壁をお花たちが飾っていた。
お花に誘われるようにまたあの中に入りたいな。
本日もご訪問いただきありがとうございました。
そして、一つご報告です。前回のネコの絵がある画廊のお話を、noto公式さんの「猫のいるしあわせ」記事の中で取り上げていただきました。
本当にありがとうございました!
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