見出し画像

【レポート】11/6(水) 『ゴンドラ』ファイト・ヘルマー監督オンラインQ&A

11/6(水)にアップリンク吉祥寺&アップリンク京都で行われた『ゴンドラ』ファイト・ヘルマー監督のオンライQ&Aを動画&テキストでお届けします。オンラインですが、監督のユーモアで会場の雰囲気も和やかでした!映画の上映後のため、「ネタバレ」的な内容も含まれていますので、まだ映画を見ていない方はご注意ください。
*当日は、QRコードでいただいた質問が全部はできなかったので、後日、監督に伺った回答も掲載しました。
===

監督:皆様こんばんは。ファイト・ヘルマーと申します。
映画『ゴンドラ』の脚本、プロデュース、監督、音響、トラック運転手を務めました。
この映画は 2年前にジョージアで撮影したものです。ジョージアの谷にある村です。その村ではロープウェイが公共交通機関のように使われています。セリフのない映画を撮るには、ぴったりな場所でした。
この映画はジョージアのスタッフと一緒に作ったものです。女優のマチルド・イルマンだけ、私と同じようにドイツから参加しましたが、他の現場スタッフは全員ジョージアの方々です。

この映画はちょうど1年前に、東京国際映画祭でワールドプレミアを迎えました。
それ以降、多くの国でこの映画は上映され、60以上の映画祭で上映されています。今回また1年経って東京に戻ってこられたことを、とても嬉しく思っています。もちろんリアルではなくオンラインですが、本当に嬉しく思っています。

(東京だけでなく)京都の皆さんも映画を見に来てくださって、ありがとうございます。
本日は皆さんから質問をいただけるということで、とても楽しみにしております。

観客からの質問(映画の最後に触れています)・Q:最後、駅長は怪我をしたり亡くなったりしていませんか?

監督:少なくとも、駅長としての仕事はもうできませんね。あのシーン以降、観客の皆さんが映画の中で彼を見ることはありませんが、良心的に想像するなら、彼は今頃サナトリウムで休んでいるでしょう。

Q:幸せを感じる映画でした。役者が声を発しないことで、演出上こだわったポイントは?

監督:セリフのない映画を撮る難しさは、準備段階にあります。脚本を書く時が一番難しいです。脚本さえ書ければ、あとはそんなに難しくありません。脚本は完全にセリフのない脚本として、書かなければなりません。脚本にセリフを書いておいて現場でセリフを省くやり方は、うまくいきません。最初からセリフのない映画として脚本を書く、映像で全てを語るのだと、最初から明快にして臨めばあとは、それほど難しくはありません。
もう一つ重要なことを付け加えると、全ての俳優がセリフなしで演技ができるわけではありません。例えば、演劇をメインにしている俳優は、セリフがないととても心地が悪いと感じるかもしれません。ですので、2つ目の重要な点はキャスティングです。セリフがなくても気持ちよく演技できる俳優を見つけることが大事です。

(ネタバレ的な内容があります)Q:ゴンドラが先にあっての物語なのか、先に物語があってロケハンでゴンドラを見つけたのか教えてください。

監督:ありがとうございます。始まりは1枚の写真でした。ゴンドラの写真を見て、ジョージアまで実際のゴンドラを見に行き、それから脚本を書きました。最初は曖昧なイメージしかなかったんです。実際のゴンドラを見て「これだ!」と脚本を書きあげました。ところが撮影を始める直前になって、問題が発生しました。使うはずだったゴンドラが運行停止になってしまったんです。技術的な問題で運行できなくなったそうで、撮影直前になって代わりのゴンドラを探すことになりました。最初に撮ろうと思っていたゴンドラよりも、今皆さんが映画で見ているゴンドラの方がきれいで最終的にはよかったのですが、ただ問題はこのゴンドラは1台しかなかったのです。この映画には2つのゴンドラがどうしても必要でした。
本当は1つしかないのに、2つあるかのようなイリュージョンを映像で作るのは難しい仕事でした。また撮影にはドローンも使いました。片方のゴンドラから片方を見る映像の多くは、ドローン撮影です。グリーンバックをたくさん使って撮影して2つに見えるイリュージョンを作りました。

Q:ゴンドラが登場する映画といえば、タジキスタンのフドイナザーロフ監督の『コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って』を思い出したのですが、その映画を見たりインスピレーションを受けたりしましたか?

ありがとうございます。フドイナザーロフ監督は長い間ベルリンに住んでいたので、私もよく知っていますし、彼はいい友人でした。9年前に彼が亡くなるまで、私たちは友情を温めました。もちろん『コシュ・バ・コシュ』も見ています。実際、この映画のゴンドラは『コシュ・バ・コシュ』で使われているのと同じ型式で、(タジキスタンの首都の)ドゥシャンベで作られましたが、作ったのはジョージア人労働者です。フドイナザーロフ監督は本当にいい友人で、映画を共同製作する計画もあったんです。残念ながら早く亡くなってしまったので、この計画は実現できませんでしたが。
映画『ゴンドラ』は『コシュ・バ・コシュ』へのオマージュでもあります。
フロイナザーロフ監督のデビュー作は『少年、機関車に乗る』という素晴らしい映画です。そのネガは長い間行方不明だったのですが、彼が亡くなった後、私はモスクワに行き、この映画のロールを探し、あるアーカイブで見つけ、その後修復して今はまた見られるようになりました。
また、日本でもおそらく成功した映画だと思いますが、『ルナ・パパ』という映画もあります。

MCより:『ルナ・パパ』にはヘルマー監督の『ツバル TUVALU』に出ていたロシア人女優チュルパン・ハマートワさんが出ていますね。

監督:そうですね。彼女は私の別の作品『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』にも出ています。私の『ツバル』とフドイナザーロフ監督の『ルナ・パパ』は同じくらいの時期に撮ったものです。私が彼に見せたキャスティングの資料を見て、彼はチュルパンをキャスティングしたんですよ。実はそのせいで、私たちの友情は危機にさらされたんです。『ツバル』の撮影を数ヶ月延期しなくてはならなくなったからです。ドイツには「戦争と恋愛のためなら何をしても許される」という言葉があります。私たち映画監督はこの言葉を借りて、「戦争と映画のためなら何をしても許される」と言いたがるものです。でも私たちはすぐに仲直りしました。チュルパンは両方の映画で非常に素晴らしい演技をしてくれました。

Q:唯一意味のあるセリフは 「オーケー!」でしたが、何か意図はあるのでしょうか?

監督:まずお伝えしたいのは、私にとって重要なのは。セリフのない映画を撮るということではなく、世界中どんな場所でも理解してもらえる、ユニバーサルな映画を作ることです。世界中どの国でも理解してもらえる言葉は多くありませんが、そのうちの一つが「OK」だと思います。このOKという言葉は、吹き替える必要がありませんし、字幕をつける必要もありません。

Q:冒頭の棺桶は誰なのでしょうか?イヴァが見ていた男性と少女の写真は誰ですか?

監督:写真の男性も棺の中の人もイヴァの父親です。家を出て行った人は継母で、写真に写っている少女は子供時代のイヴァです。

Q:僕は海沿いの街の生まれですが、監督のご出身地は?監督が物語を考える時、舞台はどうやって決めますか?

監督:私は今、ノルウェーのボードーにいて、ここは海の近くですよ。私が生まれたのはドイツのハノーバーというところで、海は近くありません。今住んでいるところはベルリンで、川は流れていますが、ここも海からは遠いですね。私は旅をするのが好きなので、旅から物語のインスピレーションを得ていると言えます。

(ネタバレ的な内容があります)Q:撮影の時、車椅子の方は、実際に吊るされた状態で何往復もされたのでしょうか?

監督:このシーンに関しては トリックは全くありません。この男性は役者ではなくスタントマンなのです。たくさんのスタントマンをオーディションして、彼に決めました。普通の俳優を起用すると顔に恐れが出てしまうだろうと思ったので、あの役はスタントマンにやってもらったのです。
彼はあのシーンを演じるにあたって、一つだけ条件を出しました。車椅子をロープで吊るす作業は自分でやるということです。

Q:セリフが無いからこそ、音楽が重要だと思いますが音楽についての考えをお聞きしたいです。また、以前監督は『ABSURDISTAN』で日本人の映画音楽家・梅林茂さんと組んでいますが、その時のエピソードがあれば。

監督:私は梅林茂さんを本当に尊敬しています。彼は当時、私が問い合わせをしたら、本当にすぐに反応してくれて、2日後には東京でお会いしていました。『ABSURDISTAN』では 梅林さんと本当にいい仕事ができたと思いますし、今でもその時のことは楽しく思い出します。
『ゴンドラ』では2人の作曲家に、音楽を作ってもらっています。そのうちの1人がマルコム・アリソンです。マルコムはベルリンに住んでいて、この映画のほとんどの楽曲を作ってくれました。撮影前に作ってもらった曲もあります。撮影している最中にも音楽が必要だったからです。映画を見ていただくと分かりますが、2人の主人公はそれぞれ楽器を弾きますので、曲が必要だったんです。村人が楽器を演奏するシーンでも、その場で演奏している気分になれるように音楽を流しました。
ただ一つ問題がありました。この二人の主人公が演じる少しエロティックなシーンがありますが、マルコムはこのシーンに適した音楽を作ることができなかったんです。そこで私はインスタグラムを通じて、アイスランドのソーレイ・ステファンスドッティルさんに連絡をして曲を作ってもらいました。

監督:本日はどうもありがとうございました。様々な興味深いご質問をいただき、皆様のご質問からインスピレーションを受けることができました。最近、新しい映画を撮りました。子供向けの映画でセリフがたくさんあります。ただセリフをしゃべるのは人間ではなく、動物たちです。新作のタイトルは『AKIKO, THE FLYING MONKEY(アキコ、空飛ぶ猿)』です。4歳から8歳の子供たちを対象にした映画です。この映画も日本の皆さんに見ていただければ嬉しいです。
ムヴィオラの皆さん、通訳さん、本日はどうもありがとうございました。

追加質問への回答:

Q:音楽を聴くように映像を楽しめました。楽譜の代わりに絵コンテを作成したのですか?

監督:そうです。絵コンテ作家を雇い、映画全体をカバーする640ほどの絵コンテを描いてもらいました。何を撮るのかをスタッフに理解してもらう大きな助けになりました。絵コンテは日々のコールシートにも載せていました。

Q:ロケーションやカメラワーク以外に音、音楽がとても効果的に使われていたと思います。今回の撮影で監督自身が凄く困難だった、または楽しかったシーンがあれば、教えてください。

監督:車椅子の人が谷の上を飛ぶシーンが一番チャレンジングなシーンでした。俳優を危険にさらしたくはなかったので、この役のオーディションにはスタントマンだけを呼びました。彼が見つかって幸運でしたよ。演技力もすばらしかったので。

Q. 質問ではなく感想なので、監督にお伝えいただくだけで結構です。CGや3Dなど新しいテクノロジーが映画の幅を広げてきた面があると思いますが、そのようなテクノロジーを使わなくても新しいタイプの映画を作れるのだということに驚き感銘を受け感動しました。楽しく心温まる映画でした。素晴らしい映画を贈っていただきありがとうございます

監督: 優しいお言葉をありがとうございます。私はリアルな映像を作るのが大好きで、VFXを使うのは、そうしないとどうしても欲しい画が撮れない時だけです。
AIは映画作りを大きく変えていくと思いますが、真実のある映像を求める観客の方がいなくならないことを願っています。

Q:私の質問は主人公のニノとイヴァがあのあとどうなったのか、ということです。私の想像ではあの村を飛び出して、2人で暮らしていると思います。素晴らしい映画を作ってくださり本当にありがとうございます。私が今年観た映画の中でも特に忘れられない作品になりました。

監督:イヴァとニノは、もっと寛容な土地柄の場所に行ったんじゃないかと思います。もしかしたら日本かも!

Q:二人が各々の部屋で聞いている音楽がエキゾチックでした。どこの国のものですか?

監督: あの曲は「Oriental Love Song」と言って、マルコム・アリソンとトマス・ホルツハウゼンによる、映画『ゴンドラ』のためのオリジナル曲です。歌っているのはレバノンの歌手Maguy Keyrouz。映画の主人公たちが聞き、ハミングする曲ですね。サウンドトラック上のタイトルは「Temptation(誘惑)」。どこか具体的な国をイメージしていたわけではなく、場所と雰囲気に合わせて作った曲です。

▼『ゴンドラ』公式HP

▼『ゴンドラ』公式X




この記事が参加している募集