映画「NOPE/ノープ」 ピール監督の超力作!
現在公開中の「NOPE/ノープ」を映画館で鑑賞しました。
で、感想を書いてみようと思います。
※公開中なのでネタバレなしで感想を書きたいのですが、この映画はちょっとそれが難しい。ネタバレありです。
この作品はできるだけ事前情報を入れずに観た方がいいと思います。
気になる方はここでサクッと退避してください。
はじめに
簡単な情報です。
名前で観客を呼べる監督になった
見出しにも書きましたが、もう超力作です。バキバキに力入ってます。
ピール監督の今考えうる限りのことをすべて詰め込んだ作品といっていいと思います。
ノープ!(ありえない!)
自分は監督の過去作品の「ゲット・アウト」は観ていて、「アス」は未見なのですが、「ゲット・アウト」と比べると、ありとあらゆるものがスケールアップ!
エンタメ(ホラー要素)性とジャーナリズム(人種差別の告発)性の共存という自らの作風を損なわずに、3作目の作品でよくここまでジャンプアップしたなあと思います。
そのチャレンジ精神を評価したい。
良くも悪くも(?)話題性をもった作品をつくる監督になっちゃった。
つまり、名前で観客を呼ぶことができる監督になったと思います。
常人離れしたアイデア
映画の中身に関していうと、なんだろう、「『ハリウッドという映画業界に対する愛憎』をメタファーにした宇宙生物との対決」という、もう無茶苦茶なものなのですが、その常人離れしたアイデアがすごい。
とにかく「悪しきハリウッドの常識・慣習を壊したい」という思いと、「映画への愛情」が入り乱れていて、お腹いっぱい。
(過去の有名映画へのオマージュがあります)
自分は消化能力の衰え・弱さなのか、もうちょっとボリュームを減らしてもいいかなとは思いました。食傷気味。
131分という上映時間はちょっと長かった。2時間以内に収められたんじゃないかなと。
う~ん、でもこれは個人の消化能力の問題かなとも思うので、若い人や胃袋の大きい人ならこれぐらいヘッチャラってなるかもしれないです。
アンチテーゼが盛りだくさん
いわゆる「人種差別の告発」というピール節はこの作品でも健在で、その告発性とエンタメ性の共存という作風はピール監督の「特許」といっても過言ではないので、その作風を維持した作品づくりを推し進める資格が監督にはあると思う。
今回は「人を襲う宇宙生物との対決」という、エンタメ性としてはマックスなものを持ってきていて、なおかつ、その宇宙生物を「人種差別へのメタファー」として活用しているので、その発想の大胆さは唯一無二。
ラスト、白い宇宙生物からカラフルなリボンみたいな口が何重にも飛び出してくるところは、白から虹色ということで、わかりやすいたとえでした。
白人支配からの、さらなる「多様性」という取り込みってことですよね。
「多様性」ってとても素敵な言葉で自分も安易に使ってしまうときがあるのだけど、それでひとくくりにしてあやふやにしたり、同列にしてはいけない問題もありますよね。
これはドキッとしました。
でも今回は人種差別へのアンチテーゼだけじゃなくて、他にも盛りだくさんだったと思います。
まず主人公のOJが口下手でさえない青年だということ。
エディ・マーフィーさんの魅力が大きすぎて、黒人の人って「明るくて、めちゃくちゃ饒舌で、ユーモアがある」ってイメージだけど、この作品の主人公はそのイメージの真逆。
自分はそこがいいなと思いました。
人種関係なく、さえない奴が主人公でもいいですよね。
加えて、今回は「黒人による西部劇」という側面があって、「人種関係なく、人が馬にのって広大な土地を走る映像は気持ちいいんだよ」というジャンルへの告発もいいなと思いました。
あと銃が出てこないのもアンチテーゼですよね。
すぐ銃で威嚇しない、発砲しない。
あんな巨大な宇宙生物が襲ってきたら、まず銃を撃つのがある意味普通なんじゃないかと思うけど、それをしない。
これはハリウッド映画や昔の西部劇へのカウンターポーズですよね。
それをやったら、ただ標的を変えただけで、結局は同じなんだと。
もうそういうことはしたくないんだと。
あと、宇宙生物を倒そうとするのではなくて(ま、結果倒しちゃうんだけど)、その姿の写真を撮ってお金持ちになりたいという動機でラスト対峙するってのも新味がありました。
「倒す・倒さない」という二元論に陥るんじゃなくて、それをしたたかに利用してやるっていうのはいいなと思いました。
最後にもうひとつ。
宇宙生物に引導を渡すのが、主人公ではなくてその妹っていうところもよかったです。
主人公の父親は「女性だから」という時代錯誤な労働観で妹に馬の調教をさせなかったのですが、妹はそのモヤモヤを大人になっても抱えていて、最後その妹が宇宙生物を馬に見立てて格闘する。これもいい。
といった感じで、この作品は人種差別だけでなく、人種に関係がない古い価値観へのアンチテーゼも含まれています。
ここでは詳しく書きませんが、動物愛護の観点もあります。
先ほど「西部劇の側面がある」と書きましたが、その割に馬を使ったアクションシーンが少なくて、自分としてはもうちょっと馬のアクションシーンを観たいなと思ったのですが、これはお馬さんの負担を考えてこの割合なのかもしれない。
もっと見たいと思った自分の欲望が時代錯誤かもしれません。反省。
と、いいなと思ったところをつらつら書いてきたのですが、一方で、映像文体としてはまだ発展途中かなと思いました。
どうしても作風からかホラーやスリラー演出に偏りがちな気がします。
告発を含んだダブルミーニングの発明の方に重きが置かれていて、カットを重ねることで生まれる文体がゆるい。
そこが洗練されないとアイデアがはまらない時に作品が大きく傾いてしまうのではと思いました。ま、余計なお世話だけど。
あ、最後にアイマックスで見た方が絶対いいです。
自分は普通の2Dで見たのですが、後悔してます。
いろいろ書いてきましたが、「何も考えずに映画を楽しむ」という余白もある映画です。カタルシスもあります。
とにかく、ほんといろんなものが詰め込まれてるんだから!
げっぷ!
総合評価 ☆☆☆
☆☆☆☆☆→すごい。うなっちゃう!世界を見る目がちょっと変わる。
☆☆☆☆ →面白い。センス・好みが合う。
☆☆☆ →まあまあ。
☆☆ →う~ん、ちょっと。。。
☆ →ガーン!