花とアリス「バレエ」
先日、岩井俊二監督のラストレターを見て監督の映画の撮り方に惹かれた私は、「花とアリス」をレンタルしてきた。岩井監督の撮り方の何に惹かれたかというと、登場人物たちの生活が自然で、本当に存在しているかのように思わせられるところだ。こちら側は彼らのドキュメンタリーを見ている気分になる。しかし、随所に入る演出によってロマンチックなファンタジーのようにも感じられる。私たちの生活、世界と似ているようで少し違うものを見せられると不思議と惹きつけられるものだ。
特にこの世界観が「花とアリス」では感じられた。蒼井優と鈴木杏がの会話や登下校のシーンがナチュラルすぎて日常的に感じる。しかし、花が少年に「自分たちは付き合ってたんだ、だけど今あなたは記憶を失っています。」と現実的ではない嘘をついたことから物語は始まる。
この作品、鈴木杏さん演じる花が主人公らしいが、私は蒼井優演じるアリスについてたくさん感じるものがあったのでそちらをメインに書いていきたい。アリスは花に少年の元カノのフリをしてほしい。嘘をついてほしいと頼まれそれに協力するのだが、少年がアリスに好意を抱いてしまい、何回かデートを重ねることになる。その中でアリスは初めの方のデートでは
「ここ初めてデートした場所。」
「あの日ここでキスしたよね~」
など適当な嘘をつく。しかし、「花」「アリス」「少年」と海に行ったときから、「あの時○○したよね~」という発言は適当な嘘じゃなくなる。嘘なのだが嘘ではないのだ。
【少年と】過去に行ったことかと問われると嘘なのだが、実際アリスは違う人物と行ったことがある。彼女は父親とかつて遊んだことを少年に全て話しているのだ。「海で、トランプやったよね。」その後、トランプが風で飛ばされる。「これに乗ったんだよ。」と言いながら公園にある小さな子供が乗る乗り物にまたがる。しかし、その乗り物はお金を入れても動かないし、見た目もかなり錆びている。どう考えてもその乗り物に乗ったのは小さいころのアリスだ。きっとその時は父と一緒にいたのだろうと予想することは難しくない。そして、公園デートの最後に「ところてん食べたよね~」と少年に言う。これは、最近入学祝いのために父と会った時のことを言っている。しかし、この発言によって少年に「元カノだという嘘」ついていたことがばれる。そして、少年に海でハートのAを探した時の事を聞かれる。
「本当は見つけてないよね。ハートのA。」
彼は海でハートのAを見つけていたのだ。にもかかわらずアリスがハートのAを見つけたと言っていたので、嘘をついたのではないかと疑っていた。しかし、アリスは嘘をついていなかった。本当に見つけていたのだ。それでは少年が見つけたハートのAは何だったのか?彼はアリスに海で拾ったトランプを見せる。それを見たアリスは最初「種類が違うじゃん」と笑うが、何かに気づき涙をこぼす。そう。それは父親と海に行ってトランプをした時のものだったのだ。おそらく、彼女は入学祝いで食事に行ったとき、父親が海でトランプが飛ばされたというアリスとの思い出を覚えていなかったことが怖かったのだと思う。相手が忘れてしまうと、「あれ?自分の思い込みかな、勘違いかな。」となってしまうものだ。それが怖かった。だから父親との思い出は思い込みではないと確かめるために少年とのデートと重ねていた。それがトランプによって思い込みで作られた思い出じゃないことが確実に分かったのだ。記憶とはそれくらい危うい物なのである。それに関しては少年が記憶喪失と思いこまされてることにも通じてくる。
そして、この作品の一番の名場面と言っても過言ではない蒼井優のバレエシーンだ。この作品を通して、アリスは本当の自分を隠しながら何かを演じていた。そのアリスの演技は誰から見てもぎこちないし不格好に見えた。しかし、彼女が制服を着て紙コップで作ったシューズを履いて不格好ながらも飾らない素の姿で踊ったバレエは本当に美しかった。あの5分間はただただ惹きつけられた。
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