<試写>生田斗真主演 映画『渇水』 人生は渇くから、自分なりに水を与えなければならない
どうも京都支部の今村です!
今年も上半期が終わりかけ。早速暑くなってきてもはや夏という感じですね。
今回はそんな夏にぴったり、「水」が重要なテーマになる作品、『渇水』を紹介します。
ストーリー
日照りが続くある夏、市の水道局に勤める岩切俊作は、水道料金を滞納している家庭や店舗を訪ね、水道を停めて回る日々を送っていた。県内全域で給水制限が発令される中、岩切は二人きりで家に取り残された小学生の姉妹と出会う。蒸発した父、帰ってこない母。電気とガスはすでに停止していた。子供たちの最後のライフラインである水までも停めてしまっていいのか?岩切は親との関係に悩んだ子供時代や、妻と一緒に実家に帰ったまま戻ってこない幼い息子を姉妹に重ねて葛藤しつつも、規則に従って停水を執り行う──。
息子への愛情表現がわからない夫との間に、溝ができてしまった岩切の妻・和美には尾野真千子。姉妹の母親で、夫に蒸発され生計を立てようとするが、うまくいかない有希には門脇麦。岩切の同僚の木田に磯村勇斗、料金滞納者の一人に宮藤官九郎、水道局の課長に池田成志など、一級品の演技で魅了する豪華俳優たちが顔を揃えた。さらに、しっかり者の姉と天真爛漫な妹に扮する山﨑七海と柚穂の健気な姿が、私たち大人に避けてはならない問いを突き付ける。 やがて幼い姉妹との交流をきっかけに、自らの心の渇きと正面から向き合った岩切の中で何かが変わる。岩切が選んだ思いがけない行動とは?
「渇き」とは?
作品に登場する人物のほとんどがみな「渇き」に直面しています。作中の舞台となる前橋市ではなかなか雨が降らずに水不足が続き、生田斗真演じる岩切ら水道局の節水呼びかけや止水処理などで市民は渇きを覚える。そしてそれにより浮き彫りになってくるのが、人間の「内面的な渇き」です。
この作品を見て印象的だったのは、上のようなことを表現するためのメタファーとしての「水」の使い方です。
例えば、山崎七海、柚穂の演じる2人姉妹。貧しい暮らしの中で彼女たちは母親からの愛情不足を心のどこかで感じながらも、疑うことなく賢明に振る舞う。母親がなかなか帰ってこなくても「すぐ帰ってくる」「髪を切ってもらう」と前向きに考えようとするが、心の潤いは徐々に渇いていた。そして、家の停水処理をされ、公園でも水が手に入らなくなったのと同時に、2人の、特に姉の心は渇ききってしまう。
生田斗真演じる岩切は、姉妹とは違い初めから渇いていた。ただ彼自身はその渇きに、自分が「渇望しているもの」に気づいていない。しかし姉妹との関わりが深まり水不足も深刻化していく中でその渇きも次第に顕在化していく。
遂に見えた自分が望むものに、岩切がどのように向き合っていくのか。彼の渇いた人生を、恵みの水は潤してくれるのか。
本作では人物の内的な部分の起伏があるときには必ず外的な水関連の変化があり、この2つが綺麗に当てはめられているところを、ぜひ注目していただきたいです!
社会的な脚本が私たちに伝えることは
今作の脚本は、20年以上前に発表された小説を基にしていながら現代にも通じるテーマ性を孕んでいます。それは、貧困格差、育児放棄、売春、行政制度などの社会的なもの。
パッと見ればどこも潤っているように見える社会でも、少し隅に目をやるとそこには確かに渇いた部分がある。私たちはそれを無視するのではなく水をあげなければいけない。私はこのようなメッセージを受け取り、現代社会での人との関わり方というものを力強く問われた気がしました。
注目シーン
ぜひ注目してほしいのは物語中盤、姉妹が金魚の餌を買うために街中でお金を探すシーン。そこで姉はタバコを吸っている女子高生に声をかけられる。「いい男紹介しようか?」それを聞き逃げるように走った2人の背中を見ながら彼女は「上手いこと逃げろよー!」と言う。その後、別のシーンでは彼女が知らない男と腕を組み歩くところ(おそらくパパ活)が岩切らの背景としてぼんやりと映る。
作中において、彼女は渇きと潤いの「中間」の役割を担っているのではないかと考えました。姉妹のように希望をもって潤った「子供」と、岩切をはじめ、作中に登場する希望を失い渇いてしまった「大人」。女子高生である彼女は年齢的にも「中間」で、パパ活や喫煙は、世の中に対する希望を失いつつある、すなわち渇きつつあることの象徴であるといえます。
こんなことを考えていると、私には彼女の「うまいこと逃げろよー!」が、「私みたいに渇かないように頑張れよ!」と聞こえてきました。
同じシーンでも人によって色々な捉え方があるでしょうから、鑑賞後に皆さんがどう感じたのかぜひ教えてほしいです。
以上、映画『渇水』の紹介でした!
主演の生田斗真さんをはじめ、姉妹の母親役を演じた門脇麦さん、最近話題作に引っ張りだこの磯村勇斗さんなど、ファンだという方も多いのではないでしょうか!
6月2日より順次全国公開となりますので、是非お近くの劇場に足を運んでください!
作品情報
映画『渇水』 6月2日(金)全国公開
生田斗真
門脇麦 磯村勇斗
山﨑七海 柚穂/宮藤官九郎 池田成志
尾野真千子
原作:河林満「渇水」(角川文庫刊) 監督:髙橋正弥 脚本:及川章太郎 音楽:向井秀徳 企画プロデュース:白石和彌
配給:KADOKAWA ©『渇水』製作委員会
京都での上映館:T・ジョイ京都 TOHOシネマズ二条 イオンシネマ高の原
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