ディオールのドレスが着たい
映画「ミセス・ハリス、パリへ行く」
ミセス・ハリスはいったい、何歳くらいなのでしょう。時代設定は1957年で、夫が戦死していたと訃報が届きます。ドイツとの戦争中に20代だったとしたら、30代から40代前半でしょうか。生活のために、いろんなお宅の掃除を掛け持ちしています。
ずっと帰りを待ち続けていた最愛の人の戦死を告げられたミセス・ハリス。彼女を励ましたのは、仕事先のお家で見かけた、それはそれは溜息の出るような、クリスチャン・ディオールの美しいドレスでした。持ち主から「500ポンドする」と聞いて、ミセス・ハリスは貯金を始めます。ディオールのドレスを買うという、生きる目的を見つけたのです。なんて前向きなんでしょう!
でも、目的に向かって行動するミセス・ハリスに、さまざまな外的圧力が襲いかかります。極めつけは、やっとたどり着いたパリのディオールで門前払いを食らうこと。ディオールの古参マネージャーをイザベル・ユペール様が演じておられます。ユペ様との対決はミセス・ハリス持ち前のパーソナリティで事が運び、夢のオートクチュール・ドレスを注文することに。この映画の見どころのひとつがドレスということは、言うまでもありません。
最後まで、いろんなアクシデントが起こり続けて、さすがのミセス・ハリスもついには寝込んでしまいます。それでも立ち上がる彼女の姿は、善行をした人には善行がかえってくる王道ストーリーであっても、世の女性は励まされ、ラストシーンにはたくさんの人が感涙していました。
ディオールをはじめ高級メゾンは、香水やストッキングといった大衆にも買えるジャンルに進出することで、メゾンの継続に成功するのですが、やはりオートクチュールこそ永遠の憧れ。ふだんは仕事に行くにもスウェットパンツとスリッポンになり果てたわたしでも「きっといつかは」と、ときめきを与えてくれる、年末にふさわしい一本でした。
たくさんのドレスが登場しますが、もし着られるなら、ミセス・ハリスが最初に出合った、薄紫色のドレスがいいです。