学生時代、国鉄で乗客案内のアルバイトをしていた頃のお話。 (その2)
案内放送、初心者
駅の事務室、普段は運転主任を長として、2〜3名の職員が詰めている。
繁忙期はそれに加えて2名程の学生バイトが応援に加わる。
学生バイトは、整列乗車を促したり、行き先案内が主な業務だが、繁忙期なだけに、時には伝令に走ったり、自分の出来る範囲で職員の補助も買って出た。
今回は、その中から、駅の案内放送に纏わるお話。
接近ランプ。
ビーッというブザー音と共に接近ランプが点灯。
このランプ、ウグイス色の長方形の箱に▲●◼️の穴が開けられていて、それぞれ山陰線、上り列車線、上り電車線を表している。
今は、●ランプが点灯したので、あと数分で上り列車が到着する事を示している訳だ。
誰か鳴いといて〜
お〜い、誰か鳴いといてんかぁ〜。
お客様対応で、職員は手が離せないらしい。バイト君に声が掛かる。
放送室に入って、入線順序の書かれたカードを見ると、荷2030と書いてある。
一呼吸置いてから、パチンとマイクのスイッチを上げる。
「1番線、荷物列車、入りま〜す。」
たったこれだけである。
されど放送、声が出ない
慣れれば何でも無いのだが、初めての放送となると、こうは行かない。
誰でも、経験する訳だが‥‥
「イ、イチバ‥せっ、ニッ、ニモツレッシャ」。
側から見ると、両手を握り締めて、マイク相手に力説している。
あのぉ〜「普通に喋ったらエエから」‥、まあその内に慣れるわいな。
人前で喋る事が、どれほど恥ずかしい事か。
みんな経験して来たから気持ちは判る。
まだ声が出るだけ良い方だ。
深夜の特訓
マイクの前で声が出ず、完全にフリーズする人も居る。
顔を見たら、ブルースクリーンなっている事だろう。再起動が必要だ。
バイト学生なら、本来の業務では無いので、無理なら断れば良いが、職員ともなると、そうは行かない。
最初は音を絞って、深夜の荷物列車相手に、特訓する事になる。
「スイッチ入れへんから、マイクだけ持って普通に喋ってみィ」
ちなみに、私の場合、第一声は「業務連絡、通告券、済み」だった!
緊急事態だったから、恥ずかしがってる場合じゃなかった。
さすが、放送部
「次、一番乗り場、入ります電車、特急雷鳥号、富山行きデース‥‥」
さすが、大学で放送部のA君は上手いもんだ。聞き取りやすい速度、大切な部分の抑揚まで付いている。
職員も自分より上手いから、放送はA君に任せきりだ。
カラオケとちゃうぞ
それならば、とばかりに真似したら、「お前なァ、ここはカラオケ屋とちゃうんやぞ」と、古参職員に呆れ顔で言われてしまった。
最初の頃、恥ずかしくてマイクの前で真っ赤になっていたピュアな少年の心は、何処かへ消し飛んでいた。
最古参
今じゃ考えられないが、国鉄のバイトを始めたのは、15歳の時である。
大学も1年留年したから、23歳になるまで8年もお世話になっていた。
またまた呆れられた
「Yさん、コーヒー入りました」。若い職員が呼びに来る。
休憩室に入って、椅子に座ると淹れたてのコーヒーをカップに注いでくれた。
先に来ていた運転主任から、「お前だけやぞォ、職員にコーヒー入れさせてるのは。」と、思い切り呆れられた。
若い職員は、19歳で最近ここに配属されたそうな、で、拙者は23歳、もう8年もここに居る。
絶対なんて、無い!
国鉄職員になりたかったが、分割民営化が決まって夢は潰えた。
国鉄が無くなるって‥。
この後、30年経ってもう一度同じ目に合うとは、この時は思わなかった。
世の中、絶対に潰れない物なんて無いのだ。
その話は、また別の機会に。
関連記事
拙作、おすすめ読み物
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?