『悪い子バビー』鑑賞記録
久しぶりにnoteを書こうと思ったのはすごい人に話したいのに話すことが難しい映画を観たからです。その名も『悪い子バビー』。
製作されたの自体は1993年ですが、日本での公開は初という本作。
私がこの作品を知ったのは劇場の予告編で、たしか『悪魔の追跡』リマスターを観に行ったときだったかな。
予告編だけでもうっとなりそうな空気がむんむん漂っていて、それからずっと気になっていました。
それでも劇場という逃げ場のない場所で観るのが若干怖いのもあり、行けていない状況が続いてました。
そんな中この度観に行く勇気が湧いたのは、某映画ラジオでメンバーの皆さんが絶賛されていたから。
思っているよりハードルは低いのかも!と劇場へ向かいました。
結論からいうと、勇気を出して観てよかった、です。
うっとなることにはなったのですが、その精神的苦痛を観客に与え続けることだけが、この映画の目的なのではないと後半から確信しました。
母親に35年間軟禁され続けた男、というだけで、狂った倫理観や男が社会に出たときに受ける批判や嘲笑の絶大な精神的ダメージが予想されますよね。
個人的には母親がバビーに与えた(求めた)役割がキツすぎました。
しかも蒸発した夫が突然帰ってきて、それまではバビーとの夜の時間だけに見せていた女の顔を浮かべ、自分を正当化するために手の平を返したような変わりっぷりにはもはや絶望というか、バビーを直視できなかった…
なんやかやとあって、母親と暮らした部屋から遂に外に出ることになってからも、バビーを世間がどのように扱うのかとひやひやしながら観ていました。
ダンサーインザダーク的な、徹底的な残酷さを持って彼をすり減らしていく展開もありえるし、そうなったらもう観てられないので、、
そんな不安を抱いていたものの、映画はバビーを思いもよらぬ世界へと導きます。
バビーの設定はとても奇抜ではあるけれど、この作品には純粋な目でこの世界を見つめたらどう見えるだろうという視点があって、この世界で生きてきて同化してしまった人には見えにくいものを映し出したい、という思いがあるように思います。
そして1993年という時代の背景にあった社会情勢についても提言しているような、無神論者の話や宗教的対立の無意味さに触れているシーンもありました。
思ってたよりずっと色んな要素を含んだ作品でした。
私のように、この物語の奇抜な設定がハードルになっている人が多そうなのが残念ですね。。
実際そちらの方のインパクトはやっぱりあるので人に話しにくいのですが、私は勇気を出してよかったなと思います。
ここから先はネタバレも交えて書いていきます。
まずは蒸発した夫が帰ってきてからのこと。
バビーにとっては、初めて観る母親以外の人間、しかも自分と同じ性別で父親だという男。
小さな子がするようにバビーも父親の真似をたくさんします。
また生き物に対する興味関心や、実験精神もあります。
いいこともわるいことも、母親の歪められた倫理教育しか受けていないバビーには判断がつきません。
母親の言う通りにすることがバビーにとってはいいことです。
監視カメラなどあるはずもない部屋で、母親が帰ってくるまでじっとしていることを言いつけられたバビーは、失禁してもなおじっと母親の帰りを待っていました。
このあたりの描写が、父親が帰ってきてから少しずつバビーの中の絶対が変わりはじめていく経過としてうまいなあと思いました。
バビーの中にあるいい子の基準とそれに対する他者や自分の存在に気づき始めていきます。
いざ外へ出ると、外に生きる人間は人間で倫理観が壊れているという感じでした。
まともな人といえばバンドメンバーくらいでしょうか。
後にバビーの伴侶となるエンジェルですら、精神の牢獄のような家庭で、親からの強烈なモラハラを受け続けてきたことが分かります。
そのときのバビーは至極真っ当な発言で、エンジェルに両親とやり合います。
その他にも、自分に愛の告白をしてくれた少女のために涙を流したり、猫のためにピザをなんとか持って帰ってやろうとしたり、彼は彼なりに愛するということを学んでいたのです。
また他者の発言をそのまま暗記する彼の性質上、色んな考え方が彼の中に渦巻いていくのもまた興味深いところです。
母親は彼女の都合のいいようにイエス様がずっと見ていることをバビーに教え込んだし、またある人は気になる女性がいれば声をかけたら良いと彼に教えたり、はたまた神の存在を否定したり、、
人生を倍速再生で生き直す彼には多すぎる情報量ですね。
こういうもんなんだよ、とバビーに何かを教えるシーンを見るたびに、立場によって意見が変わることを偏ることなく教えることの難しさを感じたりしました。
またそういった渦巻く考え方にがんじがらめにされた不自由な人々から見たバビーは、はるかに自由だったんでしょうね。
その姿がエンジェルに勇気を与えたのはたしかですね。
総じて、色んな人の色んな意見が聞きたくなる映画です。
もっと知識があれば更に深く掘っていけそうな香りもします。
90年代のUKの音楽シーンとかも分かっていればなあ。
バビーが音楽の世界ではすんなり受け入れられていったのとか、たまたま時代が合ったんですかね。
今年もたくさん映画観るぞと思っているので、なんとかnoteも更新していけたらいいなと思います。(毎回言ってる気がするけど…)
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