地元愛の定義
都道府県魅力度ランキングというものがある。どんな基準でどんな項目があって、誰がつけてるのかが全く謎(皮肉)、しかも誰が誰にアンケートを取っているのか分からないものがある。毎年発表されるこのランキングで、茨城県は万年下位である。この県を一言で表すなら、「人気がない県」だと思う。
2009年に初めて開催されたこのランキングは、昨年の2021年で第13回目を迎えた。ここで目を引くのは、2009年の第1回から2021年の第13回まで、13年連続で1位を獲得している北海道だ。驚異の大会13連覇、V13である。川上哲治監督時代の巨人のV9など可愛いものだ。(因みに北海道出身の同僚に聞いてみたところ、「気にしたことがない」という無情な答えが返ってきた)
そこと対極の位置にあるのが、茨城県。昨年は47都道府県中47位、つまり最下位で、前年・2020年の42位から5つランキングを落とす結果となった。
そこで茨城県にスポットをあててみる。2009年の記念すべき第1回大会では最下位(優勝を意味するVの反対という意味で、あえて“裏V”と呼ぶ)。そこから2011年第3回大会まで3年連続最下位の裏V3を達成。翌年第4回大会では46位と惜しくも裏Vならず、裏V4を逃した。
しかし、またその翌年・2013年第5回大会に裏V返り咲き、そこから2019年第11回大会まで裏Ⅴ7を達成した。川上巨人のV9まであと少しというところで、2020年第12回大会は42位という理由が見えないランクアップ(ある意味ではランクダウン)で裏V8ならず。だが2021年第13回大会では47位に返り咲き、見事2年ぶり11回目の裏Vを達成した。
僕は、この茨城県出身だ。今は社会人として東京で一人暮らしをしているが、茨城県で生まれ高校卒業まで茨城で育った。今はご時世的に控えているが、夏休みや年末年始は実家に帰省する、地元と実家を愛する茨城県人である。茨城県人なのだから、都道府県魅力度ランキングに皮肉を言うことも、茨城県の最下位を“裏V”などと茶化すことも、許されてもいいだろう。
僕がこのランキングが発表される度に思うことは、「また今年も最下位か~」とか「まあそうだろうな」というものである。包み隠さず言えば、この万年最下位ぶりをなんなら「おいしい」と思っている。
最下位になったことで受けた恩恵(最下位は本来嬉しくないことだが、この場合は恩恵という言い方で間違いではないと思う)というと、確実にお昼や夕方の情報番組がとりあげることがある。
「なぜ茨城県は最下位なのか?」「茨城県には本当に魅力がないのか?」「茨城県の本当の魅力とは・・・」「茨城県にはこれがある!」「ここがいいよ、茨城県」などなど……
茨城がかけた罠に引っかかったやがるぜ……くらいには思っていた。
しかしここで思わぬ伏兵が現れた。茨城県知事・大井川和彦知事である。
2019年の最下位の発表の際に知事は、「県のイメージを著しく損なっている」と言っている。この年に関しては、発表の時期が台風19号の被害と重なっていたこともあり、それについても「遺憾だ」と言っている。その気持ちは分からなくもないが、別に台風被害と絡めて不快感を表明することもないだろうと思うのは僕だけだろうか。気持ちは分からなくもないが、別に台風被害と絡めて不快感の表明をすることもないと思うのは僕だけだろうか。
自然災害は避けて通れないもので、だからこそ被害を受けた県が一体となって復興へ進むべき時に、本来意図していないところでの注目を集めるのは、いいことではないだろう。(知事本人も別に注目を集めたくて言ったわけではないとは思うが、“魅力度ランキング”のトピックで発言が取り上げられてしまったのだから、結果としてはあまり変わらないだろう)
実際、県民の声も冷ややかだった。僕個人が受けた印象では、知事の表明に対する大きく賛同の声は少なかった。災害復興に向け頑張っていることは事実なんだからそれはそれ、ランキングは別に関係ないし……という人もいた。
だが、だからと言って知事に対して「余計なこと言うなよ~」と思うかと言われるとそうではない。「せっかくおいしくしてもらってるのに~」とは思うが、知事の発言をとやかく言う人などいないだろう。自身が首長を務めている県が、よく分からないランキング(皮肉)の最下位になったら、それに異議を唱えるのは普通のことだろう。
これは、紛れもなく“地元愛”だと僕は思う。
では、茨城県がランキング最下位になったことに対して県民が思う、「最下位はおいしい」という気持ちは地元愛ではないのだろうか?
先ほども書いたが、ランキング最下位になったことで受ける恩恵だってある。なんなら、ランキング中盤の中途半端な位置にランクするよりも下位の方がいいし、その下位のなかでも最下位になるのが一番いいのではとさえ思う。なぜなら、最下位であることを取り上げてもらえるから。そこから県を深堀りしてもらえるから。
ひたち海浜公園の、一面に広がるキレイなネモフィラの花畑。あれを知ったキッカケが「テレビで魅力度ランキング最下位の茨城県を取り上げていて、その中で紹介されていたから」という人は、少なくとも僕の周りには結構な数いる。これは変な言い方かもしれないが、“ランキング最下位のおかげ”だと思う。
地元のいいところが手広く紹介されれば、多くの人に知れ渡ることになる。当然嬉しいことだ。だがそれは、“ランキング最下位のおかげ”で紹介された可能性も少なくない。そのため知事のように、最下位を不満に思う県民もいるはずだ。
しかし僕と同じように、これを「おいしい」と思う気持ちを「“地元愛”なんかじゃないだろ」と思われるのは甚だ不満である。何度も言っていてしつこく思われるかもしれないが、最下位のおかげでおいしくしてもらってるのだから。
地元愛。これは思ったよりも深いテーマかもしれない。正解も定義も不明瞭な、もっと哲学的な問題になってくる可能性も否めない。
余談だが、2020年のランキング最下位は茨城県のお隣、同じく北関東・栃木県。これに対し、「栃木が最下位なんてありえない」「栃木にはいいところがいっぱいあるのに!」「このランキングは不快」「このランキング誰がつけてるの?」「こんなものは直ちにやめるべきだ!」と、ネットが荒れた。
茨城県民から一言。「うるせぇ黙れバーカ」。「誰がつけてるの?」に関してはこちとら何年も前からずっと思ってんだわ。
さらに余談。2021年に茨城県がランキング最下位になったことに対する知事の一言。
「痛くもかゆくもない」さすが我らが茨城県知事。
参考:
○地域ブランドNEWS「都道府県魅力度ランキング(地域ブランド調査2021)」
○エンタメ生活 PRIVATE LIFE「都道府県魅力度ランキング‥歴代の順位は? 2009年~現在」
○産経新聞「魅力度ランキング最下位の茨城知事「このタイミングは遺憾」 台風19号被害に絡め不快感」
○朝日新聞「魅力度最下位、茨城知事「痛くもかゆくもない」 県民へ「誇りを」」