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アメリカ大統領選挙の1週間前に映画『シビル・ウォー』を見てきた

予告編を見て「これ見たい!」と思った、映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。ぎりぎりになっちゃったけど、行ってきました。面白かったよ。そしてまさか、あの人をもう一度見るなんて・・・。


civil war とは何か?

さておき。まずはお題から。
civil は形容詞。「市民の、民間人の、民事の、国内の」といった意味。国内の war であるから、civil war は「内戦」である。
これに the が付いて the civil war になるとアメリカの南北戦争のことになる。アメリカ人にとって、「あの civil war」といえば南北戦争のことなんですね。
そして、アメリカ合衆国が経験した戦争で、一番死者数が多かったのは、太平洋戦争でもベトナム戦争でもなく、the civil war の南北戦争なのだ。人口も少ないし、武器も簡素ですくないだろうに、びっくりだよね。
アメリカ人にとって怖いのは外国との war よりも、civil war なのかもしれない。みんな強そうだしな。

アメリカは広い

舞台は近未来のアメリカ合衆国。
大統領の横暴がもとで、19もの州が離脱。ついには、カリフォルニア州とテキサス州からなる西部勢力と、連邦政府の間で内戦が始まる。
ベテラン戦争カメラマンのリーは、仕事仲間の記者ジョエル、師匠筋のサミーとともにワシントンD.C.へ向かう。連邦政府軍の敗北は目の前、最後に大統領にインタビューするためだ。
その一行に、報道カメラマンとして名を上げたい若い女性、ジェシーが無理矢理加わり、一行は一路D.C.へ。この映画はロードムービーでもあるのだ。

旅が始まってみると、国内はぐっちゃぐちゃ。
戦闘地域でなくても、関東大震災後の都内よろしく自警団みたいな組織があちこちにできているようだ。

一行が立ち寄ったガソリンスタンドでも、店主たちは銃で武装している。
米ドルはもう貨幣としての信用がないから使えなくて(こうなるとクレカもも使えないだろうね)、お支払いはカナダドルだ。日本円は・・・考えないでおく。
そして、洗車コーナーには血まみれの男が二人、略奪行為を働いたかどで吊されている。
勇ましいことを言って同行したくせに、ジェシーはカメラを構えることもできない。対照的に、リーは、自警団の男にポーズを取らせ、パシャパシャとシャッターを切る。鬼っすね・・・。

ずっとドライブを続けていくなかでは、「ホントに今戦争が起っているのだろうか」と思うような光景も目にする。アメリカ広いからね。草原や森の景色が美しい。
でも。橋の下には人が吊されていたり(おそらく死体)、内戦など我関せずで普通にカフェやブティックが営業しているような街でも、屋上から狙撃手が狙っていたりする。
夜はどんなに静かでも、ドドドドドド・・・と狙撃音が聞こえてくる。

劇伴音楽はなぜか場違いなくらいに、明るくのんきな曲が多くて、それがまたなんだか、悪夢を見ているような気にさせらる。

案の定な怖さ

道中、ところどころヒヤッとするシーンはあるんだけど、一番怖くて気持ち悪いのは、何軍なのか、そもそも軍隊なのかもよくわからない武装した男達が、大量の死体を始末するシーンだろう。
男たちはカーキ色のつなぎみたいな服を着ていて、一応チーム?である様子。
そして、トラックから穴へドカドカ落とされる死体はみな私服である。民間人の虐殺か?いずれにせよ、まともでないことは明白だ。

そして、リーたちはこの集団に見つかってしまい、リーダーから銃を突きつけられる。このリーダー、なぜか100円ショップで売っているような、安っぽい赤いサングラスをかけているんだけど、これがまたなんとも言えず嫌な感じなんだよね。人を小バカにしているみたいで。

「ちょっと待ってくれ。僕たちは同じアメリカ人だろう?」とサングラス男をなだめようとするジョエル。
サングラスの男は言うのだった。「どの種類のアメリカ人だ?」と。

順番に銃を突きつけられる一行。フロリダ、コロラド、ミズーリ・・・。
そして、銃はアジア系の人物(リーたちの記者仲間)にも向けられる。

ここがね・・・、ああもう、そりゃこうなるだろうなってわかってるじゃないですか。サングラス男はもう、別に出身地を聞きたいわけじゃないんだもの。彼がアリゾナ出身だろうが、オハイオ出身だろうが、そんなことどうでもいいのだから。
案の定、アジア系の男は恐怖で泣きながら答えようとするが、口を開きかけたくらいのところで撃たれる。この後味の悪さ。

私があの立場だったとしたら、そもそもろくに英語をしゃべれないから、「あいきゃんとすぴー・・・」くらいでバンッ!とやられちゃうんだろう。うう・・・かわいそう、私。やっぱり英語は勉強しなくては。もうこれから先、世の中どうなるかわからないんだからね。

「THE ヤバい男」はあの人でした

この赤いサングラスの男がねー、見た瞬間、「アレ?」と思ったんですよ。『憐れみの3章』でメインどころを演じていたあの人じゃないの?と。やっぱりそうでした。ジェシー・プレモンス。マット・デイモンにパン粉をまぶしたような感じの人。

『憐れみの3章』はもう、映画全体がいっちゃってる感じだったけど、こちらでも登場時間は短いのに、スゴイ存在感だ。
鼻くそほじりながら、ペロペロキャンディなめながら・・・って、実際にはそんなことはしてないんだけど、それくらいぞんざいに、どうでもよさそうに、暇つぶし感覚でパンパン人を撃ち殺す男。

見るからにキレそうとか、サイコパスっぽい感じではなくて、ちょっとずんぐりむっくりした体型の、もしかしたら普通に世間話ができるんじゃないかという雰囲気を持っているところが、この人の怖さですよ。

そしてさらに!
パンフレットを見て知ったのだが、主役のリーを演じるキルステン・ダンストと夫婦なんですね、この人!
というか、この役を演じる役者が決まってなくて、ダンストが監督に「うちの夫あいてますけど」みたいな感じで紹介したらしい。アットホームっていうのかなんなのか。そんなPTAか町内会の役員決めみたいにして決まったとは思えない、たいしたはまり役でした。

そういえば、地面に横たわる死体をエイヤとばかりに車ではねるシーンもあったなあ。これも『憐れみの3章』と同じ。『憐れみ~』では、ひかれるのは死体じゃないんだけどね。
「何これ、はやってんのかな」と思って、一瞬笑いそうになってしまいました。ヤバいヤバい。

もひとつ。最後の方、D.C.に突入したシーンで、なぜか急にリーはよろよろになっちゃうのね。疲れが出たのか、闇を見過ぎたのか、今までのトラウマみたいなものがこみ上げてきて前へ進めない。すすり泣きさえ始めたのを見て、「更年期かな?」とか思う私。
最後の最後は、本来の自分を取り戻して貫禄を見せるが・・・。そして、締め付けられるような重圧のなかで、ジェシーは急激な成長を遂げていく。その鮮やかなコントラストが見事でした。

ついでに英語のお勉強

客席はあまり混んでいなかったけど「面白いじゃないか!みんなもっとこの映画見ろ!」とか興奮状態でパンフレットも買って帰ってきた。
パンフレットのデザインは『Newsweek』かなんか、週刊誌に似せている。こういうのも凝っていて面白い。

さて、このパンフに掲載されている地図によると、この世界観ではアメリカ合衆国には4つの勢力があることになっている。

  • LOYALIST STATES

  • FLOEIDA ALLIANCE

  • NEW PEOPLE’S ARMY

  • WESTERN FORCES

この4つめの WESTERN FORCES を字幕では「西部勢力」と訳していて、「なんか座りがわるいなあ、西部同盟じゃダメなの?」と思ったのですが、わけがあったんですね。

FLOEIDA ALLIANCE の alliance が、「同盟、提携、連合」という意味なんだね。WESTERN FORCES の forces は、単数形だと force で「エネルギー、体力、腕力」のこと。『スター・ウォーズ』に出てくるのもこれですね。Sがついて、「部隊、武力集団」などの意味にもなるそうだ。
だから、WESTERN FORCES=西部勢力、という訳になったのか。FLOEIDA ALLIANCE はちゃんとした同盟だけれども(たぶん)、WESTERN FORCES は、2つの武装集団が、たまたま一緒に行動しているだけで、そんなに結束は固くないのかもしれない。

そんな危なっかしい組織に、LOYALIST STATES のトップである大統領が撃たれてしまうのだから、なんとも皮肉だ。
loyalist は「体制支持者」だから、LOYALIST STATES で「体制支持者の州=連邦政府」ってことか。もう崩壊してるわけだけど。
NEW PEOPLE’S ARMY は「新人民軍」ってところか。ウィキペディア出調べたら、同じ名前の組織があるらしい。フィリピン共産党の武闘組織だって。

並べてみるとこうなりますかね?

  • LOYALIST STATES(連邦政府)

  • FLOEIDA ALLIANCE(フロリダ同盟)

  • NEW PEOPLE’S ARMY(新人民軍)

  • WESTERN FORCES(西部勢力)

こんなのがこんなのに群雄割拠しているというんだから、こりゃ大変だというのは伝わってくると思う。
そして、最後は敵の大将の首を取らないと勝負は決まらないんだなあ。これもう、鎌倉時代と同じだね。

2024年はジェシー・プレモンスで暮れるか?

早いもので、今年もあと1カ月半になってしまった。あと1本か2本、映画を見られるだろか。もし見られなかったとしたら、私の2024年のマン・オブ・ザ・イヤーはジェシー・プレモンスになってしまう。いいけど別に。

それにしても、キルステン・ダンストとジェシー・プレモンスご夫妻は、晩ご飯食べながらどういう会話をしてるんだろうか?

※英単語、英語フレーズは、主に英辞郎Weblioで検索しています


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