【短編小説】暮らしを覗いていたい。
ホットサンドを頬張る朝に、彼はやってきた。
「こんにちは」
誰なのだろうか。彼が誰なのか私にはわからなかった。
一見するとホラーをのようだ。しかしそこには安心と慢心があった。
この人はきっと大丈夫であると。
結果から言えば、その人は大丈夫な人だった。
大丈夫な人なんて言い回しはきょうび聞かないが、
おとなしく、ひどく誠実で、できた人であった。
それから彼と暮らすようになった。
彼が来ても生活はそれど変わらなかった。
朝にお味噌汁とご飯を食べて、家の周りを散歩して。
夜に星を眺めて、幸せを携えて、布団に潜った。
ホットプレーを出して、スクランブルエッグを作った朝に、彼は去っていった。
エッグをスクランブルして、私はとても上機嫌だったのに。
次の日の朝、私はここを去った。
生活の痕跡をありったけ残して。
いつか誰かが来た時に、ここに誰かいたのだとわからせるために。
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