気分で切った。自分で自分の髪の毛を
あこがれだった。ずっと。
あごのラインで無造作に、だけど繊細に切りこまれたあの髪型に。
ずっとしたかったのだけど何となく手を出せずにいた。
きっかけになったのは先日のあるアーティストのライブだ。
そのボーカルは、まさにその髪型だった。
頭を揺らしながら無我夢中に歌う姿はある瞬間は獣のようで、ある瞬間には妖艶な女性のようで。
揺れるたび、あごのラインに切られた髪の毛が自我を持ったように動いていた。
「きっとあの髪の毛ですら計算されているんだろうな。」
そう思わせるくらいにその人の魅力を何倍にも引き出していた。
男でも女でもないような雰囲気を醸しだすあの髪型にしなければならない。
ふとそう思った私は、家に帰って鋏を手に鏡に向かったのだ。
もともと顔周りに少しレイヤーをいれてもらっていた私は
その部分を短くするだけで理想とする髪型に近付けた。
ウルフカット
世間的にはそう呼ばれる髪型だ。
好き嫌いもかなり分かれるだろう。
私は後ろの髪を長く残し顔周りを短くした。
あの時ステージから私にエールを送ってくれた人も、その髪型だった。
あの人は、意図的にウルフカットにしているのか、勝手にそうなっているのかはわからないけど。
ちょっとだけうれしくなった。
今日は本を二冊買った。
お化粧も時間をかけた。
誰にも気が付かれなくていい、これが私なりの、私という人間を保つためのやり方なのだ。
でもたぶん、家に帰ったらもうちょっと切るかもしれない。
納得がいくまでやり直しするのかもしれない。
いつだって満たされずにいるのだ。
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