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私的実測図論

なぜ今、実測図論が必要なのか?
発掘調査件数の増加に伴って膨大な発掘調査報告書が作成される昨今にあって実測図の精度や目的意識は必ずしもかつての水準が保たれているとは言えない。そのため、発掘調査報告書における実測図の公開は、記録保存を目的に作成されたもの、すなわちどのような考古資料が出土したのかを示すためのものであるという認識に基づいて、必ずしも研究者のために表現されるものではないことを指摘する。そのため、第三者が報告書の実測図を自身の研究論文に引用する場合は、各研究者個人の責任で引用すべきであって、一次資料が閲覧できるのであれば尚更、その実測図を引用した後に、その実測図の表現に致命的な誤謬があった場合は、その引用者にも等しく責任があるのであって、それを実測者の責任とすることは、研究者としての怠慢に他ならない。

そのため、以下の項目を信条とする。

① 発掘調査報告書における実測図とは、実測者の認識・技能と行政的な要請に基づいた一次資料の翻訳物である。
② 実測図を第三者が引用しようとした場合、一次資料の確認無しに引用する場合には、論文の孫引きと変わらない(例えば、原典を読まずに翻訳本の内容を引用している場合と構造的に何も変わらないということ)。
③ よって、実測図を引用する場合は、一次資料を確認のうえ、研究者自身の目的や必要に応じて修正や改変、書き換えが必要である。
④ 実測図とは、過去から現在の研究者の要請に応じて確立された表現法が踏襲されているが、それは必ずしも各研究者の目的に即したものではなく、観察対象とする属性の認識が実測図に反映されていない場合は、研究者各自の目的に即した表現法によって改めて実測図を作成すべきである。
⑤ 他人の書いた実測図を無批判に使用している研究者は一流とは呼べない。例えばそれが膨大な資料を対象とする必要がある研究であってもこの格律が無効になるわけではなく、その研究の現実的な限界である。

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