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相手を情で説得する技術 古代ギリシャ発祥の ρητορική レトーリケー(弁論術)
あまり知られていないレトーリケーについてまとめてみました。
レトーリケーとは
レトーリケーとはどういものだったのでしょうか。
もともとは弁論において聞き手を効果的に説得するための術(弁論術)のことであり、その起源は古代ギリシャにまで遡ります。アリストテレスには『弁論術』として知られた著作がありますが、これはもともとのギリシャ語では「レトーリケー」なのです。
http://dialectic.seesaa.net/article/407633208.html?amp=1
紀元前5世紀にギリシャで生み出された言葉で説得する技巧・芸術で、その目的は雄弁、すなわち、耽美的な喜び(delectare)や感情(movere)をもって議論(docere)で説得する(suadere) ということにある。
WEDGE Infinity(ウェッジ)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/3168
【弁論術の体系】弁論術は、発想(弁論の主題の理解と素材集め)、配置(素材をもとに構想を練る)、修辞(表現方法や文体を選ぶ)、記憶(弁論を暗記する)、発表(声の抑揚、身振りなど)の5部門(最も細分化した分類。記憶や発表を独立した部門としない説もある。)からなります。
— 哲学書新刊情報++ (@Philo_Shinkan) November 25, 2016
レトーリケーの歴史
古代ギリシャにはじまったレトーリケーの有名人に、イソクラテス、アリストテレス、キケロ、クインティリアヌスらがいました。
【レトリックの歴史1】弁論術は前5世紀半ばに所有権回復訴訟の中で生まれ、前5世紀末にソフィストが活躍し、前4世紀にアリストテレス(『弁論術』)が理論化し、前1世紀にキケロ(『弁論家について』等)が実践し、1世紀にクインティリアヌス(『弁論家の教育』)がその教育をまとめました。
— 哲学書新刊情報++ (@Philo_Shinkan) November 25, 2016
【レトリックの歴史2】古典古代以後もレトリックは教育で重要な位置を占め、中世には当初は弁論術の一部門であった修辞(学)が独立し7教養学科の一つにまでなりました。18世紀以降は形骸化などにより影響力を弱め、19世紀にはフランスの教育課程からレトリックが外れ、衰退していきました。
— 哲学書新刊情報++ (@Philo_Shinkan) November 25, 2016
【レトリックの歴史3】1960年代からレトリックが各方面で復興しています。言語の領域では、1.論法(発想)に着目したぺレルマンら、2.文体(修辞)に着目したロラン・バルト、グループ・μら、3.文彩(論証と文体の結びつき)に着目したグループがあります。
— 哲学書新刊情報++ (@Philo_Shinkan) November 25, 2016
イソクラテス
レトーリケーや記憶術を否定したプラトンと対峙した、イソクラテスは弁論教育を実施していました。
【イソクラテス(BC436-BC338)】
— 哲学書新刊情報++ (@Philo_Shinkan) November 23, 2020
アテナイの裕福で教育熱心な家庭に生まれ、法廷弁論代作人を約10年した後、アテナイで弁論・修辞学校を開く。
真実は知識(エピステーメー)として把握されるとするプラトンに対し、
真実の把握は人間には不可能で健全な判断(ドクサ)が実生活には有効・有益とする。
【イソクラテスの教育法】
— 哲学書新刊情報++ (@Philo_Shinkan) November 23, 2020
弁論家教育では素質、知識、練習を重視した。
具体的な教育法は以下のとおり。
1 言論での基本型の教授
2 学生同士の弁論試合
3 教師による批評・訂正
4 学生相互の批評・訂正、学生による師の作品にたいする批評
5 反対の立場の弟子に、自身の論説への評価依頼
アリストテレス『弁論術』
アリストレスは人の説得には、ethos (エトス)、pathos(パトス)、logos(ロゴス)の3種あるとしました。
「言論を通してわれわれの手で得られる説得には三つの種類がある」
「一つは論者の人柄にかかっている説得であり、
いま一つは聴き手の心が或る状態に置かれることによるもの、
そうしてもう一つは、言論そのものにかかっているもので、言論が証明を与えている、もしくは与えているように見えることから生じる説得である」
「「人柄の優れた人々に対しては、われわれは誰に対するよりも多くの信を、より速やかに置くものなのである。」
「とりわけ、確実性を欠いていて意見の分れる可能性がある場合にはそうする。」
「言論を通してわれわれの手で得られる説得には三つの種類がある」「一つは論者の人柄にかかっている説得であり、いま一つは聴き手の心が或る状態に置かれることによるもの、そうしてもう一つは、言論そのものにかかっているもので、言論が証明を与えている」(アリストテレス『弁論術』P32) pic.twitter.com/y7aGe9BvHz
— 本ノ猪 (@honnoinosisi555) May 25, 2020
「人柄の優れた人々に対しては、われわれは誰に対するよりも多くの信を、より速やかに置くものなのである。」「とりわけ、確実性を欠いていて意見の分れる可能性がある場合にはそうする。」(P32)
— 本ノ猪 (@honnoinosisi555) May 25, 2020
アリストテレス『弁論術』(岩波書店)⇨https://t.co/aWgaaLORur
出典はアリストテレス『弁論術』ですね pic.twitter.com/x1lUOGUXU4
— アマチュアムセンJI1ARIじんざい (@JI1ARI) October 8, 2020
エートスには、3つのカテゴリーがあるとしています。
フロネーシス:深い知性
アレテー:徳、美徳
エウノイアー:聞き手からの好意
キケロ
古代ローマのキケロが弁論術の5つの構成要素を述べています。
キケロにとって、レトリックは聴衆を説得するためだけでなく、個人が生きる上での倫理的、知的生活にかかわるものだった。キケロは、演説者は正直かつ話すことに長けているべきであり、歴史、哲学や詩など多面的教養が必要であると確信していた。
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https://wedge.ismedia.jp/articles/-/3168
キケロの弁論術 構成要素
inventio,(発想)
dispositio,(配置)
elocutio,(表現)
memoria,(記憶)
pronuntiatio.(発声)
#一日一キケロー
— きけろう@ラテン語学習者 (@Cicero_Orator) December 6, 2020
partes autem eae, quas plerique dixerunt, inventio, dispositio, elocutio, memoria, pronuntiatio.
それに対して、弁論術の構成要素は、大半の論者が挙げている通り、発想と配置と表現と記憶と発声からなる。
『発想論』1.9
昔のレトリックは記憶・発声まで含んだものでした
【キケロー『弁論家について』】
— 哲学書新刊情報++ (@Philo_Shinkan) November 8, 2020
アリストテレスの弁論術体系とイソクラテスの教養としての修辞学の理念とを、キケローが弁論実践のもとに包摂した思想を、
実在の人物であるクラッススとアントーニウスが
弁論の5要素に沿って論談参加者に説く様子を、
キケローが参加者から聞いた話(多分、創作)。 pic.twitter.com/gFA256RPls
文章を否定で始めたり、質問形にすることはレトリックの強力な手段で、キケロは『弁論家について』でもどんどん使って来るが、それを日本語にそのまま訳したら、レトリックになるかというと、逆にまどろっこしいだけになってしまう。
— Tomokazu Hanafusa/花房友一 (@tomokazutomokaz) April 25, 2019
クインティリアヌスの弁論術の5部門
キケロの後クインティリアヌスが有名です。
【一行人文学】
— 読書猿『独学大全』14刷26万部、『文章大全』執筆中 (@kurubushi_rm) December 4, 2016
人文知の源流である弁論術はクインティリアヌスによって1.(論題の)発見、2.構成、3.修辞、4.記憶、5.発表(今でいうプレゼン)の5部門に編成された。後に解体されてバラバラのノウハウに堕ちていき、一方で人文学は実学/実用から最も遠いものと見なされるようになった。 pic.twitter.com/pYd4Znd29h
古代弁論術の集大成というべきクインティリアヌス『弁論家の教育』では、キケロ『発見・構想論 de inventione』を引き継ぎ、次の5つの部門からなる、とされる。
1.Inventio(発見・発想) 主題をめぐる問題点を見つけだし、論証の材料や方向を見つける技術。
2.Dispositio(配置・構成) 発想によって見いだされた内容を、適切な順序に配列する技術。
3.Elocutio(措辞・修辞) 前の2段階で整理された思想内容に、効果的な言語表現を与える技術。
4.Memoria(記憶) 口頭弁論のために、仕上げられた文章を記憶しておく技術(記憶術)。
5.Actio(演示・発表) 実際に公衆の前で発表するための、発声、表情、身ぶりなどの技術。
https://readingmonkey.blog.fc2.com/blog-entry-778.html
記憶術
古代ローマで演説は原稿、メモ、カンペなどを見ることは禁止されていて、全て記憶する必要がありました。
キケロの著作 ”de Oratore”『弁論家について』によればケオスのシモーニデースが記憶術の名人であったとされています。
ちなみに読書と記憶術の具体的な状況です。
中世、記憶と再生と創造のために発案され、工夫されてきた方法は、ほとんど記憶術と書物術をめぐっている。
何をどのようにどこに記憶し、それによってできあがった知の配置をどのように保持し、引っ張り出せばいいのか。それらをどういうときに変形させ、そして、すべての知の作用をどんな「カテーナ」(鎖)で繫げればいいのか。そしてそれらを、重ね合わせ、動かしあい、相互に延長させていくには、どうすればいいのか。中世ではそのさまざまなしくみが工夫され、試され、そのほとんどが書物に体現されていた。
これらを仮にコード・システムとファイリング・システムの多重化というなら、このしくみは中世以前には、カラザースによればもっと厳密には1220年以前にはほとんど試みられていなかったものなのだ。それまでは、キケロやクインティリアヌスのような修辞学の天才たちでさえ、文章をコロン(cola)とコンマ(commata)とピリオド(piriodo)でしか読まなかったのである。
それが中世になると、セビリアのイシドルスが「区分記号」(notae sententiarim)と名付けたような、意味単位の区切りがついた。たんなるテキストのディヴィジオ(分割)ではなく、なんらかの記憶と再生のための分節化だった。かれらはテキストを読むことを、テキストを再構成するように読んだのだ。これを「アルス・ノタタリア」(編集記号術 ars notataria)といった。ソールズベリーのヨハネスの『メタロギコン』はこの区切り術の効用を書いている。
つまり中世では、「意味」(sententiae)とは、そもそもがテクストを意味の単位に区切って“読む”ということだったのである。
記号化の胎動:ギリシア・ローマ時代における記憶技芸の系譜 鈴木繁夫https://www.lang.nagoya-u.ac.jp/proj/genbunronshu/21-1/suzuki.pdf
発想法
Inventio「インヴェンチオ」について、ネットにはあまり情報がありませんね。
「ルネサンスのユマニスト[* 1]たちは、古典古代の弁論術の 中で、第一部門である「インヴェンチオ」を最も重視した。〈創意〉〈思 いつき〉を意味するこの語は、言うまでもなく発明(invention)の語源 となった言葉である。」
「たとえば「いつ・どこで・だれが・何を・どのように」と自問する方法は、 名前も付けられないまま多くの人に日々実践されているが、英語圏では 初のノーベル文学賞を受賞した作家の名をとってキプリング・メソッド (→ 109 ページ)と呼ばれる。 その歴史はずっと古く、弁論術(レトリーケー)の伝統の中で育まれた トポス[* 5]の中でも最も息の長いものであり、もともとは「どんなテ ーマでも論じられる」と主唱したソフィストたちに由来する技である。」
https://www.forestpub.co.jp/author/dokushozaru/lp/idea/idea_maegaki.pdf
こんばんわ、#読書猿砲です。
— 読書猿『独学大全』14刷26万部、『文章大全』執筆中 (@kurubushi_rm) February 27, 2020
『#在野研究ビギナーズ』刊行記念ブックフェア #調べながら考える、
ジュンク堂書店池袋本店4Fでの開催は29日までですが、
今日はジュンク堂書店池袋本店で「読みながら考える」カテゴリーのうち、1冊だけ未だに動いていない『形象の力』を推します。 pic.twitter.com/jbhhtnftwi
「アイデア大全のネタ本です」という真意は、『形象の力』という本が、弁論術の中で最も重視された第一部門でありながら、その後の弁論術が修辞・文彩に切り詰められていくなかで、知の世界の中で周辺化され追い出されていった発見=発想法に焦点を当てた、他にあまりない人文書であるからです。
— 読書猿『独学大全』14刷26万部、『文章大全』執筆中 (@kurubushi_rm) February 27, 2020