見出し画像

相手を情で説得する技術 古代ギリシャ発祥の ρητορική レトーリケー(弁論術)

あまり知られていないレトーリケーについてまとめてみました。


レトーリケーとは

 レトーリケーとはどういものだったのでしょうか。

もともとは弁論において聞き手を効果的に説得するための術(弁論術)のことであり、その起源は古代ギリシャにまで遡ります。アリストテレスには『弁論術』として知られた著作がありますが、これはもともとのギリシャ語では「レトーリケー」なのです。

アダム・スミスは『修辞学・文学講義』で何を論じたか(1/5)
http://dialectic.seesaa.net/article/407633208.html?amp=1

紀元前5世紀にギリシャで生み出された言葉で説得する技巧・芸術で、その目的は雄弁、すなわち、耽美的な喜び(delectare)や感情(movere)をもって議論(docere)で説得する(suadere) ということにある。

雄弁家キケロのような招致演説 ~東京の勝因は修辞学 「雄弁」の5原則とは~
 WEDGE Infinity(ウェッジ)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/3168


レトーリケーの歴史

 古代ギリシャにはじまったレトーリケーの有名人に、イソクラテス、アリストテレス、キケロ、クインティリアヌスらがいました。

イソクラテス

 レトーリケーや記憶術を否定したプラトンと対峙した、イソクラテスは弁論教育を実施していました。

アリストテレス『弁論術』

 アリストレスは人の説得には、ethos (エトス)、pathos(パトス)、logos(ロゴス)の3種あるとしました。

「言論を通してわれわれの手で得られる説得には三つの種類がある」

「一つは論者の人柄にかかっている説得であり、
いま一つは聴き手の心が或る状態に置かれることによるもの、
そうしてもう一つは、言論そのものにかかっているもので、言論が証明を与えている、もしくは与えているように見えることから生じる説得である」

「「人柄の優れた人々に対しては、われわれは誰に対するよりも多くの信を、より速やかに置くものなのである。」
「とりわけ、確実性を欠いていて意見の分れる可能性がある場合にはそうする。」

アリストテレス『弁論術』P32

エートスには、3つのカテゴリーがあるとしています。
フロネーシス:深い知性
アレテー:徳、美徳
エウノイアー:聞き手からの好意

https://swingroot.com/rhetoric-persuasion/

キケロ

 古代ローマのキケロが弁論術の5つの構成要素を述べています。

キケロにとって、レトリックは聴衆を説得するためだけでなく、個人が生きる上での倫理的、知的生活にかかわるものだった。キケロは、演説者は正直かつ話すことに長けているべきであり、歴史、哲学や詩など多面的教養が必要であると確信していた。

雄弁家キケロのような招致演説 ~東京の勝因は修辞学 「雄弁」の5原則とは~
 WEDGE Infinity(ウェッジ)
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/3168

キケロの弁論術 構成要素

inventio,(発想)
dispositio,(配置)
elocutio,(表現)
memoria,(記憶)
pronuntiatio.(発声)

クインティリアヌスの弁論術の5部門

 キケロの後クインティリアヌスが有名です。

 古代弁論術の集大成というべきクインティリアヌス『弁論家の教育』では、キケロ『発見・構想論 de inventione』を引き継ぎ、次の5つの部門からなる、とされる。

1.Inventio(発見・発想) 主題をめぐる問題点を見つけだし、論証の材料や方向を見つける技術。

2.Dispositio(配置・構成) 発想によって見いだされた内容を、適切な順序に配列する技術。

3.Elocutio(措辞・修辞) 前の2段階で整理された思想内容に、効果的な言語表現を与える技術。

4.Memoria(記憶) 口頭弁論のために、仕上げられた文章を記憶しておく技術(記憶術)。

5.Actio(演示・発表) 実際に公衆の前で発表するための、発声、表情、身ぶりなどの技術。

かしこいはつくれるー来たるべき人文知のためのプログラム(大風呂敷)

https://readingmonkey.blog.fc2.com/blog-entry-778.html

記憶術

 古代ローマで演説は原稿、メモ、カンペなどを見ることは禁止されていて、全て記憶する必要がありました。
 キケロの著作 ”de Oratore”『弁論家について』によればケオスのシモーニデースが記憶術の名人であったとされています。

ちなみに読書と記憶術の具体的な状況です。

中世、記憶と再生と創造のために発案され、工夫されてきた方法は、ほとんど記憶術と書物術をめぐっている。

 何をどのようにどこに記憶し、それによってできあがった知の配置をどのように保持し、引っ張り出せばいいのか。それらをどういうときに変形させ、そして、すべての知の作用をどんな「カテーナ」(鎖)で繫げればいいのか。そしてそれらを、重ね合わせ、動かしあい、相互に延長させていくには、どうすればいいのか。中世ではそのさまざまなしくみが工夫され、試され、そのほとんどが書物に体現されていた。

 これらを仮にコード・システムとファイリング・システムの多重化というなら、このしくみは中世以前には、カラザースによればもっと厳密には1220年以前にはほとんど試みられていなかったものなのだ。それまでは、キケロやクインティリアヌスのような修辞学の天才たちでさえ、文章をコロン(cola)とコンマ(commata)とピリオド(piriodo)でしか読まなかったのである。

 それが中世になると、セビリアのイシドルスが「区分記号」(notae sententiarim)と名付けたような、意味単位の区切りがついた。たんなるテキストのディヴィジオ(分割)ではなく、なんらかの記憶と再生のための分節化だった。かれらはテキストを読むことを、テキストを再構成するように読んだのだ。これを「アルス・ノタタリア」(編集記号術 ars notataria)といった。ソールズベリーのヨハネスの『メタロギコン』はこの区切り術の効用を書いている。

 つまり中世では、「意味」(sententiae)とは、そもそもがテクストを意味の単位に区切って“読む”ということだったのである。

松岡正剛の千夜千冊 1314夜 記憶術と書物 中世ヨーロッパの書物文化https://1000ya.isis.ne.jp/1314.html

記号化の胎動:ギリシア・ローマ時代における記憶技芸の系譜 鈴木繁夫https://www.lang.nagoya-u.ac.jp/proj/genbunronshu/21-1/suzuki.pdf

発想法

 Inventio「インヴェンチオ」について、ネットにはあまり情報がありませんね。

「ルネサンスのユマニスト[* 1]たちは、古典古代の弁論術の 中で、第一部門である「インヴェンチオ」を最も重視した。〈創意〉〈思 いつき〉を意味するこの語は、言うまでもなく発明(invention)の語源 となった言葉である。」

「たとえば「いつ・どこで・だれが・何を・どのように」と自問する方法は、 名前も付けられないまま多くの人に日々実践されているが、英語圏では 初のノーベル文学賞を受賞した作家の名をとってキプリング・メソッド (→ 109 ページ)と呼ばれる。 その歴史はずっと古く、弁論術(レトリーケー)の伝統の中で育まれた トポス[* 5]の中でも最も息の長いものであり、もともとは「どんなテ ーマでも論じられる」と主唱したソフィストたちに由来する技である。」

アイデア大全
https://www.forestpub.co.jp/author/dokushozaru/lp/idea/idea_maegaki.pdf


いいなと思ったら応援しよう!