見出し画像

大腸菌群とはどんな細菌?

糞便汚染や大腸菌と勘違いされる大腸菌群についてです。


もともと指標菌は大腸菌だった

 ヒトの腸内で発見された大腸菌が、セオボールド・スミスによって糞便汚染の指標として提案されました。

「大腸菌を指標に シャルジンガーSchardinger(1892年)」
「この細菌がヒトおよび動物の消化管内容物から常に見出されるためとされたが、一年後スミス Theobald Smith(1893年)この細菌は広く、腸管内に常在していて、消化管以外から見出されるのはヒトや動物の排出した糞便による汚染と見なす事ができると発表」

https://web.archive.org/web/20041020053035/http://www.asama-chemical.co.jp:80/PN/P53.PDF

なぜ大腸菌群が指標菌になったのか

 大腸菌の検査が煩雑で時間がかかるので、より簡便な方法で大腸菌も検出できる大腸菌群が指標菌となりました。
 まずは水道の指標菌となり、次に食品の指標菌となりました。
 現在は水道に関しては、大腸菌が検出できる特定酵素基質反応法ができたため大腸菌群を指標菌からはずしています。

経列的に見ると、大腸菌群の検査が検討された時期は1911年頃にまでさかのぼることができる。1926年に協定上水試験法の附則として採用され、1936年に判定標準が設けられた。 その後、1966年の水質基準に関する省令(厚生省令第11号)で「大腸菌群は検出してはならない」と規定された(検水量は 50ml)。

https://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/04/dl/s0428-4d.pdf

大腸菌と大腸菌群の違い

検査法

日 米 EU ISO の検査法の違い

外国のほとんどの国で食品の大腸菌群数測定にVRB寒天を採用しているが、わが国とタイ国ではデソキシコレート寒天を用いている

デソキシコレート寒天で大腸菌群陰性となった検体のうちVRB寒天で大腸菌群陽性になったものは28例であった。またVRB寒天上の大腸菌群は明確な集落を形成し、大腸菌群以外の菌種を抑制した

食品の大腸菌群検査法 の大腸菌群検査法 株式会社ファルコライフサイエンス 寺本忠司 「イーズ」NO.023(2001年4月発行)

LEIFSON(1935)がDeoxycholate AgarおよびDesoxycholate-Citrate Agarの開発の研究のなかでDeoxycholateの抗菌作用を報告

https://doi.org/10.11250/chemotherapy1953.18.157

日本と欧米の試験法の比較
   大腸菌群(寒天培地法)

日本  デソキシコレイト寒天    

EU Violet Red Bile Agar

アメリカ    〃   

食品微生物試験法の選定と導入 田中廣行 月間HACCP 2013年1月号 42頁

腸菌群試験法について、ISO4832:2006と国内の試験法を比較すると、規格設定を大腸菌群ではなく腸内細菌群としてとらえているところから異なる。さらに、希釈液、培地の種類、培養温度、確認試験、培養日数、菌数の算定方法まで全て異なる。培地については、ISO法がVRB(バイオレット・レッド胆汁酸塩)寒天を使用しているのに対し、国内はDESO(デソキシコーレイト)寒天を使用している。VRB培地は酵母エキス、胆汁酸塩などを含むことにより栄養価が高く、クリスタル・バイオレットにより対象集落が濃くはっきり出るため、継代培養を必要とせず、EMB、LB、グラム染色で直接確認が可能となる。ISO法にあわせた方が得策であるが、国内では大腸菌群規格が、さまざまな食品で設定されており、これを変えるのは容易ではない。またVRB培地の普及も進んでおらず、限られたメーカーから販売されているのが現状


食品化学新聞社~食品添加物、健康食品の最新動向をお届けします~

44℃で培養する大腸菌群

 大腸菌群にのもうひとつの種類 についてです。検査法の培養温度が44.5℃であるものです。

検査法

「大腸菌(E.coli)であることを確認するために実施するIMViC試験は、比較的煩雑な試験であるため、このIMViC試験を行うことなく大腸菌の存在を推定するために考案されたのが糞便系大腸菌群」

「糞便系大腸菌群及び大腸菌の一般的な検査方法は次の通りです。試料そのもの及び/又は試料抽出液をEC発酵管に指定量添加、混合し、44.5±02℃、24±2時間培養します。培養後、ガスの発生が確認された発酵管から、1白金耳量をEMB寒天培地に塗抹培養後、さらにその1白金耳量をLB培地に接種し35℃、24~48時間培養後ガス及び酸の発生が確認され、かつ大腸菌群の生化学的性状(グラム陰性無芽胞桿菌)に一致した場合、糞便系大腸菌群「陽性」と判定」

http://www.mac.or.jp/mail/080701/01.shtml

糞便性大腸菌群(Faecal coliforms)は大腸菌群にあって44.5℃で24時間培養したときにM−FC培地に青色の集落を形成するかEC培地にガスを生じる細菌と定義されるものであり、Escherichia属並びに一部のCitrobacter属、Enterobacter属及びKlebsiella属から主として構成

特許 第4874008号 細菌を検出する方法およびその装置 - astamuse
http://astamuse.com/ja/granted/JP/No/4874008

翻訳名の混乱

 翻訳名は以下のとおり混乱しています。特に食品衛生法の冷凍食品の規格では、E.coli(イタリック体ではない)とされています。

EC発酵管で、44.5±0.2℃で 24±2 時間培養し、ガス発生が認められ、大腸菌群と同様な試験により大腸菌群であることが確認された菌群である。すなわち糞便系大腸菌群のことである。なお、糞便系大腸菌群とされたもののうち、IMViC 試験を実施し、そのパターンが、「++--」である場合を食品衛生検査指針では大腸菌と呼んでいるため、この概念と区別するため、本報告書では E. coliと表記することにした。従って、分類学上のEscherichia coliや、海外で用いている“大腸菌”とは多少異なる菌群を示すこととなる。

食品安全委員会 資料2冷凍パン生地に関するリスクプロファイル
https://www.fsc.go.jp/fsciis/attachedFile/download?retrievalId=kai20051227bi1&fileId=108

thermotolerant coliform <糞便性大腸菌群>
「WHO飲料水水質ガイドライン 第3版」では『糞便性大腸菌群』、水道用語辞典(日本水道協会発行)では『耐熱性大腸菌群』、上水試験法(日本水道協会発行、2011年版)では『高温耐性腸菌群』となっている。原文のままでは、『高温耐性大腸菌群』または『耐熱性大腸菌群』が正いが、慣習的に『糞便性大腸菌群』が最も多用されており、試験法上も同等のものを指す

https://web.archive.org/web/20121020095012/http://www.niph.go.jp/soshiki/suido/pdf/h24whogdwq/Notice_120910.pdf

衛生指標菌に用語の混乱

日本 E.coli(大腸菌ではない)=糞便系大腸菌群 培養温度:44.5±0.2℃

米国 Fecal coliforms(糞便系大腸菌群) 培養温度:44.5±0.2℃又は44.5±0.2℃

EU Thermotolerant coliforms(耐熱性大腸菌群)
   Fecal coliforms(糞便系大腸菌群)培養温度:44±1℃
   Presumptive E.coli (推定大腸菌):インドール陽性

糞便系大腸菌群の用語は一般消費者に誤解を招く恐れ

◎Thermotrophic coliforms (”高温性大腸菌群”)

衛生指標菌と規格基準の現状と今後─国際動向を踏まえて~このままで良いのか、日本の食品細菌試験法(株)エルメックス主催「第14回食品衛生検査セミナー」講演要旨 大阪府立公衆衛生研究所 浅尾 努 22p

日本の食品衛生法の規格

 大腸菌群陰性と記述されていますが、検査法が異なるのでその個数は食品ごとに異なります。

清涼飲料水・氷雪 0.09個/g 未満
加熱食肉製品(包装後加熱品)・魚肉練り製品・鯨肉製品  0.33個/g 未満
牛乳,加工乳,粉乳類等   0.45個/g 未満
氷菓・アイスクリーム類   5  個/g 未満
ゆでめん・包装豆腐 10  個/g 未満
ゆでだこ 50  個/g 未満
無加熱/加熱後摂取 冷凍食品 50  個/g 未満
加熱調理惣菜・調理ご飯/パン 100  個/g 未満
包装豆腐以外の豆腐 100  個/g 未満
洋生菓子 100  個/g 未満

食品・環境衛生監視員のための衛生細菌の知識①

参考 スマホ

8台の携帯電話には約2700~4200ユニットの大腸菌群が付着していた。
飲用水で上限とされる大腸菌群は100ミリリットル当たり1ユニット未満

https://web.archive.org/web/20121025065025/http://jp.wsj.com/IT/node_535438

食品などの大腸菌群から同定される菌

 通常は同定していないのでデータは少ないですが、大腸菌=E.coli(イタリック体)以外の菌が多いようなので、糞便由来といえないとされています。そのため食品では加熱できているかどうかの確認の指標とされています。

紅茶

「Closing the door on the fecal coliform assay」というタイトルの,興味深い米国の研究者の報告がある.米国のマスメディアは,レストランで出された紅茶に高濃度の糞便系大腸菌群が検出されたのは,紅茶に糞便が混入したことを意味すると報道した.しかし,実際に紅茶から分離されたのは,クレブシエラとエンテロバクターであり,大腸菌は検出されなかったことから,紅茶が糞便汚染されたとはいえないと反論した.同時に,レストランで出されたアイスティーの64%から,103 cfu/ml以上の糞便系大腸菌群が検出されたが,食中毒事例の報告はなかった

https://doi.org/10.5803/jsfm.30.83

井戸水

Enterobacter属が35.4% 
klebsilla属が27.4%
E.coliが17.7%
Citorobacter属が8.1%分離され,
その他Serratia,Pasteurella,Kluyveraもわずかに分離された

https://www.city.sapporo.jp/eiken/annual/no23/documents/96study08.pdf

食品

Enterobacter 属菌が 41%,
Klebsiella 属菌が 36%
…この 2 種類の菌が全体の約80%を占めた
…Kluyvera 属菌,Citrobacter 属菌,Serratia 属菌,E. coli 等が同定された

基準等を超えた食品からの細菌の分離と同定 宮城県保健環境センター年報 第 25 号 2007

肉ではCitrobacter属が92%、Klebsiella/Enterobacter属が8%と構成比が判明した。

一方、野菜ではCitrobacter属は検出されず、Klebsiella/Enterobacter属が2%、それ以外の大腸菌群が98%を占めた

https://doi.org/10.3136/nskkk.61.403

河川水

糞便由来でないと推定される菌種
Aeromonas hydrophila
Erwinia carotovora
Kluyvera intermedia
Pectobacterium carotovorum
Pectobacterium cypripedii
Pseudomonas gessardii
Sphingomonas paucimobilis
Stenotrophomonas maltophilia
Yokenella regensburgei

https://www.tokyokankyo.jp/kankyoken_contents/report-news/2010/ronbun103.pdf

そもそも指標菌の位置づけについて


いいなと思ったら応援しよう!