(仮)猫である僕を日本全国の旅に連れていってくれてありがとう第4話「不安」

画像1

ぼくは今、とても不安で不安で落ち着かないの。何故かって言えば、それはジュンとヨメがどこにもいないから……少し記憶を遡ってみるとね、ぼくはまたジュンとヨメと一緒に旅に出たんだ。

 車にも慣れたぼくは、新しい土地へ行くことに胸がワクワクしていたんだ。普段とは異なる風景を車から眺めてるだけで、ぼくはこの先に何があるのだろうか? どんな世界がぼくらを待ち受けているのか? 

 ……と、まるで仔猫のように燥(はしゃ)いでいた。

 ようやく到着した場所は、京都という土地だった。来た事なんてない場所なのに、まるで一度来たことがあるような、どこか懐かしく感じる光景と匂いがする不思議な場所だった。

 その後、ぼくはジュン達と共に一軒の家に入ることに。そこには知らない人間がいたけど、ジュンとヨメの会話から、ジュンの親であること、そして、この家はジュンが生まれ育った家だと知ったんだ。

 で、気が付けば……ジュンとヨメはどこかにいなくなっちゃったというわけなんだ。最初は直ぐに戻ると思ってたけどね、彼らがいなくなってから3日目が経過した頃、ぼくの中である不安が徐々に膨れ上がっていた。

 それは「ジュン達に捨てられたのかもしれない」という不安。それは、ぼくが15年間生きてきた中で最も辛くて、悲しくて、何よりも怖い感情だったんだ。

 そこで分かったんだよね。ああ、ぼくはいつの間にかジュン達なくしては生きていけないのだと……ね。

 今のぼくにとっては、彼らの存在はかけがえのない家族であり、同時に大切な人達であり、何よりも友達であること、それを彼らがいなくなってから思い知らされたんだ。

 そう、気が付けばね、ぼくはジュンと既に友達になっていたんだね。初めて会った時、ぼくは彼に友達になって欲しいとお願いをした。彼はそれを受け入れてくれたけど、お願いしているぼく自身がどこかでそれを否定してしまっていると思っていた。

 でもね、実はそうじゃなかったんだ。本当は、彼がぼくを受け入れてくれた瞬間に、ぼくも彼を受け入れていたんだね。

 そんな簡単な事を、ジュンがいなくなって3日経過してから気が付くなんて……。

 その後、8日が経過した。

 ぼくは、彼らがいるはずのない家を夢中で探し回っていた。それをすることで、まだぼくの中で希望が持てていたから。でも、どこを探そうとも彼らの姿を見つけることは出来なかったんだ。

 ジュンやヨメの名前を呼んでも応答がない事に、悲しくて涙が零れ落ちていく。それでも、ぼくは必死に家中を探し回る。

 それしか、今のぼくには出来ないから。

 諦めることはしたくなかったけど、現実は心のどこかで「もう会えないかもしれない」と心が折れそうになっていたと思うんだ。

 ジュンとヨメがいなくなってから9日目、ぼくの耳に聞き覚えのある音が外から聞こえたんだ。

 この車の音は、ジュン達が乗ってる車の音に間違いない!

 それを確信したぼくは、走って家の玄関へと向かって彼らの名前を何度も叫んだんだ。そしたら、玄関が開いてジュンとヨメの姿が見えた時、ぼくは心の底から安堵したんだ。

 ジュンがぼくを抱いてから、ぼくを置いて旅に出たことを謝っていたけども、そんなことをぼくは気にしなかった。ぼくは、またジュンやヨメと一緒にいられることで満足なのだから……でもね、今度また長期間置いていったら、ぼくは怒っちゃうぞ?

 その晩、ぼくはジュン達と一緒に居たかったんだけど、ぼくは1階の部屋、ジュン達は2階の部屋で寝ることになったけど、ぼくは2階の部屋へと向かった。

 だってさ、9日ぶりなのだから、一緒に寝たいもん!

 2階に上がってきたぼくをジュンは1階の部屋に戻したけど、ぼくは何度も2階に上がって一緒に寝ようとしたんだ。でも、その度に1階に戻されるぼく……もう! 疲れてるのは分かるけど、ぼくは一緒に寝たいんだよん!

 そんな我儘を言うぼくに、ジュンは約束してくれたんだ。

 「もうお前を置いて旅にはいかん。今度からはお前も一緒や」

 ……ってね。

 その言葉を聞いてね、ぼくは嬉しくて溜まらなかったんだよ?

 だってさ、ぼくが残りの人生どれぐらい生きられるかは分からない。だからこそ、1日でも多くの時間をジュンやヨメと過ごしたいのだから。

 ふぁ~あ~、もうぼくは寝るね。あ、そうそう最後に1つ言わないとだね。ぼくね、こう見えてゆーちゅーぶ?とかいう動画に出ているんだよん。

 是非、見てね!



  

 

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集