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新型コロナ下で生まれた「のきした」という希望


信濃毎日新聞デジタル寄稿(2021/12/29 長野県 論説 語る@信州)

 私たちは今、上田市で「のきした」という活動を行っている。社会の雨風をしのぐ場を、至る所に作ることが目的だ。街の劇場や映画館のスタッフ、ゲストハウスやNPOを運営する人、一般市民から公的立場の人までさまざまな人が携わる。

 活動の一つである「やどかりハウス」は、1泊500円でゲストハウスに泊まることができ、困り事の相談もできる。

 そのやどかりハウスについて、ある支援機関に事業説明に行った時のこと。私は、事業のイメージを共有するために、今対応しているケースをいくつか紹介をした。その中の一つが、少し議論になった。

 ホームレス状態で我々につながったその方は、大変な家庭環境に育ちながらも、踏ん張って生きてきた。だが困難が続き、借金を背負い、人生を諦めかけていた。私たちは対話を重ね、一緒に生活保護を申請するところまではいった。しかし、さまざまなハードルが重なってアパートが借りられず、引き続き、やどかりハウスに長期滞在していた。

 不動産会社を一緒に回ったが、ことごとく断られており、行政は「自分で探してもらうしかない」とのことだった。私は、苦肉の策として、本人の同意を得た上で、SNSで協力者を募った。すると100件を超えるリアクションがあり、貸してもいいという大家さんにつながることができた。発信してから24時間以内の出来事であった。

 このケースの概略を紹介したところで、支援機関の方から以下のような言葉をもらった。

 「民間がそこまでやるべきではない。民間がやってしまうことで、行政は甘える。あなた方がやっている活動は、本来は行政が担うべき仕事だ。それを行政にやらせる方向で動かなければならない。せめて一緒に動いてもらい、職員を育てていかなければならない。そして、そうした社会的ニーズが存在することを発信する“ソーシャルアクション”をすることこそが、民間の役割ではないか」

 言わんとすることは分かる。私もこれまで、そう思ってきた。10年間、民間支援団体として、行政ができない領域を担いつつも、行政に対応を迫り、時には喧嘩(けんか)をしながら、時には折り合いながら、少しずつ理解を広げる草の根の活動を、コツコツと続けてきた。

 しかし、事態はもはや、そんなことを言っている場合ではないところまで来ている。私たちは、行政が育ち、学び、変わることなど、もう待っていられない。社会が壊れ、家庭が壊れ、人が壊れていくスピードに、行政や国の対応は追い付いていかないし、この社会システムを採用している限り、追い付くことなど永久にない。

 では、我々には、もはや希望は無いのだろうか。私はそうではないと思っている。

 行政による支援だけでは、何カ月も住居を決められなかった人が、24時間以内に住居を確保できたのは、市民の力だ。それは、私たちが行政に依存せずとも、国や資本に頼らずとも、つながり直すことで、強く生きていくことができるという事実を示している。

 新型コロナウイルスの感染拡大を経験して分かったことは、私たちがいかに、お金や、行政も含めた「システム」に依存して生きてきたかということだ。救済制度や給付金を、国や行政が急いで用意しなければ、生きていくことさえできない、助け合うことさえできない生き方を、してしまっているということなのだ。

 「のきした」はそんなコロナ禍に、市民の力が結集する形で、自然発生した運動体だ。500円で宿泊できる場を作り、無料で食べられる企画を定期開催し、必要なコミュニティーやサークルを作り、次々と活動は広がっている。それらは、市民の中で、自主的に生まれた助け合いであり、つながり直しであり、生き直しである。私たちは、自分たちの生きる社会を、自分たちの手で、作り直すことができるかもしれないという実感を、少しずつ持ち始めている。

 暮らしは依然、困難を極めている。先日発表された統計では、長野県の子どもと女性の自殺が増えている。子どもは、増加率が全国を上回った(※1)。私たちはもう動き出している。たとえそれが行政の仕事だとしても、やるべきことをやる。やりたいことをやる。やりたいようにやる。そうした中で、行政もやるべきだと思った仲間は、伝えに行くだろう。補助が必要だと思う仲間は交渉しに行くだろう。そのことを、私たちは止めないし、必要があれば、みんなで交渉に行くだろう(※2)

 つまり、それらはすべて、私たち自身の「手」によってなされる必要があり、支援対策は行政や国がやるべき仕事だという思考自体が、私たちから「自分の人生を生きる力(つながる力)」を奪っていることに気が付かなければならない。

 今、私たちに最も必要なのは、行政の支援ではない。自分たちの手で、生きていけるのだという、実感であり、力であり、誇りである。

 皆さん、手を貸してほしい。どんな手でもいい。共に手を携えたい。今、雨風をしのぐ場をつくるのは、名もなき私たちの、この手だ。

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※1〈長野県の自殺者数〉厚生労働省と警察庁の統計によると、2020年の自殺者数は男性239人(前年比6.6%減)、女性114人(同12.9%増)。20歳未満の自殺者は13人(同30.0%増)で増加率は全国(自殺者777人)の17.9%増を上回った。

※2(やどかりハウスは事業開始後、行政との対話の中で、交付金を受けることになった)

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〈もとしま・しょう〉1983年、熊本県生まれ。日本福祉大卒業後、学童保育、引きこもり支援を経て、2011年、仲間とともに、富山県高岡市に「コミュニティハウスひとのま」を開設。24時間365日開けっ放しの駆け込み寺となる。上田市に移住後、NPO法人場作りネットを設立。電話やSNSによる相談事業を受託、法人として年間8000件の相談に対応。活動「のきした」では「やどかりハウス」のほか、劇場での炊き出し「のきしたおふるまい」、お金ではなく時間を通過につながる「時間銀行ひらく」などシステムによらない繋がりの場作りを一緒に楽しんでいる。詩作、曲作り、ライブ活動も行っている。

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