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世界的日本人ミュージシャンとその英語
過去にシリーズで「神レベルの声量を持つアーティスト」というタイトルで玉置浩二さんを取り上げました。
以前、テレビをつけたらNHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」で、YOSHIKIさんの特集をやってました。私、彼と同性代だけに、常に彼の動向には注目していました。壮絶な人生を経て、今や海外で成功した押しも押されぬスーパースター。
そこで今日はいつもと志向を変えて、彼の英語について見てみましょう。
YOSHIKIさんつながりで、彼が世界の歌姫こと、サラ・ブライトマンさんと共同会見をした映像があります。そこで彼の英語についてコメントしてみたいと思います。
YOSHIKIさんが登場するのは、11:50~です。
会話の入りは、招待へのお礼、あいさつへと自然でスムーズな流れです。
声のトーン、ペースもいいです。in a nutshell(かいつまんで)なんてこなれた定型句もさらっと出ます。そしてサラさんとの知り合ったきかっけなどへと話を進めています。
so, then, you know, so that, as well asなどの、つなぎの役目をする挿入句が多すぎず、少なすぎずちょうどいい塩梅です。情報を追加するwhichなどの関係代名詞もうまく使えています。動名詞、分詞、不定詞、接続詞(when, ifなど)、仮定法と言った英語に必須の文法項目も、運用レベルにまで昇華させています。また節をつなげて複雑にする技術も持ち合わせています。使用語彙レベルは時にnegativitiesなど高いレベルの語彙まで幅広いスコープを扱えます。
in a nutshell以外にも、It's worth it.(価値は十分ある)など会話で使われる決まり文句をタイミングよく時期を得て出せますし、diedをpassed away(亡くなった)のように婉曲的な言い回しの技法もあります。そして全体を通して、きちんと文レベルで発話でき、発話ボリュームもネィテイヴの持つそれと同程度レベルでこなせています。
音声面は、日本人によくみられる変なクセもなくintelligibilityが高く、リズム、間、テンポ、イントネーションもこれといって不自由を感じません。genre(ジャンル)の発音も日本人には難しいのですが、完璧です。YOSHIKIさんの英語は、人柄が出ていて、なめらかさと柔らかさを備えていますね。
とまー、サッと見た限りこんな感じです。
ところどころ冠詞(the、a)や単数・複数の数(特に数えられる名詞)、自動詞と他動詞(discuss about(X)→discuss(〇))など細かいところはありましたが、それでも会話の流れを阻害するほどのものではないです。音楽活動をやりながら、時間をやりくりしてかなり英語に触れようと自身で努力したことがわかります。立派です。
I sincerely wish you continued success in your endeavors, YOSHIKI san!
この会見を見て、YOSHIKIさんの世界の立ち位置がわかります。あの世界の歌姫のサラさんが先に出てきて、後に彼が時間を置いて登場。アーティストはプライドが高いので、大物ほど後に出るというunspoken agreementがあるかと。いくら、YOSHIKIさんがメインと言っても、どっちが先に登場するかは大きなことだと思います。これで彼の立ち位置がわかるのでは。やはり彼は世界に認められたスーパースターなんだと再認識した次第です。
最後にYOSHIKIさんと言えば、この曲でしょう。
幼少時より心に負った傷が深く、一生消えることのない悲しさを背負っているだけに、それが曲の節々ににじみ出ていますね。あれこれ言葉はいらないでしょう。曲を聴いてもらえれば。お母上を亡くした直後の映像です。
I'm so sorry for your loss, YOSHIKI san.
I strongly believe that your true fans are always on your side.
※よくネットやYoutubeで芸能人の英語力について評価してる人を見かけますが、実は私あまり人様の英語をあれこれ言うのは好きではないんです。基準をどこに置くかもそうですし、そもそも客観的に評価すると言うことは本当に難しい事だからです。
流暢だとか、そうでないとか、単語の使い方や文法が正確だとか不正確だとか、発音がいいとか悪いとかetc……、わずか数十分のパフォーマンスをみただけではとても判断できる代物ではないんです。スピーキング力とは、もっとダイナミックで背景知識とか性格とかそれこそさまざまな要因が複雑に絡んでいるからです。TOEICや英検などの検定試験のスピーキングは、そのほんの一面しか測れてないんですよね。
私自身、とある英語検定試験の二次面接官を長いことやってましたから、その大変さは知っているつもりです。また、アメリカ外国語教育協会(通称ACTFL)の試験官養成のための講習会も受けたことがあるので、面接の技法や評価方法にも精通しています。そんなことからも、その難しさは人一倍理解しています。
「英語がうまい」で言うと、たとえただたどしくて発音が今一つであっても、話の論理が明快だったり、人を感心させたり、知らない知識を提供してくれる人を英語母語話者は高く評価します。あの人の英語は素晴らしいと。いうなればhow(どんな風に=発音、単語、語彙など)とwhat(何を=中身)のバランスが大事なんですが、最後はwhatの方で判断されてしまいます。もっと言うとトドのつまるところその人なりの「人間力」でしょうか。
その点YOSHIKIさんの英語は、世界のどこに出ても恥ずかしくない本人らしさが出ている素晴らしい英語だと思います。見習いたいものです。