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英語発音習得の秘密:「臨界期」を過ぎるともう遅いのか
英語の発音習得についてちょっと考えてみましょう。
日本では「英語学習はいつからはじめればよいのか?」がいつの時代も大きな関心事になっています。
その前提になっているのが「臨界期(敏感期)仮説」。
これについても、さまざまな議論があります。
言語の習得時期は、大脳の一側化(lateralization)が終了するとされる思春期に入るまでが最適であり、それ以降は、極めて困難になってしまうとLennebergは主張しました。
しかし、近年、この臨界期をめぐって、その言語領域によって異なるのではないか、という見解も示されています。
学習開始年齢が上がるにつれ、発音能力の発達は困難になりますが、語彙力、文法能力、構文能力については、逆に容易になると、音声面以外の能力については、臨界期の存在に疑問符がつくことを指摘している研究者もいます。同様の結果が、別の研究者からも報告されています。
しかし、他の領域と比べ、発音能力に関しては、第二言語学習者が臨界期を過ぎて、母語話者並みの発音を習得するのはほぼ不可能に近い、という見解が大勢を占めています。
つまり、臨界期以降にL2の学習をはじめた学習者は、L1の影響を受けて、その多くに外国語訛りが残るとされています。
ところが現実には、臨界期を過ぎて学習を開始したにもかかわらず、外国語訛りのないネィティヴレベルの発音を習得する人々がいます。
言語領域の中でも、特に母語転移が顕著に現れると考えられている音声産出の領域で、第二言語習得における発音面での臨界期は存在するのでしょうか、また臨界期を過ぎての音韻習得はほんとうに絶望的なのでしょうか。
ここで、「臨界期仮説(Critical Period Hypothesis)」をもう一度振り返ってみましょう。
これはある一定の年齢を過ぎると、言語の習得が困難になってしまうという説。この「それ以後は習得がきわめて困難になる特定の時期」を「臨界期」または「敏感期」と呼んでいます。研究者によって時期の差はありますが、一般に思春期に入る12, 3歳頃までとされています。
この考え方は、Penfield and Roberts による脳の可塑性から始まったもので、人間の脳は10歳を越える頃には可塑性が失われていき、この脳の可塑性が失われると、ある能力を身につけるには、たとえどんなに努力をしようとも、その到達度において限界があるとされています。
この知見をさらに発展させたのが言語病理学者のLennebergで、幼児と成人の脳の変化の違いを主張しました。
Lennebergは、脳の言語野に損傷を負い、言語障害を起こした患者を調査し、思春期以前と以後では失われた言語の回復に顕著な差があったことを報告しています。そしてその理由に、脳の可塑性をあげており、思春期以前は脳の可塑性が高いため、他の部位が損傷した箇所の埋め合わせを行ったからであるとしています。
Lennebergは、臨界期の終了が思春期ごろだとし、この時期に右脳と左脳の機能分化が完了すると述べ、この現象を「脳の一側化(lateralization)」と呼びました。
これが一般に、言語習得における臨界期仮説の理論的根拠となっていて、この仮説が第二言語あるいは外国語習得にも適用されています。
で、近年の動向はどうなのでしょう?
臨界期を過ぎてからの学習では、他の言語を母語話者並みに獲得することは至極困難であると考えられていますが、近年は、第二言語の習得と年齢とのかかわりにおいて、言語の領域により異なる、という説が唱えられています。
例えば、移住年齢の違いによって外国語の訛りは優位に存在しますが、文法の習得に関しては、年齢そのものより環境の影響のほうが大きいとするものや、大人の方が認知能力が発達している分、言葉の意味を相互に関連づけたり、長期記憶を活かしながら、新たな情報を既存情報と組み合わせていくことができるため、語彙(vocabulary)や言語の構造(language struvture)などにおいては、大人の方が子供より有利であるといった研究結果が報告されています。
このように臨界期は、一律どの能力にも同じ時期に存在するものではなく、その領域によって複数あるとされ、これを「複数臨界期説(multiple critical periods)」と呼ぶ研究者もいます。また、その終了時期が思春期ごろであるかどうかについても今なお論争が続いています。
一方、語彙や文法以外の、音韻体系の習得については、少数の例外こそあれ、ほとんどの学習者に臨界期が存在するという意見が大勢を占めています。
他の領域よりも早期に学習を開始しなければ、ネイティヴレベルの発音習得は難しいと考えられていて、思春期を過ぎて学習を開始した場合は、母語の「訛り」が残ることが多いと言われています。
果たしてこの臨界期を過ぎてしまうと、ほんとうにネィティヴらしい正確な発音を身につけることは不可能なのでしょうか?
臨界期仮説の音声産出能力のこの定説を検証してみるとおもしろいかもしれません。
今日はこの辺で。
続く。