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How are you? - I'm fine, thank you. And you?とは本当に言わないのか?

昨今は、SNSの発達で個人が気軽に情報発信できる時代になりました。
自らの考えや意見を世間に自由にアピールできる場が広がったことは喜ばしいことですね。

そんな中、「英語」に関するものもたくさんアップされていて時に、

How are you?は挨拶としては堅すぎて日常会話ではほとんど使わない
               とか、
  「You're welcome.なんてかしこまりすぎてめったに言わない

という「~は日常会話では使われない」「ネイティヴは~なんて言わない」「~は英語では不自然」などの「言い切り、断定型の発言」もちょくちょく目にします。

そこで疑問が生まれてきます。本当にそうなのかなと。

例えば、昔(特に昭和世代)学校の英語の授業でHow are you? と聞かれたら、 I'm fine, thank you. And you?と答えると習った方も多いでしょう。

何を隠そう私も中学校でそう教わった一人です。

で、実際の所どうなのでしょう。本当に使われていないのでしょうか。

この疑問に答えてくれる書籍があります。

この本は、元獨協大学および同大学院教授の阿部一先生がおよそ40年以上に渡り蓄積してきた2億語以上からなる巨大コーパスデータから、20代~50代くらいのアメリカ人(他の英語ネイティブ、ノンネイティヴは含まない)男女をターゲットとして、日常生活のごく普通のくだけた対話(およそ300万語)に絞り込み、その分析結果を一般学習者向けにまとめたものです。

つまり、構築されたデータベースを基に、現代アメリカ口語英語の実際を反映したものと言えるでしょう。

それによると、あいさつでHow are you?と尋ねられたときの返答として、確かにI’m fine, thank you. And you?というセットでの言い方はしないものの、「元気です」にあたる返答の実に70%近くをI’m fine.が占めていたとあります。(p112-p113)

SNSの世界を見てみると、「I'm fine.自体言わないI'm good.が普通」というのが多いです。もちろんI'm good.やI'm great.と言わないわけではありませんが、頻度から言うとI'm fine.の方が多かったというわけです。

このデータは主にアメリカでのサンプルを基にしているので、他の英語圏(イギリス、オーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランド、南アフリカなど)も加えると順位に違いが出てくるとは思います。が、ポイントはI'm fine.と言っても全く問題がないというところにあるわけです。むしろきちんとした印象を与えます。

個人が発信する情報は、かなり限られた個人的な体験を基にしているケースが多いので「ネイテイヴは~とは言わない」「ネイテイヴは●●と言うのが普通」と言った類の話は何でも鵜吞みにしない方がいいようです。

一口に英語といっても、国の違いもあれば、地域や年齢、はたまた社会階層などで、実にさまざまなんです。そして、こうは言わないと思っていた例外がいくらでもあるんです。

例えば、現在完了のI have been to~は「~へ行ったことがある」という経験を表すことはよく知られています。 I've been to London.なら 私はロンドンへ行ったことがある」ですね。ところが、完了・結果「~してしまった」を表すI have gone to~を同じ意味で使う人も実際にアメリカ、オーストラリアなどにいます。

                     I've been to London. = I've gone to London.
       (私はロンドンへ行ったことがある)

意味は文脈が命。文脈があれば、どちらでも「~へ行ったことがある」という意味で使えるわけです。

また、あいさつでNice to meet you.は会った時に、Nice meeting you.は別れ際に言うと説明されます。ところが、別れ際にNice to meet you.という人もいます。(この場合はIt was nice to meet you. のIt wasが省略されたもの)

さらに初めて会った時はNice to meet you.それ以降に会った場合はNice to see you.と言われますが、初対面でもNice to see you.という人もいます。(この場合は、相手のことを間接的に知っていたり、なんらかの形で接触があった場合が多いですが)

発音でもsisterとかteacherの語末の[r]の音はアメリカ英語に特有だと思っている人がいますが、元々はイギリスから入ってきたもの。現在でもイギリスの一部ではアメリカ人のように語末の[r]を発音します。別にアメリカ英語の専売特許というわけでもないんです。

こういった話はいくらでもあるんですよね。

このように、言語学者などの言語の専門家が軽々しく「ネイティヴは~とは言わない」と言った発言をしないのは、その例外がいくらでもあることを知っているからです。言い切ったり断言したりする危険性を心得ているとも言えるでしょう。

そういうわけで、SNSでの個人の「言い切り、断定型の発言」はなんでもかんでも信用しない方が賢明です。

さて、先ほどの本のデータの話に戻りましょう。

お礼を言われた時の「どういたしましてYou’re welcome.は「定番表現ではないとか、丁寧すぎるのでカジュアルな場面では使われない」などのコメントを耳にします。しかし、この本によれば、お礼の返答の半数近くをYou’re welcome.が占めていたとあります。(p124-p125)

別にカジュアルな場で使っても何ら問題ないわけです。むしろ、積極的に使った方がいいことがわかります。

この他、ワクワクした時に発する「めっちゃ楽しみ!
    相手が羨ましい時に言う「いいなー
    相手を応援や励ます時の「頑張って!」などなど、

興味深い結果が出ています。関心のある方は自分の理解やこれまでの使い方が正しかったかを確認するために上掲の本でチェックしてみるといいでしょう。

ということで、今日は巷のSNS上の個人的な経験による言説は、何でもかんでも信じない。一歩引いてホントかなと疑う冷静さが必要という話でした。

【参考までに】

● 自己紹介のMy name is~は堅すぎて使わないは嘘! 


自己紹介と言えば、My name is~とI’m~ですね。よくMy name is~は堅いのであまり使わないというのを耳にします。使うか使わないかは、あくまでも話者の判断で、その場をどう感じたかによります。改まったフォーマルな場だと思えばMy name is~を、カジュアルで気さくな場だと感じればI’m~を使うというのが本当のところです。正解はありません

昔ある英語検定試験の面接官をやっていたことがあります。試験開始前に、毎回面接担当者同士の簡単な自己紹介がありました。ネィティヴスピーカー(米・英・加・豪)たちは、何て言うんだろうと耳を澄まして聞いてましたが、My name is~で始める人もいれば、I’m~と言う人もいて、人それぞれでした。同じ場を共有していてもどちらでもOKなわけです。あくまでも自分がその場をどう感じたかなんです。

あえて、日本語にするとMy name is~が「~と申します」に、I’m~が「~です」に相当するかと。


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