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英語力を支える基盤:英文法はなぜ大事なのか!
語彙意味論的な話が続いたので、今日は文法のお話でも。
日本の英語教育が、運用能力を念頭に置いた実践的なコミュニケーション力の育成に舵を切って久しいですが、結局、コミュニケーション活動をするにも統語的知識(文法)が必要だということが広くわかってきたようで、英文法への回帰がどんどん進んでいる印象を受けます。
事実、書店の語学売り場の「英文法」のコーナーも活況を呈し、これでもかと硬軟混ぜ合わさって書籍や新書が出版されて続けています。ニーズがあるからでしょう。
一方で、近年中学・高校を卒業してきた人たちに接して感じるのは、文法力の脆弱さです。ところどころ基礎的なところがすっぽり抜け落ちています。おそらく理解があいまいなまま、なんとなく卒業してきたのでは。(もちろん私立か公立か、英語を重視しているか、いないかなどの学校の状況で個人差はありますが…….)
読解、作文しいては話す、聞くの根幹を成している英文のしくみ、構造に関する系統だった知識がきちんと定着しないまま卒業してきた。もちろん昔の時代にもそういう人はいたと思いますが、その比率が近年はケタ違いに多い気がします。私だけでしょうか。
外国語(第二言語)習得における文法の重要さは、多くの実証的研究を通じて明らかにされています。
母語が確立した成人が、例えば英語を外国語として学習する環境においては、すでに持っている限られた知識を5にし、さらに10にしていくという「発展性」を担っているのが、まさに文法です。元獨協大学大学院教授の阿部一先生も以下の書籍でこの点について触れています。
また他にも「現在完了形はhave/has +過去分詞である」といった言語形式の知識があれば、初めて使うことになる動詞についても、正しい形を次々に作り出すことができるという指摘もあります。
この知識(※宣言的知識)があれば、実際に言語を運用するスキルを効率的に獲得することができると言われています。そして、暗黙の知識(implicit knowledge)として、言語をそれほど意識せず使いこなせるようになるために通常踏まなければならない、仮説の形成・検証・修正といったステップも、この宣言的知識を保持していることで省略することができると考えられています。
便利な道具なんですよね。文法は。
また、“人間がさまざまな表現を介して多用な「意味」をやりとりできるのは文法のお陰であって、単に単語を知っているだけでは、ごく限られた範囲の「意味」しか伝え合うことができず、文法を使いこなして多様な表現を生み出したり、理解したりする能力は、その言語でコミュニケーションをする能力の根幹を成している”とは、京都工芸繊維大学の羽藤由美名誉教授の弁。
以下の名著『英語を学ぶ人・教える人のために』で数々の実証研究例を提示して、コミュニケーションの根源的な部分についても文法が重要な役割を演じていることを指摘しています。
一方、海外に目をやると、Larsen-FreemanやLongらの実験によると、ELSのクラスで文法の指導を受けて、あるいは受けながら対象言語との接触を持った人は、そうしないで接触を持った人より以下の点で優れていると言っています。
①文法規則全般の習得速度が早い
②最終的な到達レベルが高い
その他、非英語圏から英語圏へ移住しても、語学学校に通って文法を習った人と、学校へは行かずに日常生活を通して英語を習得した人では、前者のほうがより早く、そして最終的により多くの文法規則を正しく使えるようになる、とも述べられています。
さらにSchmidtは、学習者の脳内情報処理能力における‘注意’の役割に注目して、その重要性について、“学習時には注意は不可欠のものであり、第二言語習得を成功させるためには、言語形式に注意を向けさせる必要がある”と。そして、言語習得を促進させるためには意識的に言語形式、すなわち文法に気づかせる必要があると説いています。
さらに、ここ最近注目されてきた先般記事にも書いた言語喪失(language attrition)の研究分野においても、文法力と英語力保持との関係についての興味深い報告があります。
Reetz-Kurashigeによると、平均2年以上英語圏に滞在して帰国した平均年齢9歳の日本人児童を被験者として、その発話データを形態統語論的観点から分析したところ、観察開始時における動詞句の文法的正確度が、他の因子(現地滞在期間、年齢など)以上に、その後の英語保持を予測する際の強い要因であったことを挙げています。
またHansenは、教室などでの意識的外国語学習のほうが自然な習得に比べ耐久性が高いと述べていて、これは、明示的に文法知識を提供することで、保持の可能性が高いことを示唆しています。
以上、こうして見てくると、つい毛嫌いされている文法ですが、とても大切なことがわかります。
要は現場において、教師の側にいかにこの大切である点を分かりやすく説明し、かつ納得、説得させるだけの技量、技術があるかが、問われているのかと。
言うは易し、行うは難しなんですけどね。It’s easy to say but hard to do.
私なんていまでも模索中ですから。I'm still looking for ways to make it work.
とほほ.............. Sigh.
最後までお付き合いいただきありがとうございました。柄にもなく小難しい話をしてしまい頭が痛くなってきました。コーヒーでも一杯いかがですか?
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注:
* 宣言的知識(Declarative Knowledge)とは、一般に学習者が意識的に学習することにより、それを言葉で説明したり、分析したりすることができる知識を指します。これは学校で教えられる文法知識ともいえるでしょう。