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4年越しのラブレター『今はなき、あの映画館へ』

私の地元、大阪府東大阪市。
ここにはかつて、『布施ラインシネマ』という映画館があった。

本館と南館、合わせて10のスクリーンを持つシネマコンプレックス。
近隣の映画館が次々と閉館する中、東大阪市唯一の映画館として、地元の人たちを楽しませてくれていた。


そんな布施ラインシネマは、2020年2月29日に、閉館した。
今から、ちょうど4年前の出来事だ。


地元民である私は、映画を観るときはいつも布施ラインシネマに行っていた。
当然、思い出はたくさんある。

小学生の頃は、毎年友達と『名探偵コナン』の映画を観に行ったっけ。

『ハリーポッターと賢者の石』が公開されたときは、館内に入りきらないくらいの、長蛇の列に並んだなぁ。

『千と千尋の神隠し』を観たときは、エンディングで泣いてるのを友達に見られたくなくて、必死に涙を拭いたっけ……。


大学生になり、地元を離れてからは、めっきり訪れる回数が減った。
だけど、近鉄電車の窓から布施ラインシネマが見えると、「あぁ、地元に帰って来たなぁ」と感じられた。

特徴的な赤い階段。青いタイル。
ピンクの壁に浮かぶ『布施ラインシネマ』の文字。
私にとっては、地元の象徴のような存在だった。

もちろん、私にとってだけではない。
布施ラインシネマは、前身の映画館時代を含めると、実に87年もの間、多くの人たちに愛されてきたのだ。

その87年の歴史にちなみ、布施ラインシネマが閉館するまでの約1ヶ月間、過去の名作を87本上映するという企画が行われた。

昔の名作から最近の話題作まで、めちゃくちゃ豪華なラインナップ。
私は運良く、最終日2/29のチケットを入手できた。
作品名は『ニュー・シネマ・パラダイス』。
ずっと観たいと思いつつ、観れていなかった作品だ。
この作品を、閉館してしまう布施ラインシネマで観られることに、運命的なものを感じた。


さて、2/29当日。
183人を収容可能なスクリーンの客席は、満席だった。

席に座る。
1人で映画館に来て、両隣が知らない人で埋まってるなんて、何年ぶりだろう……。

「ここで映画を観るのも、これで本当に最後なんだなぁ」

そう思うと、早くも涙腺がゆるみそうになるけど、そこはグッと堪える。

満員の観客が見守る中、上映開始。
聴き覚えのある音楽が流れてくる。
誰もが知る、エンニオ・モリコーネのテーマ曲。
先ほど必死に抑え込んだ涙が、再び溢れ出しそうになる。

(以下、作品のネタバレを含みます。)

『ニュー・シネマ・パラダイス』は、イタリアの田舎・シチリアを舞台に、映画が大好きな少年トトの成長と、映写技師アルフレードとの年齢を超えた友情を描いた物語。

冒頭で、中年になったトトがアルフレードの訃報を聞き、アルフレードとの思い出を回想する形で物語が進んでいく。

やんちゃな少年トトは映画が大好きで、いつも映画館の映写室に入り浸っている。
映写技師のアルフレードは、最初のうちはトトを邪険に扱うが、二人は徐々に絆を深めていき、トトはアルフレードの仕事を手伝うまでになる。

青年になったトトは映画館で働き、恋をし、成長していく。
そして、アルフレードに背中を押され、田舎を捨てて都会に出て、映画監督として成功を収める……。

この映画の大きなテーマとなっているのが、トトとアルフレードの年齢を超えた友情。

「私は老いぼれだ。もうお前と話はしない。お前の『噂』を聞きたい」

アルフレードがトトに言った、印象的な台詞だ。
故郷を捨て、都会に出なければ成功できなかった時代。
アルフレードだってトトと別れるのは寂しいはず。
だけどそれ以上にトトの幸せを願っており、突き放すような言葉で別れる姿が、切ないけれど愛に溢れていた。

自分以外に、自分の幸せを心から願ってくれる人がいるって、なんて尊いことなんだろう……。


そしてこの映画のもう一つの大きなテーマは『ノスタルジー』。
物語の終盤で、トトは30年ぶりに故郷に帰ってくる。
街はすっかり様変わりしている。もう会えなくなってしまった人もいる。
だけどその中で、相変わらずそこにいて出迎えてくれる人や景色もあった。

「2年も経てば、何もかも変わっている。
長い年月を経て帰郷すれば、懐かしい人や土地に再会できる。」

アルフレードがそう言っていた意味が、とてもよくわかる気がした。

涙腺緩めの私は、終盤、ボロボロ泣きながら観た。
アルフレードのお葬式のシーン。
廃墟となった『新パラダイス座』の中を歩いているシーン。
そして何より、トトの思い入れのある地元の映画館、閉館となった新パラダイス座が、この布施ラインシネマにオーバーラップして。

おそらく、あそこにいた観客のほとんどが、新パラダイス座をこの布施ラインシネマに重ね合わせて観ていたと思う。
特に、新パラダイス座が取り壊されるシーンは、観客が総立ち……ならぬ、総泣きだった。(と思えるくらい、本当に周りもみんな泣いていた。あんな光景、なかなか見られない)。


そして最も私の涙腺を破壊したのが、キスシーンを繋ぎ合わせたフィルムを見る、あの超有名なラストシーン。
厳格な神父にラブシーンをカットされブーイングしていた思い出が、こんなに素敵なシーンに変わるなんて。

「人生は、お前が観た映画とは違う。もっと困難なものだ。」
アルフレードの言葉が蘇る。
だけど、この世はこんなにも、愛で溢れている。
子どもの頃のネガティブな思い出が、こんなに素敵な形見に変わるのだから。
そんなことを感じさせてくれるラストシーンだった。

上映が終わった後も、私はしばらく席を立てなかった。
もう二度と見られなくなる光景を、この目に焼き付けたかった。
スクリーンや客席をしばらく眺めた後、ようやく席を立ち、階段を一歩一歩踏みしめるように降りた。

ロビーはたくさんの人で溢れていた。みんな、布施ラインシネマとの別れを惜しんでいる。

後ろ髪を引かれながらも、私は建物の外に出た。
写真をたくさん撮った。
そして見慣れた建物を見上げて、「ありがとう」と言ってから、帰路に着いた。



私は今でも時々、布施ラインシネマのことを思い出す。
近鉄電車の窓から、今はもう別の建物が建っているのを見て、寂しくなる。

特徴的な赤い階段。青いタイル。
ピンクの壁に浮かぶ『布施ラインシネマ』の文字。

もう二度と、あの光景を見られないんだと思うと、心がギュッとなる。


そんなとき、私は『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出すことにしている。

人も街も、変わらない部分もあれば、変わっていってしまう部分もある。
それは、長い人生の中で、避けられないこと。

だけど、目に見えなくなっても、もう二度と会えなくなっても、全てが失われてしまうわけではない。「思い出」は残っている。
寂しいけれど、自分の人生を構成する大切な一部分として、心に刻んで生きていこう。

そんなことを、『ニュー・シネマ・パラダイス』が教えてくれた。

あの映画を、あの日、閉館してしまう布施ラインシネマで観られて、本当によかったと思う。
一生、忘れられない映画になった。


たくさんの素晴らしい映画に出会わせてくれたこと、
そして、数えきれないくらいの楽しい思い出を、

心からありがとう、『布施ラインシネマ』!!!

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