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読書日記#7 美しき日本の残像

先日アレックス・カー著『犬と鬼』を読んで、彼の本をもっと読みたくなり、最初の作品である『美しき日本の残像』から読むことにした。

この本は、彼が6歳の時お城に住みたかった話から始まる。エッセイというよりは自伝的であり、お城に住みたかった少年が日本の家屋、日本建築に魅せられて田舎に住むようになった経緯や歌舞伎や茶道など日本文化との関わり、ビジネスマンとしての日本美術との関わりなどが描かれていて興味深い。

印象的なのは、アマンリゾートの創始者であるエイドリアン・ゼッカ氏の話。日本が樹木を伐採し環境を破壊する「醜い開発」を東南アジアに輸出するのに対し、ゼッカ氏の手掛ける高級リゾートはその地の環境に配慮し景観を損ねず一体化する美しいリゾートだ。カー氏が言いたいことはよくわかる。日本企業が開発するとどこも似たようなものになってしまう。彼がこの本を書いた当時はバブルの余韻もまだあったころであろうから、ピカピカの角形の大型ホテルにゴルフ場併設がよくあるパターンだったのではないだろうか。東南アジアのリゾート地にある欧米資本のラグジュアリーホテルは、一軒ずつのコテージタイプになっていて周りの自然と調和し、朝は鳥の鳴き声がして本当の「癒し」の時を感じるものだが、日本資本のピカピカしたリゾートホテルでは自然との調和や癒しといったものは考慮されていないように思う。

『犬と鬼』では失われた日本の景観やがんじがらめになっている日本経済や社会の構図をみせられ、30年前に書かれたにも関わらず、変わるどころか酷くなっている現実を突きつけられたことに気持ちが沈んだのであるが、『美しき日本の残像』では彼の美術や日本文化、東洋文化に対する深い考察がみられ、外の人からみた客観的な日本文化への見方を通じての学びが多かった。

よく古き良き日本というけれど、今の日本ではそれがどういうものだったか思い出すのは難しいが、この本にはその「古き良き日本」が描かれていると思う。


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