『もしも雪が赤だったら』 エリック・バテュ
この本のタイトルは、僕に購入を即決させるには十分すぎる程のイメージの奥行きを持っていた。
今から4年程前の夏の頃である。
地元の大分県に帰省中、友達との待ち合わせ時間までの残り15分程をクーラーの効いた空間で過ごそうと、「カモシカ書店」に立ち寄った。店の前に到着すると、屋外の古本コーナーには足を止めず、階段を登り2階の店内へと向かう。扉を開けると、クーラーでよく冷えた室内の空気が頬に向かって流れ込み、僕は夏を感じる。
『もしも雪が赤だったら』
軽い気持ちで店内を物色していた僕の視界にこのタイトルが入ってきた瞬間、脳内では、チカチカとした一面真っ赤な雪原の映像が再生された。雪原は鮮血のように赤く、降らせた雲までも赤い。世界の上下左右のどこを眺めても赤が膨張し氾濫している。街では除雪車が塩をまき、積もった雪を歩道側へ寄せながら進むのだが、僕のイメージの中の除雪車は黄色のままで、赤の世界の中では一向に引き立たない。歩道では、溶け始めた雪から赤い色素が漏れ、側溝に向かって薄い赤が流れていく。雪の塊を掌に乗せると、真っ赤な色素が滲み出て、僕の掌は浸食されていく…。
言葉が人間をイメージの最果てまで連れて行ってくれる典型例だと思った。それと同時に、今までの人生で一度もこのような映像をイメージしたことがなかった自身の想像力のなさに憤りを感じた。僕の脳みそが自身の想像力のなさに焦点を合わせた瞬間、僕は、真っ赤な雪原世界からクーラーの効いた古本屋の一室に引き戻された。その日、不意に僕の目の前に現れたこの本は、今でも僕の本棚の中に収納され、定期的に僕の想像力を刺激し続けている。
僕は、想像力を刺激してくれるこの手の詩のような絵本が好きなのだが、この本に出会ってからは、次にどの絵本を手に取っていいかわからないまま数年が経ってしまった。どなたか、詩のような絵本もしくは絵本のような詩をご存知の方がいらっしゃれば、是非僕に教えてください。
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