【書籍紹介】ティール組織 フレデリック・ラルー著 その3
前回までの記事は、こちらから。
階層・ヒエラルキーをなくした、フラットな組織であるティール。自主経営を特徴とし、管理者不在の中、戦略策定、支出の決済、各人の役割分担、給与、評定、紛争解決、採用から解雇に至るまで、チームメンバーで決定します。
本書で紹介されている12社の事例では、ことごとく「結果」に繋がっています。ちなみに、ここで言う「結果」とは「業績」のこと。ティール組織の場合、業績(財務的なパフォーマンス)はあくまで結果のひとつに過ぎず、究極のゴールは「存在目的をどの程度実現できたか」となります。
「画期的なパフォーマンスを引き起こす要因」について、本書の中で「ティール組織3つの構成要素」に沿って解説されています。
自主経営:トップの数人ではなく、全員が権限を握っていれば組織としての力が何倍にもなる。
全体性:人々が自分らしさを失わずに職場に来るので、権限の使い方に知恵が絞られる。
存在目的:社員の権限と知恵が組織の生命力と一致すると、なぜかものごとがうまく運ぶ。
1.それまでのモデルでは使われなかったエネルギーを解放する
■存在目的を通じて
人々が自分よりも大きな目的を心から理解すると、個々のエネルギーが高まる。
■権限の分散を通じて
自主経営は恐ろしいほどのモチベーションとエネルギーを作り出す。上司の為に働くことをやめ、内在的基準に照らして働き始めるのだが、実はこちらの方が目指す水準も要求も高くなることが普通である。
■学びを通じて
自主経営の下では、私たちは学習への強い意欲が沸いてくる。そして、学習の意味が、スキルにとどまらず、内面の発達や個人としての成長という領域まで広がる。
■人材のよりよい活用を通じて
組織の中で出世する為に、自分には合わないかも知れない管理職的な役割を押しつけられることはもはやない。各人の役割を流動的に調整した方が、人材と役割はうまく適合する。
■エゴを満たすために浪費されるエネルギーが減る
上司にゴマをすり、出世の為にライバルを押しのけ、縄張り争いをし、問題を起こさずに見栄えを良くするために精を出し、他人に責任を押しつけるといったことの為に費やされる時間やエネルギーが少なくて済む。
■コンプライアンスの為に費やされるエネルギーが減る
上司やスタッフ機能が持っていた無駄な統制メカニズムや報告義務を作り出すような官僚的な能力は、自主経営になるとほぼ完全に不要になる。
■ミーティングに費やされるエネルギーが減る
ピラミッド型組織の場合、情報が指揮命令系統の中を円滑に上下するよう、情報を集めたり、まとめたり、浸透させたり、伝達するために、あらゆる階層でミーティングが必要となる。自主経営の組織体ではほとんど不要になる。
2.より明確に、しかも賢くエネルギーを活用する
■感じ取る(センシング)力を磨くことを通じて
自主経営では、どの社員も周りの現実を直接感じ取って得た知識に基づいて行動する。情報は、階層組織の中で意思決定者に到達する前に失われたり、選り分けられたりしない。
■優れた意思決定を通じて
助言プロセスを用いると、同僚からの助言を受けて、適切な人が適切な判断を下す。合理的な判断だけでなく、感情や直感、美意識といった経験で培われた見識によっても意思決定が下される。
■数多くの意思決定を通じて
従来の組織では、意思決定がトップに集中しているため停滞が生じる。自主経営の組織構造では、数千もの判断がいつでも、どこでも下されている。
■タイムリーな意思決定を通じて
「海のことは漁師に問え」の諺ではないが、漁師が魚を見つけても、組織の上部から釣りの許可が降りるまで待たなければならないとしたら、魚はとっくに居なくなってしまうだろう。
■存在目的に照らすことを通じて
組織自身が自らの方向性を実感している、つまり存在目的を持っているのだと従業員が理解できれば、彼らは存在目的に照らしながら意思決定をするため、進化に向かう風に後押しされながら航海できるようになるだろう。
前回ご紹介したマクレガーのX理論・Y理論。
X理論:人間は本来仕事をするのが嫌いであり、強制や命令がないと働かないと捉える。
Y理論:仕事をするのは人間の本性であり、自ら設定した目標に対しては、その報酬により積極的に働くと捉える。
Y理論に基づき、メンバーを信じ切る。信用され、任された(権限移譲された)メンバーは、とことん期待に応えようとする。それが結果、業務として与えたタスクを遥かに上回る結果に繋がる。
私は、こういう世界観に心から共感します。そして、これまで、極力、この様に振舞って来たつもりです。
上述の「無駄な統制メカニズム」については、これまで大きな課題を感じていました。人間である以上、ミスは起きるもの。ミスした人間が反省して、再発を防ぐということが本来、やらなければいけないこと。
ところが、実際は、何かミスが起きると「再発防止」という名のもと、どんどん「統制メカニズム」が膨れ上がっていく。たまに起きるミスによる損失と、経常的に発生する管理コストを比較するという発想もなく。
例えば、食品のパッケージに記載される「法定表示」と言われる部分。原材料名であったり、アレルギーであったり。これは、ミスがあると法令違反となり商品回収しなければならない。従って、「読み合わせ」を行いダブルチェック体制を敷くというのは理に敵っています。
一方、社内文書で記載ミスがあった。今後の再発防止策として、文書発信前は必ず読み合わせをしてダブルチェックを行うというのはやり過ぎ。そこにかかるコストの方が圧倒的に高いし、どうせチェック入るからと担当者の意識が緩むというマイナス面もあります。
誤りがないように、本人が細心の注意を払ってチェックする。万一、発信後に誤りが指摘されたら、自ら謝罪し修正する。ということで良いのでは?
これは一例ですが、X理論に基づき、統制システムを際限なく強化することで生まれるのは、膨大な管理コストと「思考停止でやる気のない社員」ではと危惧します。
また、改めて紹介しますが、ティール組織の一形態であるホラクラシーでは、上述の感じ取る力(センシング)が重要視されています(ホラクラシー用語ではテンション)。
意識高く、情熱を持って業務に取り組んでいる現場の担当者が、一番最初に変化の兆しに気づくはず。それが、これまで業務フローと矛盾する、あるいは組織や事業運営に脅威を与えると判断された場合、それを「テンション」と定義します。
ホラクラシーでは、こうした日々のテンションを適切に吸い上げ、対応が必要なものを選別し、実行に移せる仕組みが整っています。上司が、自らの限られた視野及び知見で勝手に却下する。そもそも、そうなることを予見し、担当者は上司にエスカレーションしなくなる。そうしたことが積み重なると重篤な変化の兆しを察知できない、環境変化に対応できない組織が出来上がります。
各担当者が人間における臓器・器官の様に自律的に機能することで、ひとつの生命体のように運営される組織。それが、ティール組織。
本書を読んだ方は、このサマリーが参考になるかと思いますが、そうでない方には抽象度が高過ぎて、腹落ちしにくいのではと思います。
次回以降は、もう少し、本書で紹介されている具体例を紹介していければと思います。
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