【NOTE企画】こうして私は料理家になった 今井真美さんが語る出版への道
今回のセッション、NOTEというプラットフォームの価値を示すというという点で、とてもわかりやすい動画でした。
今井真美さんが、NOTEで書き溜めたコンテンツが編集者の目に留まり、出版社に提案され、出版が実現したというプロセスが紹介されました。
素人(出版経験がないという意味で)が出版に至る道は主に3つと私は考えます。
A:SNSでの発信が編集者・出版社の目に留まる
B:著者自ら企画書を持ち込む
C:マネジメント会社が所属アーチストを売り込む
今回はパターンAが、実際、どの様に進んでいくのかというプロセスが詳細に語られており、NOTEを通じて出版を夢見ている人々に希望を与えてくれます。料理本に限らない、極めて汎用性の高い内容。
ご想像の通り、パターンBは超高難易度。大半の方は、そもそも出版社に繋がる伝手がない。出版社・編集者の方は超多忙なので、どこの馬の骨ともわからない人に割く時間はないというのが実情。
パターンCで成功を収めているのがNADIA(ナディア)。Nadiaアーティストという形で料理家さん達を抱え、タレントマネジメントの手法を活かして売り込んでいく。
ここには、既に有名な料理家さん(自力で有名になった)も多数所属していますが、実際に新しいアーティストを生み出した事例も多数。一例を挙げると、りなてぃ。
今回は、今井さんの話なので、りなてぃのストーリーは、別途、詳しく取り上げることとします。
既にNadiaアーティストという名前が出て来ましたが、実は、これがナディアの新しいところ。以前は、料理家、料理研究家と呼んでいましたよね?そこに敢えて「アーティスト」という呼称をつけ、「あなた達は料理を通じて自己表現をするアーティスト」という新しい価値軸を持ち込んだのです。
どうして、この様な発想が生まれたのか?何を隠そう、ナディアの葛城社長は、元々ソニーミュージックでタレントマネジメントをされていたその道のプロなのです。その手法を料理業界に持ち込み成功を収めつつある。
すみません。話が脱線しました。話を今井さんに戻します。
今回、話をお伺いして感じた最大の成功要因は、今井さんの自然に引き込まれるストーリーを通じて、ファンダムを作り上げる能力。
簡単でちょっと作ってみたくなるレシピ、一瞬で目を惹くタイトル(メニュー名)、引き込まれる文章、「映え」る写真。そこに今井さんご自身の人柄が反映され、SNSやNOTEでの発信を通じてファンダムが形成されていく。
象徴的なのが、今回出版した2社は料理本の出版経験がなかったという点。正確には、KADOKAWAの場合は、編集者にとって初めての料理本であった。
動画中でもコメントありましたが、料理本は制作コストが嵩む。また、ムック本含め、無数の料理本がひしめく中、通常は、未経験の出版社が挑戦しようという分野ではない。
では、なぜ、今回、お二人が今井さんの出版を推したのか?それは、単純にお二人が一ユーザーとして、今井さんのファンであったから。「売れるから」という算段ではなく、こんな良いものを世の中に出さない手はない。売れないはずがない。という情熱を持って、企画を提案・実現していった。「社内で入念に根回しをした」という話も紹介されていました。
レシピをブログで紹介し、ファンダムを形成し、出版に至ったと言う点で、第一世代のYOMEちゃんを想起しました。YOMEちゃんも、レシピそのものがものすごく独創的とかではなく、子育てをしながら日常を綴るブログを通じてフォロワーとの共感が生まれ、私もレシピを作ってみたいという形でファンダムが広がっていった。かなり前の書籍ですが、下記の「レシピブログで夢をかなえた人たち」に詳しく書かれています。
今回のセッションを視聴して、「よし、私もNOTEの更新がんばろう!」と思った方も多いのではないでしょうか?
【追記(3/25)】
「毎日の新しい料理 いつもの食材に驚きをひとさじ」の編集を担当され、動画にも出演された林さんが、出版に至る経緯を書かれた記事をご紹介します。今井さんのレシピと物語に如何に魅了され、「これを出版する」という使命感に突き動かされた様子が語られています。
【追記2(3/25)】
12年前に書いた「レシピブログで夢をかなえた人たち」のメモが出て来たので追記します。
「作ってあげたい彼ごはん」シリーズで累計2百万部突破のSHIORIさんがブログへのレシピ掲載時に意識していること。
洋服や音楽を選んだり楽しんだりする気持ちで、若い子達に料理を楽しんでもらえたらとの思いから、スタイリングに徹底的にこだわる。
レシピの書き方も、若い子が読んで想像がつきやすいように、わかりやすく、噛み砕いて書く。
初めて料理をつくる子が、出来栄えを自分で確認できるように、創作料理ではなく、定番料理にこだわる。
最後にSHIORIさんのデビュー時から編集を担当されて来た宝島社の井野さんのコメントもご紹介させて頂きます。書籍は著者と編集者の二人三脚で生まれ、双方が相当の覚悟を持って臨むということが表現されています。
井野さんには、本業の出版でもお世話になったことがあり、面識があるのですが、情熱にあふれ、人間力の高い素晴らしい方です。そして、お酒の飲みっぷりも男前で素敵であることも、付け加えておきます。
【追記3(3/27)】
今回、インタビューアーをされた有賀薫さんも記事をアップされたので、追記します。「要約」ではなく、動画で紹介できなかった舞台裏の話。
料理本に限らず、出版をお考えの方全般に物凄く参考になる話です。出版企画書がどう「正しい編集者」に届き、出版社の中でどの様に合意形成がなされていくのか?赤裸々に明かされています。
私の本文でも書かせて頂きましたが、今井さんの件で一貫していることがあります。それは、関わった人達が、皆、今井さんのファンになり、「これは世に出るべき本である」という熱い想いを持って協力し合っていること。
出版はとても採算の取りにくいビジネス。刷って、並べても売れない本は返品となる独自の商慣習がある為、出版社としては「確実に売れる本」しか出版できない。
従って、「フォロワー数が少ないから却下」というのは、しごく全うな判断。元アマゾンのカリスマバイヤーで有名な出版コンサルタントの方(ほぼ特定できてしまいますが:笑)から、「初版は著者自らSNSで宣伝し自力で売ることが求められ、増刷がかかって初めて出版社のサポートが得られる」というのが現状であるという話を伺ったことがあります。
そういう状況下、関わった人達が一致団結して出版に漕ぎつけたというのが意味すること。それは、今井さんのコンテンツ(レシピとそれを支えるストーリー)が持つ熱量と、今井さんご自身の人間的魅力が突出していたということ。
これぞ、現在浸透しつつあるクリエイターエコノミーのモデルケースと言えるのではないでしょうか?
ふと、料理レシピ(&料理家のストーリー含めたコンテンツ全般)が、今後、NFTとして普及していくのではと思いました。
これだけでは、良くわからないと思いますので、良く整理をした上で、別途、記事を書きたいと思います。