ベトナム派遣日本武道代表団
11月6日から12日にかけて、公益財団法人日本武道館からベトナム社会主義共和国へ現代武道9道、古武道3流派からなる武道代表団が派遣されて、ホーチミン市で武道交流演武会が開催された。
今回の派遣は2023年(令和5年)に日越外交関係樹立50周年を迎え、日本を代表する現代武道並びに古武道の演武を現地で披露することで武道の国際的理解と普及を図り、あわせて日越友好に寄与することを目的とするものであった。高村正彦日本武道館会長を団長として、総勢約70名が代表団として派遣された。
今回、琉球王家秘伝本部御殿手も古武道流派として、天然理心流剣術、無比無敵流杖術とともに派遣され、筆者もその一員に加わった。武道代表団の各国派遣は定期的に行われているがコロナ禍の間は中止されていた。本部御殿手は2008年に宗家(本部朝正)も参加したブラジル派遣以来の参加であった。今回は多聞館の新崎師範を班長として4名が参加した。
派遣が決まった当初、本部御殿手として何を演武すべきかを考えた。本部御殿手は普段は主に日本武道館で開催される古武道演武大会に出場しているが、今回は現代武道9道(柔道、剣道、弓道、相撲、空手道、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道)とともに参加することになる。演武の内容がほかの現代武道、古武道とかぶらないように配慮することはもちろんのこと、沖縄を発祥とする古武道という特徴をわかりやすくベトナムの方々へ伝える必要がある。
結果、武の舞「浜千鳥」、取手、長刀、ヌーチク(ヌンチャク)、櫂(ウェーク)を演武することにした。
浜千鳥は、武の舞、沖縄方言で舞手と呼ばれるもので、本部朝勇が友人の琉球舞踊家・玉城盛重とも相談しながら創作したものと考えられ、一般の浜千鳥とは挙動が異なり、武術的要素が加味されている。
突き蹴りといった直線的な動きによる剛拳の技は空手型を通じて伝授されるが、取手(関節技・投げ技)のような曲線的動きの技は空手型には不向きである。したがって、本部御殿手では取手は武の舞を通じて伝授される。
1990年代以降、本部御殿手が取手の名称と存在を広めて以来、「空手には本来関節技や投げ技もあったのだ」と気づいて、こうした技を型分解などで披露する流会派が増えてきているが、本部御殿手では取手が空手型にすべて含まれているとは考えていない。
取手(とりて)が日本の柔術の古称の一つであり、17世紀には当山流取手が薩摩にあったことを考えると、中国武術の擒拿(きんな)とは別起源である可能性を考えねばならない。
話を元に戻すと、沖縄がかつて琉球王国であったという事実も大多数のベトナムの人々は知らないであろう。しかし、ヌンチャクなら誰でも知っているはずである。それで沖縄らしい武器としてヌンチャクとウェークの演武を行うことにした。
長刀は御殿(王族)が刀や槍等とともに琉球国王から拝領して所持することが許されていた武器の一つで、各御殿の家譜や江戸上り(琉球使節)の図等にも記されている。本部御殿手の長刀術は体軸をコマのようにして多人数の敵に対して回転斬りを行うのが特徴の一つで、日本のなぎなた道とも技法が異なるので、これも披露することにした。
このように演武内容を決めたので、沖縄発祥の古武道という特徴がベトナムの方々にも十分伝わったのではないかと思う。
今回の派遣は普段交流する機会の少ない現代武道の先生方と交流でき、またその演武を間近で拝見できて大変有意義であった。また天然理心流や無比無敵流の先生方とも古武道演武大会でお会いする機会はあっても、長くお話する機会がなかったので、貴重なお話や昔話が聞けて大変楽しいひとときを過ごすことができた。
また無理を言って浜千鳥の楽曲を会場で流すために尽力してくださった日本武道館並びに現地の関係者の方々にも大変助けられた。毎回矍鑠としてスピーチをされ日越友好に努めておられる高村団長の姿にも感銘を受けた。いろいろと学びの多い一週間であった。