ギムレットには早すぎる
社会人になって4年。当時26歳の僕らはバーによく行った。
何となく「若造が来たな。」って思われない歳になった気がしていたのだ。
よく友人とバーに入って1,2杯だけ飲んで、次々とバーをめぐるバーホッパーなんてことに興じたりもしたものだ。
ニューヨークタイムズの歴史に残る偉人10人にも選ばれた、上田氏のハードシェイクのギムレットも堪能した。
ちなみにニューヨークタイムズのコピーにサインまで書いていただいて、こんなミーハーな僕らに・・・と感激すると同時に大人になったな、と思った。
そうして、一人でもバーへ行き始めて、他のバーのギムレットを飲み比べたりした。
その際、色々お客さんと話すことも多くなった。上田氏のギムレットを飲んだ話なんかそれこそ鉄板ネタで話が盛り上がることもしばしばだ。
なるほど、バーは社交場とも言われるがこういうことかと思い始めた。
そんなある日のことだ。お会計をして帰るときにバーテンダーの方に出口で声をかけられた
「お客様、他のお客様の迷惑に今後なるようでしたら、入店を拒否させていただくこともあります。」
客商売に置いて衝撃的な言葉だ。
内容としてはこうだ。
料理を出されたお客さんと自分が話していて、そのお客さんが料理を中々食べられない。料理も冷めてしまうし、お客さんの時間も邪魔している。ただ、話に来ているだけなら迷惑である。
勿論、聞いた時は、あちらから話しかけてきたし、同郷ということで盛り上がったのに!と思った。
しかし、バーテンダーはカクテル造りだけでなく、お店の雰囲気づくりのプロだ。間違いはないのだろう。きちんと謝罪して、出禁にはならず帰路に就いた。
カクテルというと、甘くて飲みやすいというが、実際は度数は高いものが多い。もちろん、バーテンダーの方に相談すればアルコール度数が弱いものも作ってくれるが。
とにかくその日僕は、お客さんの迷惑もわからぬほど酒に飲まれてしまったと言えよう。
ギムレットには、早すぎた。
それから、逆にそのバーによく行った。安心して行ける場所として、当時の彼女…現家内にも紹介した。
夫婦喧嘩した時なんかは、家内の方が「バーに行ってくる。」といって気持ちをリセットして帰って来た。
今となっては、あの日注意をしてくれたことに感謝しかない。
大人でも失敗はするし、それを正してくれる場所を見つけるのも大人なのかもしれない。
ここ数年は、子が産まれバーで家内と一緒に飲むこともなくなった。
子供が独立したら、またあのバーで一緒に飲みたい。
その時はギムレットでも頼もうか。