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執念のベーコンポテサラ

 10月はいやに忙しくて、まったくの休みをとれたのが1日しかなかった。
ちょうどその日に観劇のお誘いを受けた。大学時代の級友から、ずいぶんと久しぶりの連絡である。

級友が舞台に専念していることは、大学を卒業するころから知っていた。学生時代は「レポート用紙」がなんなのかすらも分からないと言って、ぼぉっとした不思議な雰囲気をまとっていた彼が、どんな顔で舞台に立ち声を出すのか。とても興味が湧いて、私はすぐにスケジュールを確保した。

 そういえば、最後に観劇したのはいつのことだったか。確か私が東京へ経つ前の冬だったから、もう2年近く前の話かもしれない。
だれか仲の良い友人と連れ立って楽しみたい気持ちはあったが、都合が合わず。一人で抱えきれないワクワクを抱えて、当日を迎えた。

 開演の挨拶と注意事項が少しあって、すぐに会場が暗転する。そういえば私は暗闇が苦手だなと、誰彼構わず手を握りたくなるような恐怖の中で感じた。さらに悪いことに私は大きな音が苦手で、開始早々、小さな会場を包み込む様々な爆音に自然と身が硬くなってしまった。

 そして始まった演目。題目は歴史をなぞらえていて、よく聞く名前の登場人物が次々と登壇し、ストーリーが展開された。

少し前振りが長くなってしまったから、ここで単刀直入に言おう。

 私は作品を鑑賞しながら初めて「まだ終わらないで」と思った。
暗闇も爆音もなにも気にならなくなって、それどころか「この場にい続けたい」と思っていたのだ。
つまらない映画でなるように、今がストーリーのどの部分なのか、残りはどれくらいなのかなど考える暇もなかった。

 なにより素晴らしいと思ったのは全てのシーンにおけるステージング。
小さな会場、狭いステージの至るところにカラクリが仕掛けられ、小道具などを駆使して演者が舞台を飛び回る。それらのカラクリの一つ一つは感嘆に値するものなのだけれど、決してそれは作品のストーリーを邪魔しない。演者たちの息もぴったりと合っていて、誰も彼も何もかもが全力を尽くして作品を昇華させようとしていた。

 さらに言えば、誘ってくれた級友の表情と声が印象的だった。
少し見ない間にしっかりとした身体つきになっていた彼は、それでも決して大柄ではない体格で信じられないほど大きな声を出した。
場面に合わせてコロコロと変化する表情は、絶妙にその雰囲気に溶け込んでいて。よくよく気をつけていないと私は「彼」と「役」を見失いそうになっていた。
 彼は、ようやっと自分の行き先を見つけたと言わんばかりに、全身で喜びを表現しているようにも見えた。

 私にはエンターテイメントを観て泣く友人がいる。テーマパークのパレードを観て、わけも分からず涙が止まらなくなるのだそうだ。
今までそれを聞いたときは、ずいぶんと不思議に思えていたのだけれど。

 今回初めて、その気持ちが沁みるように理解できた。
実を言うと、序章に挿入された演者総出演のパフォーマンスを観て、涙を浮かべてしまったのだ。
演者のかたのそれぞれの表情や動き、それを見つめる私を含めた観客たち、全てが熱をもっていて盛り上がりに合わせて一体となっていく、どうしようもない幸福感。

 あぁ、来てよかった。と、誘ってくれた級友に心からお礼を伝えたい。

 どうか無理はせずに、出来るところまで続けていてほしい。そしてまた、あの輝いた瞳やイキイキとした笑顔を舞台上で見せてほしい。

誘ってくれて、ありがとう。

 ちなみに全く関係ないように思える本文のタイトルですが、分かる人には分かる仕様にしておきました。
同じ時間を共有した私たちだけの秘めごと。

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