【Whiskey Lovers】Blanton's(ブラントン)シングルバレル バーボンウイスキー編
世の中には、一言で終われない事だって存在する。丁寧な無駄にこそ遊び心を込めたい。
42歳を迎える友人を、お気に入りのお店で祝うことにした。毎年の誕生日をお祝い出来るのも回を重ねると、歳の歩みを知り、開催出来ることに喜びを感じるものである。実に四半世紀の付き合いになる。
ウイスキーを勉強し始めた私に、彼は問い掛けた。
「お前の人生にウイスキーが存在していないのは、俺が一番知っているよ。だけど、お前が手伝いたい理由は、よくわかるよ」
人からポップと呼ばれる42歳は、レモンサワーしか呑めないことを悟られないように、ウイスキーを眺めている。
私はポップに問い掛けた。
「仮定の話をしよう。ある日、僕はかなりタイプの女性にこう言われたんだ。ブラントンのロックをカジュアルな出立ちで飲んでいる人がいたら気にするかもしれないとね」
ポップは、レモンサワーを呑む手を止めて聞いた。
「仮定の話だが、かなりタイプの女性は俺にとってもかなりタイプの女性で良いのかな」
私は、アホとは口に出さず躊躇わずに答えた。
「もちろんだ。かなりタイプの女性は、こう言った。ブラントンは、20代の頃飲めなかったんです。そのガツン、とくる濃厚さと攻撃性のある後味が。だから、余計ロックで飲んでいる男の人を見たら、その経験さを物語ると思っています。今私に沁み入ってくるのは、少しずつ大人の経験を重ねたのかなって」
私は、ポップの返答を待った。
「そんな言われ方したら、試したくなるよな。今似合うに足るものかどうかを」
カウンター越しにこの話を聞いていたお店の青年は、ブラントンのボトルを出してくれて説明してくれた。
「その、かなりタイプの女性が僕にとってのかなりタイプの女性だとしたら、言っている意味は僕はわかりますよ。僕は初めて飲んだバーボンがブラントンだったのですけど、その色と香りを伝えようと残る後味がとても引き込まれます。そもそも、バーボンはアメリカの法律でその原料や、製法が定義されています。それを守ったものしかバーボンウイスキーを名乗れません」
私は、青年のバーボンの説明よりも、かなりタイプの女性が、みんなのかなりタイプな女性になってきた事実に嫉妬を感じたが、続きを聞いた。
「なかでも、ブラントンは曖昧なことを嫌うバーボンで、一つの樽から必ずボトリングします。つまり、同じ味のブラントンはその樽のみとなります。一つの樽からは、約250本しか作れません。ラベルには、蔵出しの日付や樽やボトルのナンバーが記されています。だから、物語るのだと思います」
そう言うと、青年はブラントンのロックを私に注いでくれた。
私は、初バーボンを味わった。そこに感じたのは女性を想像させるよりも、より男性的な強さを感じ、その気持ちをさらに一段高めてくれるかのようだった。私はブラントンから強く背中を押されるように、そしてそのメッセージを受けとりながら話した。
「話しには続きがあるんだ。かなりタイプの女性は、僕に口説かれたことはないと言うんだ。僕は毎日口説いていたつもりだったから驚愕した。かなりタイプの女性は、あなたには触りたいしか言われていないわと言ったんだ」
ポップは、私を見ながら、ゆっくりと私のブラントンを呑みながらこう言った。
「それは、ダサいな」
私はダサいことを自覚しながら、それを正面から突かれたことに戸惑ったが聞くことにした。
「では、触りたい以外で口説くとは一体なんなんだい?」
ポップは、しばらく黙ってから取り繕うように呟いた。
「口で説くんじゃないのか」
全く説明出来なかったポップに同じダサさを感じ安堵し、ブラントンの強さにより惹かれ芯からポップの42歳を祝えた。
青年は、少し申し訳なさそうに私達に伝えた。
「その女性に対して、優しさや思いやりを真っ直ぐに伝えることだと思いますよ」
10歳以上、年が離れている青年が囁いたぐうの音も出ない一言は、私達を沈思させた。
ポップは、爽やかに言った。
「優しさと思いやりを探し続けて42年か」
私は、言った。
「もう20年早く教えて欲しかったわ」
なんのはなしですか
私達が迎える42歳は、また多くの物語をくれそうだ。今年初のポップとのアイコンタクトは、このお店にかなりタイプの女性を連れてきては絶対ダメだということだった。
ブラントンで物語るには、まだまだ経験が足りないがそれに似合う男に向かいたい。
この日、レモンサワーしか呑めない42歳を仲間に加えることにした。
ロックで楽しむのも、語れるウイスキーがあればこそ。一度お試しを。
そして、どなたかご一緒しませんか。
この街が楽しくなるのにやらない理由がない。
神奈川県伊勢原市沼目3-1-45
C'est la vie.(セラヴィ)
著 コニシ 木ノ子
監修 ちひろ
マガジン作りました🥃