山奥で私は妖精になる🧚♂️それは年一で決められた事なんだ。
「このシルエットがカッコいいと思うんだ。」
促されるように私は彼に導かれた。
「なるほど。悪くないね」
曇天の下、辺りに鹿が出たと子供の声が聞こえる。川の音と子供の声。そして、来る夕方に備え焚き火を始める大人達の音。
そうした中に私達はいた。
「早く撮ってよ。悪くないねじゃないよ。鹿出たって言ってるじゃん」
彼は、私にどうやら撮影しろと言っているらしい。私は理解したフリをして動作を遅くし、彼に尋ねた。
「鹿を見たいのかい?それとも蟲を探したいのかい?よく考えた方がいいんだ。これは大事な選択だ。君は誰かが見つけた鹿をただ見たいだけなのか、それとも未知なる出会いを探すのかだ。私なら当然後者だ」
彼は、少し照れたような仕草で虫網を回しながら私に答えた。
「わかったよ。いいから撮りなよ」
彼と私は、寝食を共にし思想を伝え合う間柄だ。
そして彼には他に女王と、彼とは性別を別にした彼より2つばかり年齢を加えた血を分けたよき指導者がいる。私を含め4人体制の組織である。
私達は、年に一度の妖精会議に出席するために神奈川県の西丹沢の奥地へ来ていた。
「さぁ、神経を研ぎ澄ませよ」
私は、彼に伝え早速山に入った。
登山道とも、獣道ともとれるような道を歩く。
すれ違うような人間もいないその山の空間は、日常とは違い時間がゆっくり流れる。
ゆっくり流れるのを実感すると、自然と生き物や風の声が聴こえるようになるから不思議だ。
川の中には、おたまじゃくしがいっぱい泳いでいた。何蛙だろうか。何でもいい。
「不思議な池がある」
私に報告が上がってきた。
川とは少し離れたその場所は、誰かが造形したような溜め池だった。
「これは溜め池さんですね。話し掛けると女神が出てきます」
私は、読書家としての全知識をその言葉にぶつけ爆笑を狙った。
「全然面白くないけど」
もうすぐ、齢10になる彼女は冷めきったトーンと冷めきった目でいつの間にか私を見るようになっている。
その頃、彼は私の話しなど聞きもせずに大声で叫び出した。
「ヒキガエル‼️いや、アズマヒキガエル‼️」
どっちでもいい。と思いながらそこにアズマヒキガエルは、現れた。
久しぶりの大物に、この先何が待ち受けるのかテンションが上がった。
一つの生き物が導くように次々と違う生き物を連れてくるのは、我々蟲界隈では常識である。
出会ったヒキガエルは私達にこの先のワクワクを与えてくれるのには充分だった。
これは、一部である。
夢中になる時間ほどあっという間に過ぎるものはない。
夢中を蟲虫と書いたらいいのにと思いながら川の音を聞く。
去年も来ていた彼と彼女は、ある音を聞いてこう言った。
カジカガエルの鳴き声だ。
私は、カジカガエルの鳴き声より、その思い出を鳴き声で思い出した2人に連れてきた意味を知った。
何より、歌姫にふさわしい鳴き声をnoteには記録させられる事を私も思い出したので、私も2人に負けないくらい素晴らしいということをここに記しておきたい。
では、カジカガエルの鳴き声お聞きください。
カジカガエルの鳴き声と、ヒグラシの鳴き声が響く山は、来年の同じ時にまた思い出すだろう。
基地に戻った私達に待っていたのは、七輪が奏でる野菜が焼ける音と映える緑色だった。
そして、河原の石を割って化石を取り出すといった彼は見事に黄鉄鉱を探し当てた。
石や岩も自然の一部。そのうちに山の成り立ちや岩盤、そこに出てくる植物、生き物。全てが繋がっている事を理解して欲しいし、何よりそれを私にいつか詳しく教えて欲しいと思った妖精会議2022だった。お酒が美味かった。料理も。
何もしてないけど。
なんのはなしですか
以上、山奥で私は妖精になった一日の報告。
連載コラム「木ノ子のこの子」vol.11
著コニシ 木ノ子(妖精歴40年)