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約束よりも偶然バッタリの方が心は弾むことを知る。

私は月に何度か、友人であるポップの仕事を手伝うのだが、毎回現場に向かう車の中で、会うまでにお互いの身に起きたことを話している。特に何もなくとも何となく何をしていたのかを聞く。

「この間入院しててな、担当の看護師さんに連絡先を渡せたという自分をまずは褒めたいし、お前に褒めてもらいたいことの一つだね」

そういえばポップは、何かしらで入院して何かしらで退院して、それは特に大きなことではないと話していたことを思い出した。

これが例えば、何かしらしたことであり、大したことであった場合でも、私達はそれぞれがやりたいことを貫いて常に全力であったと知っているので、ここに私が書くポップのことは、何ら変化は起きないと思う。私達は私達を貫くだろうと思う。出来るなら私が、最後まで面白く書いてあげたいと思っている。

そんなことより、ポップが自慢気に看護師の女性を語るので、私はこの話はスルーすることにした。私は女性については、語られるより圧倒的に語りたいタイプだからだ。

私が選んだ話は、先日コンビニで遭遇した不思議な出来事についてだった。

「俺達の親くらいかそれ以上の年齢の男二人が、コンビニの駐車場で待ち合わせをしていたんだ。その二人は、もう老人と言われることに何も抵抗がない世代に見えた」

私は、老人二人がお互いに別々の方向から歩いてきて、お昼頃に待ち合わせをしている場面に遭遇した。

「まず、どうしてそれが待ち合わせだと分かったんだい?」

ほぼ第一声でマトモな返事が返って来ない男が、たまにマトモな返しをしてくるだけで得した気分になるのは不思議だ。それだけでワクワクしてしまう。

なるほど。

確かに私は待ち合わせと決めつけて話している。もしかしたらこの二人の出会いは、偶然だったのかも知れない。私は、待ち合わせになるだろう根拠を突き詰めてポップに教えた。

「ああ。それはな。一つのアイスを仲良く半分コに割って二人で食べてたんだ。それでしばらくニコニコしながら話しをしていて、また別々に帰って行ったんだ」

ポップは、私の話を真面目に聞きながらやはり珍しく、真面目に返事をしてきた。

「それだけで、待ち合わせと決めるには早くないか?俺はその話を聞いて『偶然バッタリ』さんパターンが浮かんでくるね。『偶然バッタリ』さんが、仲良くアイスを食べて帰る方が面白いだろ?」

果たしてそうだろうか。この状況で「偶然バッタリ」さんをして、その勢いだけでアイスを食べて帰る方が面白いのだろうか。この感覚は私には分からなかった。

私は、アイスを半分コにするためだけに待ち合わせをしていて、きっと大きなカレンダーに震えた文字で赤ペンを走らせ、その日のスケジュールに「コンビニでアイスを食べる」としか書いていないであろう老人二人を想像して面白いと思っていて、なんてかけがえのない一日なのだろうかと感じていた。「偶然バッタリ」が「待ち合わせの約束」をこえる感情を生みだすものなのか気になってきていた。そして、何よりもコンビニで、ただニコニコとアイスを分け合い話をして帰る老人達が本当に面白かったのだ。私はそれを告げた。

「オーケー。仮に『偶然バッタリ』さんだったとしたら、あそこまで幸せそうにアイスを半分コにして分け合って楽しそうになんて出来ないはずだろ。前から『約束』をしていての半分コだからこそ、あんなに二人は楽しそうにしていたはずなんだ」

この日のポップは、真面目だった。年に数回しかみられない姿だった。入院して何か価値観が変化したのかも知れなかった。それか、よほど担当の看護師さんがキレイだったのかどちらかしかあり得なかった。願わくば、看護師さんは関係ない方向を期待していた。

「いいか。その『偶然バッタリ』さんの二人が、俺達みたいな関係だったらお前はどう思う?四十年後の俺達がコンビニで『待ち合わせの約束』でもないのに『偶然バッタリ』するんだ」

返す言葉が、浮かばなかった。

「それは、確かにアイスを半分コにするかも知れない」

と、言ってしまっていた。

私は、物事や現実を「自分に置き換える」ことを想像していなかった。いつまでたっても老人とは、私の中では確固たる老人であり、きっと自分が老人になることをいまだに想像もしていないことに気付いた。しかし、現実に確実に、しっかりとしたスピードで老いは私を迎えに来ていて、その実感を確かめるような会話も増え続けて生きている。

もしかしたら、ポップは入院中に何かを考えていたのかも知れない。家族、仕事、生き方。何かを振り返るには必要な時間だったのかも知れない。看護師さんも、もしかしたらポップの心境の変化の重要な部分を占めていたのかもしれない。

私は少しだけ看護師さんのことを聞いてあげれば良かったと感じていた。現実から先の将来を見て自分と置き換えることの出来る台詞は、昔のポップからは考えられないからだ。

そうなると「偶然バッタリ」さんの奇跡の方がはるかに人生を彩る気がしてきていた。「約束」して会うのも悪くはないが、身近にあるコンビニなどの日常で起こる「偶然バッタリ」の方が遥かに嬉しい気がする。日常生活の予期せぬ出会いほど、きっと心が弾むはずだ。

それは、コンビニがコンビニ以上の存在に変化することなのかも知れない。それはコンビニではなく、「コンビ『に』」くらいの変化だ。もしかしたら、コンビニとはコンビ『に』向けてのお店なのかも知れない。私の頭の中では、正解を導き出したかのように、あの老人達がいよいよコンビとして私の目の前でハイタッチをしていた。

私は自分にゾッとした。ここで初めて気付いたのだ。

「あなたと、コンビに、ファミリーマート」

このファミリーマートとのキャッチコピーの表記は「コンビ『に』」だということに。音だけで覚えていたので、表記を気にするまでは至らなかった。調べて興奮した。私は、老人二人から、ついにコンビニの謎の意味を知るところまで辿り着いてしまったのだ。

そうなると、これはもう、あの老人達の一回のアイスの重みが違う気がしていた。「コンビ『に』」なった老人がコンビニで「偶然バッタリ」アイスを半分コにして食べているのだ。それはもうコンビの歴史の一部だ。

私は、とんでもないところまで辿り着いたのだが、それをポップに説明しても何の意味にもならないことを知っていた。

「とりあえず、俺はお前と八十過ぎて『偶然バッタリ』さんしたとしたら、楽しくなることが分かったよ。一つだけお願いしたいのは、それは『ファミリーマート』が良いってことだ。それにしても、お前がこんなにも『偶然バッタリ』を大事にするような男だとは思わなかったよ」

私は、ロマンチックポップを正直に賛辞した。

「それはな『偶然』入った飲み屋で『バッタリ』担当の看護師さんに会ったんだ。俺が届けたくて渡した連絡先は看護師さんに届くことはなかったのだけど、不思議なことに飲み屋で『偶然バッタリ』さんだと自然に連絡先を交換出来るもんなんだ。世の中は『約束』よりも『偶然バッタリ』なんだ」

これだから、私はこの男を嫌いになれない。

「つまり、それは今後があるってことかい?」

私は、期待を込めて聞いた。

「『偶然バッタリ』ではなく、それは完璧な『約束』なんだ。そして、それはお前も含め四人でだ」

今さっき、『約束』より『偶然バッタリ』の方が良いと言っていた男が、もう『約束』を大事にしてることに抱き締めたくなったが、とりあえず私は、嬉しいことを悟られずに冷静を装った。

「だったら俺はその場所に『偶然バッタリ』を装うよ。その方がドラマだ」

ポップは何も言わずに笑っていた。

人生は、狙うより「偶然バッタリ」くらいが丁度良い。

演じるくらいで良い。

私達は、久しぶりの開催未定の魅惑会に浮かれている。

そして、それが決して開催されなくて、たとえ二人で呑んでたとしても「偶然バッタリ」が、この先の世の中にもあるかも知れないと思えるだけで良かった。

そして、私達がお酒を交わさなくなっても、「偶然バッタリ」とアイスを半分コにしてファミリーマートで分ける日が来ても良いと思っていた。

なんのはなしですか


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