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JGP(一定賃金雇用の無制限供給)は経済を救えるか

現在、日本経済は1990年代から続く20年来の不況(長期停滞)に悩まされています。

世界経済も、リーマンショック(世界同時金融危機)の余波を未だ脱し切れてはいません。

また、仮に今後こうした不況から脱することが出来たとしても、脱するまでに多くの人々が経済的被害を受けたことは払拭できません。

なぜ不況は起きるのでしょうか。

ミンスキーの金融不安定性仮説にもあるように、金融資本主義経済は、「バブルとその崩壊」というサイクルを不可避的に持ちます。あるバブルの崩壊を別のバブル形成で糊塗することも出来ますが、それは単に崩壊を先送りしているだけです。

こうしたバブルの崩壊により、不況は訪れます。この激しい経済変動は、人々の生活を経済的に混乱ないし困窮させることになります。

また、不況の問題とは別に、いわゆる「ブラック企業」に代表されるような雇用・労働問題も取り沙汰されるようになっています。

勿論、不況による労働需要減少とまったく無関係というわけではありませんが、それはともかくとしても、逃げ場のない労働者の足元を見た過酷かつ賃金の低い労働が、国民の生活を経済的に大いに傷つけています。

加えて、イノベーションが私たちの生活を必ずしも豊かにしないかもしれない、という話で引用した研究では、安すぎる賃金で扱き使える労働力があるということそれ自体が、イノベーションの利用とそれによる成長を抑制することになってしまいます。

こうした経済問題の発生や害をどうしたら抑制できるのでしょうか?

一つの方策として、現代金融理論(Modern Monetary Theory, MMT)派から提唱されているJGP(Job Guarantee Program)(JGとも呼ばれる)があります。

JGPの核の目的は、「高インフレなき完全雇用の実現」ですが、そこから派生して様々な経済効果を得ることが出来ます。

JGPがなぜ景気変動の弊害の抑制や、雇用・労働問題の抑制等に働くのか……関心のある方は、ぜひご購読願います。

以下の章立てで論じていきます。

①JGPが景気変動やその弊害を抑制するメカニズム

②JGPが雇用・労働問題を抑制し、且つ成長を促すメカニズム

③JGPは財政的に可能か

④JGPの問題点

※※※このコラムは、望月夜の経済学・経済論 第一巻(11記事 ¥2800)、望月夜の雇用・労働論まとめ(4記事 ¥900)にも収録されています。※※※


①JGPが景気変動やその弊害を抑制するメカニズム

JGPは、タイトルにも書いた通り、一定賃金雇用の無制限供給を志向する政策です。その際の賃金は、一般に最低賃金ラインを想定されています。(というより、仮に一定賃金雇用の無制限供給を行えば、それ以下の賃金の雇用は消失し、結果的にJGP賃金が最低賃金になるわけですが)

もちろん、高すぎる賃金に固定してしまえば、民間企業から労働力を剥奪しすぎることになってしまい、低生産-高インフレに帰結することになります。それは好ましくないでしょうから、許容可能な(一定)賃金は慎重に選択される必要があります。

しかし、許容可能な(一定)賃金が選択されている限りにおいては、JGPは完全雇用及び雇用の安定に大いに資することになります。

景気変動の最大の問題は、それに応じて雇用量や雇用の質が大きく変動し、労働者層に経済的な混乱や困窮が生じることです。

JGPは、景気が悪いときに失業者、および雇用の質が低下した(賃金が低くなったり労働内容が過酷になったりした)労働者を救済できます。

また、雇用の悪化を抑制するということは、労働者層の消費・投資を安定化させるということにもなり、これは景気悪化自体を抑制することにもなります。

JGPが従来の雇用創出事業や給付措置より好ましい点は、即効性と公平性です。

雇用創出事業の場合は、どの分野にどれだけの資金を投入するかという侃々諤々の議論で対応が遅れ、給付措置の場合は、誰にどれだけの給付をすべきかという議論および調査の分だけ遅れが生じる。JGPにその遅れはありません。

また、雇用創出事業では、資金投入された分野に雇用が偏るし、また引き受けた業者にマージンを抜かれていってしまうので、公平ではありません。そもそも恣意的な運用をされる可能性もあります。JGPは基本的に無差別であり、このようなタイプの不公平性はありません。

こうして、JGPは、即効的かつ公平な雇用安定化を実現し、ひいては景気安定化にも繋がるという効果を持つのです。


②JGPが雇用・労働問題を抑制し、且つ成長を促すメカニズム

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