
ケインズ経済学モデル概説…IS-LM、マンデルフレミングモデル、AS-AD
「ケインズは死んだ」と喧伝されるようになって、既に長い年月が経過しています。(ロバート・ルーカスが『ケインズ経済学の死』というスピーチをしたのは、1970年代のことだそうですので、死が宣告されてから実に40年もの年月が経過していることになります)
ケインズの死として表現される事象には色々なものがありますが、大まかに言えば
「『名目総需要が経済において問題になる』という考えが、新しい理論において否定された」
「したがって、金融財政政策が経済に対して有効であるという考えも否定されるようになった」
「基礎的なミクロモデルと合理的期待形成を前提にしないマクロモデルが忌避されるようになった」
といった具合になるでしょう。(正確には、3番目の事象から、演繹的に1番目と2番目の事象が導かれるという構造です)
これに対する部分的な抵抗としてニューケインジアンという枠組みが生まれましたが、それはあくまで古いケインズ経済学への否定を受け入れた上で生まれた枠組みです。
ところが、死の宣告をどれだけ過ぎようと、旧式のケインズ経済学(オールド・ケインジアン)が本質的な意味で死ぬことはありませんでした。
1998年にポール・クルーグマンが古いどマクロに首ったけで述べたように、実務レベルでは簡易的分析手法としてオールド・ケインジアンのモデル(特にIS-LM)が脈々と生き続けています。
ポール・クルーグマン自身、2011年にケインズ氏と現代人というスピーチで、旧式のケインズ経済学の基礎的な理解をもとに、現代の経済学者たちの各種言説を批判しています。
また、リーマンショックに端を発する世界同時金融危機において、主流派モデル(RBCモデル、及び当時のDSGEモデル)は使い物にならなくなり、流動性の罠を取り込んだIS-LMといった、"旧い"モデルだけが参考になった……と、当時オバマ大統領のもとでNEC委員長を務めたローレンス・サマーズが述懐しています。
他にも、2013年に経済学者のマーク・ソーマは、「ケインズ経済学をめぐる『7つの神話』」という記事で
「危機の過程で現代の「ニューケインジアン」モデルにも修正が加えられることになったが、修正されたニューケインジアンモデルがオールドケインジアンモデルから引き出される政策処方箋を一般的には支持する傾向にあるのは興味深いことである。」
と述べました。要するに、オールド・ケインジアンの分析は、概ね正しいということが分かりつつあるのです。
こうした次第ですから、"旧い"ケインズ経済学のモデルを整理することには、現代的にも意味があると考えます。
もちろん、そのまま解説するのは、単に入門教科書の二番煎じになってしまって面白くありませんし、MMT(現代金融理論)をバックボーンにする私から見れば、誤りを含むと思われる部分もありますから、そうしたことを考慮しつつ、IS-LM、IS-LM-BP(マンデルフレミングモデル)、AS-AD(総供給-総需要モデル)を概説していこうと思います。
関心のある方は、ぜひご購読お願いします。
※※※このコラムは、望月夜の経済学・経済論 第一巻(11記事 ¥2800)にも収録されています。※※※
①IS-LM
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(図引用元:熊本学園大学)
IS-LMは、上図のように、利子(金利)と所得の二軸グラフを用いて、均衡利子率(均衡金利)と均衡所得を求める理論的枠組みです。
IS曲線とLM曲線がそれぞれ何を表現しているのか、順を追って説明していきましょう。
Ⅰ. IS曲線
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