保育園で1対1のかかわりを大切にするということ
保育園というと、大勢の子どもたちのなかで保育者が忙しそうに動きまわっている、そんなイメージを浮かべる方も多いと思います。
保育園でも、子どもがおうちで親とゆっくりじっくりかかわるようにすごせたら理想だと思いませんか?今回はそんな保育方法をご紹介します。
保育の方法は園によってさまざま
○○式とか名称がついているならまだしも、保育園の保育なんてどこもだいたい同じでしょ?
そう思われている方もおられるかもしれませんが、実は一概に保育園といっても、その保育手法は実にさまざまです。
たとえば森のなかで一日中たくましくあそんですごすところ、乳児のうちからドリルやフラッシュカードをするところ。
極端な例をあげましたが、そんなふうに保育園によって子どもたちの一日の時間のすごし方にはけっこうなちがいが出てきます。
そしてすごし方はもちろんのこと、そのなかで保育者がどのように子どもにかかわるのかにも、大きなちがいがあるのです。
いわゆる「 一斉保育 」
まず前提として、保育園には同じくらいの発達段階の子どもたちがたくさんいます。それに対して大人はほんの数人。
たとえば保育士1人に対して0歳児は3人、1歳児であれば6人にといった具合に、保育士ひとりがお世話をできる子どもの人数が定められているので、その規定通りの配分になっている園がほとんどです。
本来であれば家庭やなにがしかのコミュニティのなかで、大人と1対1かそれにちかいかたちですごしていたものが、急に複数人のなかのひとりとして扱われることになってしまうのです。
そのような条件のもと、保育園によっては「 みんな同じタイミングでトイレに行き、みんな同じタイミングでごはんを食べ、保育者が決めたあそびをみんなでいっせいにする 」という保育手法をとるところもでてきます。
いわゆる「 一斉保育 」と呼ばれているものです。
「 一斉保育 」で起こること
この「 一斉保育 」ではどんなことが起こるのかというと、
たとえばごはんの時間を例にあげてみましょう。
離乳食が始まったばかりの子どもややっとスプーンを持てるようになったくらいの子どもたちだと、うまく食べものをすくえるか、口までじょうずにもっていけるか、しっかりかんだり飲みこんだりできるかの具合もさまざまです。食べこぼしたり、あそび食べしたり、途中で食べるのをやめてしまうこともしょっちゅう。
数人ずつのグループにわけたとしても、そのような段階の何人もの子どもたちを保育者がひとりでお世話することになります。
そうなるとそこはもうさながら戦場。
あっちの子に白ごはんを食べさせ、そっちの子の汁椀をささえ、こっちの子がこぼしたおかずをわきに寄せ…。
一人ひとりの子どもの食べ方や食器のもち方をていねいに見てサポートしてあげる時間もなければ、食事のおいしさ、楽しさをいっしょに感じる余裕もありません。食事が終わったあとの机の下は、食べこぼしですごいありさまです。
「 一斉保育 」だと、食事の場面だけでなく、排泄にしろ着替えにしろあそびにしろ、一事が万事このような調子になってしまいがちなのです。
せっかく人間としてもっとも爆発的な成長をとげるこの時期に、じっくりとていねいに大人にかかわってもらう機会を逃してしまうことは、あまりにももったいないことです。
同じ保育者が同じ子どもに1対1でかかわる保育方法
そこで、貴重なこの時期の子どもの発達を充分に保障するためにおこなわれるのが、みんなであそんだりするとき以外の、生命の維持や心の安定に必要なかかわりの部分を、できるかぎり毎回同じ保育者が同じ子どもに1対1でかかわる保育方法です。
この方法では、みんなが同じタイミングでいっせいにごはんを食べたり、トイレに行ったりということはしません。
一人ひとりの生活リズムにあわせて順番に、保育者と1対1で、トイレのお世話をしてもらったり、ごはんを食べたりしていきます。
そうすると「 一斉保育 」ではとてもカバーしきれないところも、きめこまやかに配慮してかかわることが可能になるのです。
人間の根本的な土台の形成にかかわる愛着関係
1対1でかかわるという保育が重要なのは、ていねいにケアをしてあげられるという理由のみではありません。
その子どもの一生を左右する、人間の根本的な土台の形成に直結しているからです。
乳児はある特定の人間と愛着関係という関係をきずくことによって、心を安定させます。
愛着関係とは、子どもが不安なとき、何かこわいことがあったとき、ある人間のことを「 この人はかならず自分のことを守ってくれる 」と信頼できる関係のことです。
こうして心が安定することで、子どもは意欲的になれ、脳の健全な発達が十分に促されます。
逆に心の安定しない状態、つまり慢性的なストレス化におかれると、脳の発達を阻害するホルモンが分泌され、将来にわたって学習面だけでなく、感情や行動のコントロールや健康上の問題にもつながることが科学的にも証明されています。
それほど小さい子どもにとって、心の安定とは重要なものなのです。
愛着関係をむすぶには…
この心の安定をもたらす愛着関係を子どもとの間にむすぶには、どんなことが必要なのでしょうか。
それは子どもの行動や反応に対して、そのたびにあたたかさをもってしっかり応答することです。
おなかがへったら食べさせる。排泄をしたら清潔にしてあげる。眠くなったら寝かしつける。泣いたら思いによりそったり願いを汲みとったりする。
見つめられたらほほえんだり語りかけたり、同じものに一緒に意識をむけたりする。
それを何度も何度も繰り返すことによって、その人との間に信頼がうまれていくのです。
たとえばこのときに、毎日お世話をしてくれる人がころころ変わってしまうような保育の仕方だと、子どもは自分がいったいだれを頼ったらいいのかなかなかわからず、愛着関係がはぐくまれにくくなってしまうのです。
そうすると保育園での自分の生活によりどころを見つけられず、つねにどこか不安な状態が続いてしまうことになります。
心が安定していないと、落ちついて周りを観察したり、新しいことにとりくんでみようという意欲もうまれません。
そういう理由からも、生きていく上で重要な場面を1対1でお世話してもらう保育方法によって、保育者と子どもに愛着関係をしっかりとむすぶことが非常に重要になってくるのです。
子どもたちの発達を最大限に保障するために…
大勢の子どもたちが通う施設でありながら、保育園でもこのように保育の仕方を工夫することによって、おうちのように1対1でのかかわりを保障することができます。
1対1の保育を保育園で大切にするということは、
すなわち子どもたちの発達を最大限に保障しようという保育園の保育に対する意気込みにほかなりません。
皆さんもそれぞれの保育園での保育の仕方や、保育者の子どもへのかかわり方がどんなものか、注目してみてくださいね。