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ブランドを価値を共に作り出していく。新しい「YouTube CM」の制作過程を探る
Introduction
「世界中に、もっとフェア・トレードを。」の実現を目指し、自動車流通市場のDXを進めるMOTA。従来の車買取一括査定サービスでは査定に参加した全業者から電話が殺到する煩わしさが売却希望者にとって大きな負担でした。
そこでMOTAはコロンブスの卵的発想により、査定に参加した最大20社の中から査定額上位3社にだけ売却希望者の個人情報を伝える「事前査定方式一括査定サービス」を開発。
このサービスにより、売却希望者にとっては電話対応によるストレスが減り、入札企業にとっても商談が効率化できるようになりました。
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このサービスの更なる認知拡大に向け、2024年11月下旬より、新しいCMがリリースされてました(YouTubeで放映)。
どのような思いで新CMを制作したのか。今回のCM制作過程は、2024年1月に全国で放映したテレビCMとどう異なるのか。
ブランド戦略室GMで取締役の髙木康正と、マーケティング本部 本部長の栁澤祐太に話を伺いました。
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カメラモニターを通して栁澤と髙木が見ていたもの
── 新しいCMの撮影場所であるカフェで、お二人は熱心にモニターを見ていらっしゃいました。それぞれ何に着目していましたか?
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栁澤 僕はバカリズムさんのセリフや表情が、CMを見る側にどう捉えられるのか? という点に着目してモニターを見ていました。表情が曖昧で感情を汲み取りにくいと感じたら、「こっちのパターンに変えてください」など、リクエストしました。
バカリズムさんが着用しているMOTAのTシャツロゴがコーヒーカップにかからないように、などブランディング的な視点でもチェックしていました。
髙木 僕の着目点は二つです。一つ目は、事前に送られてきた絵コンテから読み取ったイメージと実際の撮影内容に乖離がないか? 二つ目は、映像の視認性と可読性が高いかどうか?
演者さんの存在が立つべきところで立っているか、打ち出したいメッセージと動作が矛盾していないか、表現がメッセージのプライオリティとトーン&マナーも含めて合っているかどうか、声が聞き取りやすいか聞き取りにくいかを、画角も含めてチェックしていました。
栁澤 僕と髙木は同じモニターを見ていても、違う視点で別のところをチェックしていました。専門スキルが全然違うので、お互いの着眼点は信頼して任せています。
── 新CMの制作で留意した点があれば、教えてください。
髙木 今回のCMのテーマは、”クリアにメッセージが伝わること”です。具体的な訴求内容は二点。一点目は価格が高いか安いか、二点目はいかにストレスなくラクに使えるか、です。この二点の訴求を際立たせ、伝わる内容となっているかを常に念頭に置いていました。
栁澤 「他社の一括査定との違いをどう表現するか、MOTAの魅力を如何に伝えるか」という部分で今回は苦労しました。加えて、CMは尺が短いので、メッセージを削ぎ落とす作業も大変でした。結果、「一般的なサービスを使うとこうですが、MOTAを使うとこうなります」というのをシンプルに伝える内容になりました。
髙木 前回のCMとの比較でいうと、前回は見せ方がめちゃくちゃシンプル、メッセージ内容は盛りだくさん。対して今回はメッセージがシンプル。仮想空間ではなく、ユーザーの日常をありのままに近い形で表現しました。見せ方は色をつけたりして要素を多めにしました。ここに至るまでには、広告代理店さんに7〜8パターンほど出していただきました。
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栁澤 セリフが同じでも、タレントさんの表情ひとつで「他社批判している」と考査(※)に引っかかる場合もあります。ですので、ほとんど分からないような細部にもこだわりました。
髙木 「CMを見たとき、自分がどれだけサービスを使っているシーンを想像できるか」を重要視した、というのもあります。前回のCMは見せ方をシンプルにし過ぎたためにユーザーがサービスを自分ごと化できない、という課題が生まれました。ですので、今回はカフェという日常空間を舞台にし、情報の非対称性が生まれないフェアな表現にしました。
※ テレビやラジオなどの放送広告が、法令や放送局の基準に違反していないか、視聴者に不適切な印象を与えないかなどを事前にチェックするプロセスのこと
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ふわっと作らない。分析と検証を重ね、徹底的にロジカルに作る
── 今回のCMの制作過程を、さらに詳しく教えてもらえますか?
栁澤 振り返ると今まで、CMを計4作制作してきました。今回は「過去の作品を振り返り、一番申し込みにつながったクリエイティブはどれだったか?」という検証からスタートしました。
前作では情報保護の安心・安全を訴求したものと、高く売れるという訴求をしたもの、二つのパターンを制作しましたが、これらを比較すると、高く売れる、と訴求したほうが視聴後にWeb検索されている回数が多いことが分かりました。というように、過去のCMを徹底的に精査。「これまでこういう結果だったから、今回はこの要素を強めに訴求をしよう」と、細かな分析と検証の積み上げを行いました。
さらに競合他社の過去数年分のCMも見て、“車”という要素の有無やタレントさんの起用の有無でWeb検索に何%の違いが出るかも分析。その結果も反映させました。
── CM制作というと、発想勝負な印象がありましたが、データの積み上げなんですね。
栁澤 おっしゃる通りです。これまで、特にテレビCMでは「こういうイメージで作るといいですよ」と協力会社からご提案いただくことが多かったのですが、今回はそのような与えたい印象起点ではなく、データ分析と検証を徹底し、MOTAのサービスやブランド認知を高めるための広告をロジカルに作りました。
精度の高いデータが取れる会社、分析力に長けた会社にも協力を依頼しました。僕はWeb広告出身なので、Web広告ではバナー一つとっても色を青にするかピンクにするかで申し込み率が30〜40%変わるような世界であることを知っています。
認知広告は少しでも方向性を間違えると、効果がないのにコストを垂れ流すような結果を招きかねません。ですから、そうならないように徹底的に分析をし、必然性のあるCM作りを心掛けました。
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── 分析と検証、そして新CMに必要な要素を洗い出した後、髙木さんはどのようにクリエイティブに落とし込んだのでしょうか?
髙木 栁澤から「情報保護の安心・安全訴求はユーザーのWeb検索にほとんどつながらなかった」という話がありましたが、「では、なぜつながらなかったのか?」、「どのようなクリエイティブなら勝ち筋に結びつくのか?」という失敗からの検証をまずやりました。
僕は、ブランディングとは社会における存在価値を戦略的に高める行為だと思っています。今回のクリエイティブの範疇で話をしますと、特に重要視したのは時代性です。90年代以降、インターネットが普及し、個人による発信が大きな影響を及ぼすものになりましたが、ブランドというのはどこまでいっても相対的なものですから、個人が発信できる現代で重要なのは「誰がそのブランドを評価しているのか?」「どういう観点から評価しているのか?」というインフルエンサーの存在。
そんなインフルエンサーの心に刺さるものを作ることこそが、ブランドの価値訴求につながると考えています。インフルエンサーには、MOTAのよさを実感してもらい、MOTAの価値を光り輝く一点ものとして拡散してもらいたいと考えています。
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CMは昔から全方位的に訴求できるマーケティング手法ですが、作って流したらおしまいではなく、CMのリリース後に興味関心を持って流入してくるユーザーがその後どういう体験を経るのか? どうしたらMOTAというブランドを選択し、CVR(=問い合わせ件数の割合)につなげることができるのか?
そこまで追っていかないと、今の時代にCMを作る意味はありません。ユーザーが購入に至るまでに経る心理行動のプロセスを「認知→理解→好感」だとすると、認知のフェーズまででも最低3年かかると考えています。
中でも最初の一歩である「正しい認知」というのがとても重要で、少しでもそこを間違えると、理解と好感のフェーズにおける戦略もガタガタと崩れてしまいます。
ですから、今の段階では試行錯誤しながら、どういうメッセージを送ればユーザーに刺さるのか、われわれの価値提供の仕方は正しいのかどうかを分析中です。そしてこれは今回に限らずですが、完成したプロダクトに一貫性を持たせることが、僕の役割だと思っています。
今はブランドの価値を共に作り出していく時代
── ユーザーに正しく認知してもらうために、具体的にどのようなことをしていますか?
栁澤 CMを作るときは、最初にうちの長所と短所、業界全体の長所と短所を列挙します。その上で、今MOTAが伝えるべき点はこれ、次はこれと優先順位を決め、「MOTAを選ぶ理由」を明確にしてから次に「伝え方」を決めます。
より具体的にいいますと、「うちは最大20社が競い合います。そのうち高額をつけた上位3社だけをご紹介します。そんな仕組みですから価格も自然に高くなりやすいです。ひっきりなしに電話がかかってくることがないので、煩わしさも少ないです」というMOTAの長所を明確にした上で、「他社の一括査定では決して味わえない価値をMOTAは提供します」と訴求します
髙木 例えば「安くていいものがほしい」とか「正確な情報に触れたい」というのは、人の普遍的で根本的な欲求です。
ブランドを確立するための最初の3年は、大多数が求める普遍的な価値を共有するための土台づくりの期間だと思っています。そこで築いた土台に、MOTAらしさ、MOTAが持っているベネフィットをプラスして正確に届けることが大事だと思います。
それを外さずに「中長期的に一貫性を持ってメッセージを届けていくこと」を僕は大事にしています。
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栁澤 定期的に行っている認知度調査の結果によると、MOTAの認知度は、競合他社に比べてまだまだ低いのが実情です。しかし、サイト名を実際に検索してくれるユーザーは知名度の高い競合他社に比べてうちの方が倍くらい高かった。
つまり、MOTAの認知はまだ広がっていないものの、うちのクリエイティブに触れた人が実際にアクションしてくれる割合は競合他社より高く、その点はうちのブランディングやCM戦略が上手くいっているといえると思います。今後は認知度を高めることで、成果も着実に上がると確信しているところです。
── MOTAではCMの配信後、具体的にどのような検証をしていますか?
栁澤 「MOTAというキーワードがどれだけ検索されているか?」は必ず数字で追うようにしています。さらにアンケートなどで競合他社を並べる形で「どの会社のCMが記憶に残っていますか?」といった調査も定期的に行います。元々ほぼ0%だったうちの認知度が、今は12%くらいまで上がってきています。今回の新CMを流した後にもまた認知度調査をやろうと思っています。
髙木 今は、あらゆるプロフェッショナルが一緒になってブランドの価値を共に作り出していくことが非常に重要な時代です。自社判断だけでは正しい価値訴求ができません。そこで広告代理店、マーケティングの支援組織にも入っていただき、総合的な検証と価値訴求をしていきたいと考えています。
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── バカリズムさんの起用には、どんな意図があったのでしょうか?
髙木 例えばですけど、今どき、めちゃくちゃまずいラーメン屋さんなんてないと思います。どの店も味はそこそこ担保されている。そんな中、100軒のラーメン屋さんから「一番おいしい店」を選ぶとなると、そこは主観や好みに頼るしかないわけです。
つまり今、世の中にはさまざまなサービスやプロダクトがありますが、質の差は極めて小さく、けれども多くの一般ユーザーには明確な判断基準がありません。となると、頼りになるのは目利きの存在。MOTAにとって誰が目利きか? という観点で起用したのがバカリズムさんです。
栁澤 最初にバカリズムさんを起用したときは、車買取業界全体に負のイメージが蔓延していました。タレントさんの事務所から断られる可能性もあり、車業界に対する外部の目も非常に厳しかった。
そのような空気の中、社内でタレントさん起用の検討を重ねたところ、「バカリズムさんは公平性が際立つ」「MOTAのサービスのイメージにマッチする」という結論に至りました。先方の事務所からも出演をご快諾いただけたので、お願いする運びとなりました。
YouTube CMは、都市部に最適な媒体
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── 今、テレビCMよりYouTube CMを優先する理由はなんでしょう?
栁澤 YouTube CMは、視聴してほしいターゲットを決めることができますし、この動画のこのシーンで離脱した人が◯%など、詳細なデータを取ることもできます。「このタイミングで離脱するなら、セリフのタイミングを変えてみよう」など、改善のための対策を取ることもテレビCMに比べると容易です。論理的に検証と分析と改善ができれば、企業として投資もしやすい。
そもそも最近のデータを見ると、テレビの利用率1位は、放送ではなくYouTube。データも取れるし、改善もしやすいという点で、YouTubeは最適な広告媒体だと思います。ただ、これが都市部ではなく地方ですと今もテレビが優位だったりしますので、全国規模で考えた場合、テレビも併用する必要があると考えています。
YouTube CMを流すことで、ユーザー層の変化もありました。MOTAが初期の頃、ユーザーの年齢層は35〜44歳が一番多く、次は50代でした。ところが今、1位が35〜44歳というのは変わりませんが、次は25歳〜34歳になりました。これはYouTube視聴層へリーチできたことによる結果だと思っています。
── CM制作や放映に関して、今後に向けての課題はありますか?
栁澤 今、車の一括査定サービスの中で、MOTAは選ばれる会社ナンバーワンに近づいていますが、そうはいっても一括査定に出す層の倍近くはディーラーに下取りを頼むのが現状です。下取りを利用している方にもMOTA車買取を使っていただけるよう、CMも常に試行錯誤しながらブラッシュアップする必要があると考えています。
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── MOTAならではのクリエイティブの面白さは、どんな点でしょうか?
髙木 今は個でバリューを発揮する時代ではなく、コラボレーションの時代だと僕は考えています。お互いの意見や考えを尊重しながら、かつ自分の職能も活かし、掛け算で成果を最大化することがMOTAのクリエイティブの重要な点であり、面白さともいえるでしょう。
── 最後に、採用に関して。「こんな人にMOTAに入社してほしい」というイメージはありますか?
栁澤 プライベートでも仕事でも、データの分析をすることが楽しいと思える方、何事も試行錯誤しながら進めていくのが得意な方は、ぜひうちに来ていただけるとかなり面白いと思います。
髙木 先ほどと重複しますが、「さまざまな職能を持った人やさまざまな職種の人とコラボレーションして、よいものづくりがしたい」と思っている方にとって、MOTAは最適な環境だと思います。そう思ってくださる方にぜひ入社してもらいたいです。
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Interviewee
髙木康正(たかき やすまさ)
取締役、ブランド戦略室 GM、ディベロップメント本部 本部長
大学在学中にプロのミュージシャンを志し上京。2000年にメジャーデビューを果たし、プロミュージシャンとして音楽活動を展開。2011年、株式会社リブセンスにWebデザイナーとして入社し、主要3プロダクトのチーフデザイナーを務める。プロダクトの立ち上げから運営に携わり、同社のコーポレートブランディング責任者としてデザイン開発を主導。企業ブランディングの基盤を確立する。2019年に医療教育領域の課題解決を目指し起業。医師や医学生向けの教育事業を立ち上げ、運営に従事。2023年、株式会社MOTAに入社。取締役CDOとしてブランド構築、組織活性化を通じて、デザインの力で企業価値の新たな可能性を探求している。
栁澤祐太(やなぎさわ ゆうた)
マーケティング本部 本部長
2009年にSEOコンサルティング会社に入社し、SEOの内部施策におけるアルゴリズム分析を担当。2012年以降はジャパネットたかたにて、インハウスSEOおよび集客業務に従事。2014年よりMOTAにてWeb戦略に携わり、2021年からはCMOとして、WebにとらわれずラジオやテレビCMも活用しながらユーザーに寄り添ったマーケティング課題の解決に取り組んでいる。
(24年10月21日取材/25年1月14日初出)
最後に:
一緒にチャレンジしてくれる仲間を募集しています!
最後までご覧いただき、ありがとうございました。読んで下さったみなさんの中にMOTAで新たなチャレンジをしたいと思ってくださる方がいらっしゃると嬉しいです。
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