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第5波はどのようにしてつくられたか

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

──私たちの多くは2020年4月から9月頃までコロナ対策の基本を順守していた。いま自粛していない人たちは、遅くとも2021年春から自粛を拒否していたのではないか。

あのとき私たちは何も知らなかった

2020年2月6日、ケイヒロは千葉県館山市でロケハン(撮影の下調べ)をしていた。早朝から房総半島南端部を行き来し、正午になり馴染みの飲食店に入った。

広く天井が高い店内では、茶は給茶器からのセルフサービス、注文さえ済ませば小皿料理などは取り放題という趣向になっているため客はカフェテリアのようにフロアを行き来していた。

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まだコロナ禍という意識さえ曖昧だった2月初旬は、マスクと消毒薬の不足が発生しつつあっても双方への期待は現在とあきらかに違っていた。

人混みではマスクをすべき。だが店に入るまではマスクをしていても、飲食店では席に着いたらマスクをすぐ外し、飲食が終わってものんびり過ごす。当時はこのような対応で問題ないと考えられていた。ケイヒロもまた違和感を覚えることなくロケ中の食事ポイントにしようと店内を撮影した。

あのとき私たちは何も知らなかったのである。

2020年2月初旬、未知のウイルスへの恐怖がありながらも現在からは考えられないほど人々はのんびりしていた。横浜港に停泊しているダイヤモンドプリンセス号こそがコロナ禍の象徴であり文字通り対岸の火事であったし、リモートワークの導入が叫ばれはじめていたがまだ普及していなかった。

この状況は月末までに目まぐるしく変化し人々の意識は日々アップデートされた。屋形船で行われた1月の新年会から多数の感染者を出したことが2月13日に発覚し、クラスターという集団の概念が一般に知られたことは衝撃的だった。これによって外国からもたらされたやっかいな対岸の火事が、自分たちと背中合わせの存在として認識されはじめた。

2月の半ば過ぎにケイヒロの撮影案件は新型コロナ肺炎の蔓延が不穏な状況になりはじめたため取りやめになり、3月末に志村けん氏が死亡したことで危機感と不安は一気に高まる。4月になると、それまで他人事だった人も我がこととして新型コロナ肺炎を捉えるようになったのだった。
(以下、記事中のカレンダーはクリックで拡大)

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2020年4月、「3密」の概念や手洗いの徹底などが広報された。こうしたコロナ対策の基本は時間をかけ徐々に認知されたのではなく幅広い層に一気に浸透した印象がある。唯一確実な防疫法であり誰もが実感から納得できる内容だったのが幸いしたのだろう。

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つまり、ワクチンと決定的な治療薬が実用化されていないにもかかわらず日本で感染者数と死亡者数を抑えられたのは、2020年の半ばまでにコロナ対策の基本は皆が知るところになっていたためと言える。

9月、ピーチ機内でマスク着用を拒否した男がトラブルを起こし、堀江貴文が餃子店のマスク着用ルールに難癖をつけやはりトラブルに発展した。このとき彼らを批判する声が多数で賛同者がほとんどいなかったのは、感染拡大を防ぐためマスクが欠かせないものであり、機内や店内は管理されていなければならないことが衆知されていたからだ。もはや常識だったと言ってよいだろう。

「3密」、手洗い、飲食の方法の知識が、4月から半年間実践され完全に根付いていたのだ。

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だが、コロナ対策の基本がこの頃から2020年年末にかけて崩壊していった。2021年3月から4月になると、コロナ対策の基本を順守しようとする人とおおっぴらに無視する人に二極化した。この動きを端的に表しているのが「路上飲み」で、4月に入ると著名人や政治家の自粛やぶりがたびたび報道された。

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ここまでをまとめよう。

2020年1月から3月いっぱいまで私たちは無知だった。

4月にコロナ対策の基本を皆が知るまでになる。直後の緊急事態宣言では、こうした防疫対策が徹底され感染拡大を抑えた。

だが9月になると反マスク、反自粛のうねりが浸透しはじめて、2021年の春にはコロナ対策の基本を無視する人たちが大発生した。

そして第5波到来を迎える。

何も知らなかった私たちは多くを学んだが、学んだことをまるでなかったかのように振る舞いはじめた人たちが第5波へのきっかけをつくったと言っても過言ではないだろう。

2021年7月の惨状

2021年7月31日、ツイッターに衝撃的なツイートが流れた。

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それは都内の居酒屋の様子だった。午後8時の店内は、私たちが街歩きの最中にちらりと目にしたり、たぶんそうなっていると察していたり、以前からSNSなどに流布されていた画像とオーバラップするものであったが克明に事実が映し出されていたことで衝撃が走ったのである。(魚の浜恵 有楽町産直横丁)

次に挙げるのは7月末の上野アメ横の様子で、外国人の記者がツイートした内容はあのとき、あの場に限ったものではないのがわかるだろう。

あめこ

上掲の写真が撮影されたのとほぼ同時期にアメ横でロケを行ったとする番組告知があった。

X3えのゆ

これはYouTubeの番組で後にDVD化され発売されるという。マウスシールドをつけた架乃ゆらさんは悪意なく「ここだよ」とポーズを取ったのだろうが、マスク着用で楽しいお買い物と書かれたバナーの前とあって皮肉な構図になってしまっている。

なぜ居酒屋での無秩序な飲食を撮影した写真に衝撃を受けマウスシールドに困惑するのかといえば、どちらも当人たちが感染の危険に晒されるだけでなく彼らを介して新型コロナ肺炎が蔓延する危険性が高いことを私たちが知っているからだ。

まず飲食、飲酒にまつわる危険性だが、前項で説明したとおり2020年4月から具体例を挙げて頻繁に広報されている。屋形船クラスターがあった。多くの人が志村けん氏が感染したのは接待が伴う店であろうと気づいたし、その後ホストクラブやキャバクラでのクラスター発生が幾度となく話題になっている。宴会、飲み会の危険性は周知徹底されているはずだったのだ。

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次にマウスシールドがいまだに使用されている問題だ。2020年6月頃に放送関係者と出演者、接客業でひろがったフェイスシールドとマウスシールドは効果がまったく期待できないと指摘されているにもかかわらず同年末から今春の深刻な感染爆発があっても、顔出しが必須とされる映像関係のロケーション撮影などで使用され続けている。

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マスクはタレントの顔が隠れるため使いたくない。でも何もしないのでは対策を怠っていると見られるので、効果がないことがわかっていてもマウスシールドを使うのだ。

第5波が到来している。感染力が高いδ株が蔓延している。老人ではなく中高年や若年層に重症化例がみられ医療を逼迫させている。なのに一般人は「自粛疲れ」と言い、映像業界は対策が難しいと言いつつ危険な状態をつくり出しているほか誤ったシグナルを出している。

1年半以上続くコロナ禍のせいで「自粛疲れ」で「そんなことは続けられない」というが、彼らは2020年年末あたりで手を抜きはじめ、今年の3月くらいから堂々と反自粛行動をとっている。2020年4月から11月くらいまで自粛して、残りの8ヶ月ほどは自粛していないとすれば自粛期間のほうが短いくらいだ。

なかには本年の7月頃から欲望のまま振る舞いはじめた人もいるだろうが、最近になって自粛するのをやめた人ばかりではないのは、ここ1年の繁華街の様子を見ていれば明白なのだった。



自粛したくない人は今後も自粛しない

いまの私たちは、コロナ禍初期の何も知らなかった私たちではない。第1波から第4波までの様々な不幸や不条理を散々経験してきたうえに、どうすればコロナ禍を収束させられるかを学んだ。

再度、列挙しよう。屋形船新年会から閉鎖空間での飲食について危険を知った。志村けん氏が闘病の末に亡くなったとき、志村けん氏が接待を伴う店で宴会をしていたのが報じられた。その後、ホストクラブやキャバクラでのクラスター発生が散々伝えられた。こうした経験をふまえ、コロナ対策の基本を実践してきた。

しかし、自粛する人々はコロナ脳と呼ばれた。経済を回すために飲食店は自粛するな、客は大いに飲食しろという言説が一斉を風靡した。こうした主張をする人のなかに「酒が悪いのではなく、飲みかたが悪い」「家族など身内で飲食するか、一人で来店するかしよう」「黙食、短時間の飲食をしよう」と呼びかける人がどれだけいただろうか。

2020年7月から8月にかけての惨状は、δ株の感染力の強さだけでなく常にいい訳を用意して欲望のままに振る舞う人々によってもたらされたと言ってよいだろう。

自粛していない人は昨年末から既に手を抜き、今春からは堂々と欲望のまま行動している。いっぽう多くの人は新型コロナ肺炎を制圧するため昨年の4月から行動を自制し安全性や医療の余裕をつくりあげてきたが、欲望のまま振る舞う人はこれらにただ乗りしてきた。

「自粛の必要性を自覚している人は自粛している。自粛していない人は、自粛しない理由を日々探している。自粛したくない人が自粛していない」のだ。

自粛続きでは店の経営が成り立たない、人々の行動を自粛へ促すには見返りとして給付金が必要であるといった事情はとうぜん無視できない。だから支援策は必要だが、この世に誕生してしまった「言い訳を探し続ける人々」と「言い訳を提供し続ける人々」は一朝一夕に消え去りはしないだろう。

彼らはただ乗りをして利益だけ享受しているという事実さえ認めようとしないはずだ。



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加藤文宏
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