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ライターの正解とはなんだろう?

何かを極めようと思ったら、がむしゃらにそればかりやる時期が必要だ。

例えば私が、全くの素人からいきなりシステムエンジニアとして就職した時は、1日の半分は、プログラムに向き合っていた。
基礎文法を学び、自分で書いてみて、なぜ正しく動かないのかを検証する。

素人はまずここがスタートであり、ここで自分のしていることに意味を見出せず心が折れる人には、たぶんシステムエンジニアは向いていない。よほどの天才でもない限り、最初から正しいプログラムは書けないので、怒涛の無駄な時間を過ごすことになるのである。

この無駄な時間の中から、ある時、先人の知恵を活用すると、楽ができることに気づく。例えば、複雑なプログラムになればなるほど、ダラダラと長いコーディングはトラブルの元であり、機能ごとにブロック化した方がわかりやすい、とか、同じ機能をもつルーチンプログラムは、共有財産として登録されているのでそれを使えば良い、とか。
そうやって、他人の知恵を使うことで、より早く正解に辿り着けるようになる。

私は、もともと過集中傾向がある上に、知らないことを学ぶことが面白過ぎて、気づくと就業時間を過ぎていることがしょっちゅうだった。新人は残業してはいけないという謎のルールがあったため、仕方なく、印刷したプログラムを持ち帰り、寮の自室で「ああでもない、こうでもない」と毎夜、机上デバッグしていた。それが、面白かったのである。

そんな経験があって、2年目には新人研修担当として、人に教えられる程度にはなった。

しかし、プログラマー修行ともいうべきこの経験は「正解がある」からできたことだったと思う。
もちろん、求められる機能に対して、書かれるプログラムは、その人の癖や技量に依存するところも大きいので、正解は一つではない。いくらルールで縛っても、個性は出る。けれど、必ず答えがある。「正しく動く」という答えが。
そして、時間をかけて、丁寧に積み上げれば、答えには必ず辿り着けるのである。

これに対して、ライターの正解は、わかりにくい。目的は「取材したこと(または、見聞して知ったこと)を、わかりやすく伝える」であったとしても、出力は人の数だけあり、どれが正解なのかわからない。
そしてまた、媒体ごとに正解も違うように思う。

私は「文章を書く以上、それが無記名のものであっても、私が書いたとわかるようなものが書けないといけない」とずっと思い込んでいた。個性が必要だと思っていたのである。

ところが、この「個性」が、邪魔な場面もあると知った。
商品説明や会社案内などの文章においては、書き手の個性は邪魔でしかないのである。

それを教えてくださったのは、バトンズの学校の古賀さんだ。
先日開催された補講の最後に、長めの質疑応答の時間があった。
私は、おずおずと今の悩みを口にした。

「お仕事をいただけるだけでも幸せなことだとわかってはいるが、時々、思ってないことを書くのが辛いことがある。良いと思ってない商品を褒めなくてはならない時など、嘘をついているようで、気持ちが悪い」

要約するとこういうことだ。

古賀さんは

「自分は、そういう時は、仕事は仕事と割り切って、職能を上げることに楽しみを見出していた。具体的には、文章からどれだけ自分の色を抜けるか、というチャレンジをして楽しんでいた」

というようなことを答えてくださった。

私は重ねて問うた。

「文章から自分の色を抜く練習は、その後、何かの役に立ちましたか?」

その時の古賀さんの回答が衝撃だった。

「大いに役立った。インタビューの主役はインタビュイーなのに、インタビュアーの個性が見える文章は、やっぱり良くないと思う。無色になれば、誰のどんな色にも染まれる」

すごい、と思った。
古賀さんは、若くてがむしゃらに過ごしていた時期に、今使える武器を楽しみながら磨いていらっしゃったのである。

そうか。
ライターとしての機能を求められる場では、個性なんていらなかったのだ。
それは「お前はいらない」と言われたような衝撃でもあったが、モヤモヤしていた頭の中がクリアになり、とてもスッキリした経験でもあった。

私がどう思うかは置いておいて、機能に徹してみよう。素直にそう思えたので、今は、とにかく機械のように仕事の文章を書いている。
余計なものを挟まない、放っておいたらすぐに顔を出してくる自我を見つけ次第潰す。
これはこれで面白いとわかった。

そしてたぶん、今の仕事で求められている正解はこれなのだ。
何本か書いてみて、編集さんから
「文章が変わってきましたね」
と言われ喜んでいる。

**連続投稿117日目**

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はんだあゆみ
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