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【読了】『落花流水』山本文緒

らっか-りゅうすい【落花流水】
落ちた花が水に従って流れる意で、ゆく春の景色。転じて、物事の衰えゆくことのたとえ。時がむなしく過ぎ去るたとえ。別離のたとえ。また、男女の気持ちが互いに通じ合い、相思相愛の状態にあること。散る花は流水に乗って流れ去りたいと思い、流れ去る水は落花を乗せて流れたいと思う心情を、それぞれ男と女に移し変えて生まれた語。転じて、水の流れに身をまかせたい落花を男に、落花を浮かべたい水の流れを女になぞらえて、男に女を思う情があれば、女もその男を慕う情が生ずるということ。▽「流水落花りゅうすいらっか」ともいう。

三省堂 新明解四字熟語辞典

読後、こんなに戸惑った作品は珍しい。
敢えて似た作品を挙げるなら「嫌われ松子の一生」が近いだろうか。
あの作品も松子という女性の一生を、詳かに紐解いて見せ
「こんなふうに生きた女がいたんですよ」
と読者に投げてくるのだが、投げられた私に話のキモがさっぱり伝わらない。
「で?私はここから何を受け取ればいいんでしょうか?」
というのが、両方に共通した感想だ。

受け取ったものを短くぴしりとまとめられる作品ほど、読後はスッキリするが、引っ掛かりがなくすぐ忘れてしまう。
そういう意味では「落花流水」は掴みどころがなく、けれど引っかかるところは多いという、不思議な名作なのかもしれない。

物語は、「手毬」と名付けられた1人の少女の人生を辿って進む。
7歳、17歳、27歳、37歳、47歳、57歳、67歳の6つのパートに分かれて、手毬が誰に出会い何を考えどう行動したのかが綴られる。

幸せな子ども時代が一転して暗雲に包まれ、不幸と貧乏のどん底で思春期を送ったのち、母の再婚でまともな暮らしを手に入れる手毬。
なのに、大学を出て結婚し、子どもが生まれてから、唐突に現れた初恋のハーフの男と駆け落ちして、田舎で農園経営の手腕を発揮し……と、目まぐるしいのだ。
ジェットコースターのように激しく上下する10年ごとの物語が、語り手を変えてつながっていくのである。

2度読み返したが、やっぱりよくわからない。
これはいったいどういう話なんだろう?
登場する女性たち(手毬、その母、その娘たち)は、自由意思で自分の人生を生きているようでいてみなどこか歪だ。
ゆがみの大元になったのは、17歳で手毬を産み、育てられないからと実家に預けた計画性のない手毬の母・律子の奔放さだろう。
何も考えずに母になり、手毬を実の親の戸籍に入れたかと思えば、またしても無計画に手毬を引き取り、ぼろぼろなアパートに小学生の我が子を1人放置して、自分は夜の仕事をしたり飲み歩いたりする。

その時の寂しさ、恨めしさ、悲しさが手毬の人生に影を落としているようにも読めるのだが、手毬は感情にフタをし過ぎて、どこまでも淡々としているので、何を考えているのかたまにしか見せてくれない。
母を見て「こうはなるまい」と思って生きてきた手毬なのに、嫌いな母親と同じように子どもを捨てて家を出ていくのだ。

ここがもう、さっぱりわからない。
母・律子の奔放さは、刺激に貪欲な性格ということでまだ理解できる。
ああ、そういう人いるよね、と思える。
しかし、手毬は、なにゆえ「初恋の相手」とはいえ、自分の娘をさらって薬物で眠らせ、脅迫するような男と駆け落ちしてしまうのか?
満たされなかった過去の自分を、明るい記憶の中の住人と添い遂げることで、満たしたいのか?

おそらく、出奔のきっかけは、手毬の娘なのだろうということはわかる。
手毬は母の再婚により18歳の時に、2歳の弟ができるのだが、育児などできようもない律子の代わりに、手毬が可愛がって育てたようなものだ。
その血のつながらない20代の弟が、自分の9歳の娘とベッドでイチャイチャしているシーンを手毬は目撃してしまうのだ。
私なら、娘にも弟にも裏切られた気がして、自棄になってしまいそうだ。
手毬の気持ちを想像すると、
「家族に恵まれなかった自分が、愛情を注いで作り上げた家族の中で、なんでこんなことが起きるの?!」
という、世界が崩れたような衝撃で発作的に家を出た、ということなのかもしれない。

けれども、手毬は語らない。
なぜそうするのか、なぜそうしたのか、手毬の人生が激変したきっかけを、手毬は語らずにストーリーは進んでいく。

出奔の理由だけではない。
駆け落ちまでした初恋のハーフの男とはのちに離婚するのだが、その理由も全く語られない。

「どこ?答えはどこにあるの?」

と、ものすごく焦らされている気になって、結局、最後まで読んでしまうのだけれど、どこにも手毬の答えはない。
律子だけが相変わらず楽しそうに生きているというところで、宙ぶらりんなままラストを迎えてしまうのだ。

むむむむ。
だめだ、私の読解力が足りないのか、相性が悪いのか。
話のテーマがなんなのか、結局最後までわからない作品だった。

もっと歳を取ったら、この全く明快でない小説の面白さを理解できるのだろうか。

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はんだあゆみ
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。 サポートは、お年玉みたいなものだと思ってますので、甘やかさず、年一くらいにしておいてください。精進します。